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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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100/104

100 秘匿名称“黄色の場合”

将軍の丘 第91歩兵師団司令部

第91歩兵師団長 ホーフェンベルグ中将


 師団司令部の一室に、指揮官達が集まっていた。

 現在進行中のルアブロン東街区正常化作戦を指揮するコールローザー警察大尉、オーレンベアク辺境伯爵家東征軍の救出作戦を指揮するシュラーガー中佐、そして両作戦を統括指揮するブリンクマン大佐の3名。

「ルアブロン東街区正常化作戦 緑の場合 の進捗は今のところ順調です」

 順調と言いながらもブリンクマン大佐の表情はどことなく冴えていなかったた。

「今後はどうなのだね?」

 私が尋ねると、ブリンクマン大佐に促されたコールローザー警察大尉が答えた。犯罪組織が多数の流民を密入城させていた事、その流民を就業させて利益を得ていたが、組織の壊滅により統制を失った流民達が貧民街に逃げ込んだ事、その流民と元からの住民が一触即発の状態になっている事。

「ふむ、暴動が起きれば周辺の勢力から介入を招くな」

「はい、閣下。目下のところ情報収集に全力を挙げています。場合によっては作戦 緑色の場合 に兵力の増強が必要です」

「どれほど必要かね?」

 私の問いかけにブリンクマン大佐が答えた。

「予備部隊から第100装甲大隊第7小隊と、師団司令部護衛中隊から1個小隊を考えております」

「装甲車両はいいとして、歩兵1個小隊で足りるのかね? 2個小隊連れて行き給え」

「しかし、それでは」

「軽歩兵もいる、彼等の忠誠に疑いは無い。心配いらんよ」

 私が微笑みながらそう言うと、ブリンクマン大佐は承知した。


「それで、 黄色の場合 はどうかね?」

 辺境伯爵家東征軍の救出作戦の秘匿名称は“黄色の場合”が指定されていた。

「はい、辺境伯爵家の同行者が決定しましたので、その分の車両と補給物資を準備しています。明日には全ての準備が整いますので、進発は明後日になる予定です」

「よろしい、連絡を絶やさないように。報告にあったケテリだったか、街の動向について追加の情報はあったのかね?」

「何も有りません」

 表情を曇らせたブリンクマン大佐が答えた。

「シュラーガー中佐、どうかね?」

「師団長閣下、戦闘団は不測の事態に対応できるよう体制を整えております」

 シュラーガー中佐が直ちに答えた。

 手元にある戦闘団の編成表を見ると、確かに現状では最良の陣容になっていた。


「戦闘団“シュラーガー”

 戦闘団本部(第100装甲大隊本部)

  偵察小隊(第191偵察中隊分遣隊・第100装甲大隊第8小隊)

  工兵小隊(第191工兵大隊分遣隊)

  高射砲小隊(第191高射砲大隊分遣隊)

  重装備小隊(第191歩兵大隊第8小隊)

  車両修理小隊(兵站本部派遣分遣隊)

  特別編成小隊“アントン”

 第1中隊(第100装甲大隊第1中隊)

 第2中隊(第191歩兵大隊第2中隊)

 第3中隊(第191砲兵大隊第5中隊)」


 他には戦闘団を支援する補給段列と可能な限り航空支援が付く。それに要請があり次第、工兵大隊主力も出動できるようになっていた。 

(とはいえ、戦闘団編成を組んだばかりで全隊での訓練など碌にしていないはずだが、それと・・・)

 私の視線は編成表の中の「特別編成小隊“アントン”」を捉えた。

「中佐、この特別編成小隊はどうかね?」

「特に問題はありません。ですが、運用には慎重を期します」

 シュラーガー中佐は一瞬の淀みもなく答えた。

「分かった」

 私の答えにシュラーガー中佐は微かに頷いた。

「シュラーガー中佐、私は君の言葉を信じる。ただ無理はするな、支援と増援は最大限応じる」

「了解であります、師団長閣下」

 最期はブリンクマン大佐が締めくくって会議は終了となり、指揮官達は部隊へと戻っていった。

(増援とは言ったものの、拠点をがら空きにして1個大隊が精一杯では不安がある。やはり直接指揮できる兵力を増やす必要はあるが・・・・。とにかく、今回の特別編成小隊の運用と結果をみて考えることにしよう)

 部屋に残った私は、机上の編成表を前に救出作戦と師団の今後を考えていた。



 ルアブロン東方郊外

 オーレンベアク辺境伯爵家 東兵営

 戦闘団“シュラーガー” 指揮官 シュラーガー中佐


 私は戦闘団本部に戻ると、2階にある会議室として使っている部屋に救出作戦に参加する部隊指揮官を集めた。

 集まったのは

  偵察小隊長  ヴィンターベルク中尉。

  工兵小隊長  リーガー上級曹長。

  高射砲小隊長 ハイスィンガー少尉。

  重装備小隊長 フライレート上級曹長。

  第1中隊長  バルクマン大尉。

  第2中隊長  へーネルト中尉。

  第3中隊長  フリーリング少尉。

 の7名だった。

「諸君、作戦は明後日0600に開始される。作戦内容と部隊編成は昨日説明したとおり、行軍順列も変更はない。第1目標も含めた現地情勢についての追加情報もない。従って戦闘態勢を維持したままの行軍になる、決して油断しないように」

 そう言って彼等を見渡すと、皆が厳しい面持ちで頷いた。

「まあ、現地で最も心配されるのは道路の状況になるだろう」

 私がそう言うと、指揮官達は軽く笑ったが、第1中隊長のバルクマン大尉だけは険しい表情で質問してきた。

「第1目標には情勢不明のまま接近するのですか?」

「そう言う事だ。すでに辺境伯爵家が出した伝令が行方不明になっているし、向こうから連絡を取ろうとする気配がないところを見ると、完全に敵対していると考えていいだろう。へたに刺激せず、奇襲のつもりでいく」

 私が答えると、バルクマン大尉は小さく溜息をついて了解した。その様子を見て他の指揮官達が視線を交わしていたが、バルクマン大尉は気が付かなかった。

「そうなると、第2目標も怪しいと言う事でしょうか?」

 代わって質問してきたのは偵察小隊長のヴィンターベルク中尉だった。

「その可能性はある。しかも第2目標は守備隊が駐屯する軍事施設で、かつ最前線だ。かなりやっかいな事になるだろう」

「何か手立てはないのですか?」

 ヴィンターベルク中尉が質問を重ねたが、私の答えは同じだった。

「そもそも情勢が不明なんだ、対策を立てようがない。ただ、辺境伯爵家の特命全権公使が同行する事になっている。それで解決しなければ、我々の出番だな」

「了解しました、中佐殿」

 ヴィンターベルク中尉はやるべき事が分かって満足したようだったが、バルクマン大尉は眉間に皺を寄せて考え込んでいた。

「何か質問があるのかね、大尉?」

「いいえ、中佐殿」

「よろしい」

 私は視線をバルクマン大尉からヴィンターベルク中尉に移した。

「中尉、先遣隊に特別編成小隊が加わる」

「はい、中佐殿」

 ヴィンターベルク中尉の返答で警戒しているのが分かった。特別編成小隊の指揮を任されると思ったようだ。

「試験運用を行う。私の直属とするが、部隊の指揮は現地人の元騎士が執る。戦力評価を頭に入れておいて貰いたい、結果が良好なら拡大する予定だ」

「承知致しました、中佐殿」カツン!

 中尉の表情は一転して安堵に満ちていた。


 私が直卒する先遣隊は戦闘団の前方に位置し、進路偵察と威力偵察を兼ねながら目標まで速やかに前進することになっている。

 先遣隊の編成は、私が乗車する装甲指揮車を先遣隊本部として、これに辺境伯爵家の特命全権公使一行25名が随行する。指揮下部隊は、偵察小隊と第2中隊から1個歩兵小隊、工兵小隊から1個分隊、高射砲小隊から軽高射砲3門。そして特別編成小隊“アントン”となっていた。部隊は全て自動車化されていて、特命全権公使一行と特別編成小隊“アントン”も例外ではなかった。

(全部隊が4輪駆動か装軌車両で機械化とは贅沢極まりない。火力も装甲車の25ミリ機関砲と軽戦車の13ミリ機銃に加えて、20ミリ軽高射砲もあるから充分だろう)

 20ミリ軽高射砲3門は、本来は搬送用のトレーラーで牽引されて移動し、射撃の際はトレーラーから降ろして地上に固定されて射撃するのだが、今回は兵站本部整備部が改造した4輪駆動の3トン積みトラックの荷台に搭載された自走軽高射砲となっていた。20ミリ軽高射砲は荷台に固定されており、荷台の左右と後部のアオリを倒すと荷台と一体化して銃座として機能する造りになっていた。この為地上に展開する手間が無く、対空対地どちらにも素早く対応できるようになっていた。

(弾薬トレーラーも牽引するから、ある程度は独立して戦闘を行える。比較的簡単な改造でできるのも良い。後は車体に装甲を施して防御力があれば言う事は無しだ)

 私はテッタウ少佐以下の兵站本部の仕事ぶりに非常に満足し、感謝していた。

(この手の火力増強は歓迎すべきだ。弾薬の心配はあるが、効果は大いに期待できる。本当なら13ミリ機銃が一番良いと思うのだが、魔物が象やサイぐらいの生物だと仮定すると20ミリクラスなら確実だろう)

 辺境伯爵家からの情報によると、第2目標の東端までは魔物と接触する可能性は少なく、脅威も低いと言われていた。だが、我々の最終目標は東端の向こう側、多数の魔物が跳梁する世界なのだ。

(正に未知の世界だ。もし機関砲が通じなければ戦車を呼び寄せれば良いが、それも通じるかどうか保証はないのだからな)

 私はそう考えながら、帝国軍で配備が始まった最新型の戦車の噂を思い出した。

(確か、Ⅲ型の最新であるJ型は60口径50ミリ砲を搭載しているのだったな、長砲身高初速の50ミリ砲なら・・・)

 同じ50ミリ砲の新型砲弾として開発され、配備が始まっている成形炸薬弾と合わせれば、撃破できない戦車は無いと言われていた。

(せっかく成形炸薬弾があるというのに・・・)

 実は補給処に備蓄されていた弾薬の中に、配備済みの50ミリ対戦車砲用に配分された成形炸薬弾も入っていたのだ。この砲弾は互換性があり、対戦車砲でも戦車砲でも使用する事ができた。

(だが、我々が装備している共和国製の戦車には、勿論使用できない・・・)

 共和国軍のS型戦車が装備する32口径47ミリ砲は、同程度の砲としては優秀な性能であったが、Ⅲ型Jの60口径50ミリ砲を知ってしまうと見劣りがした。

(しかも使用できる成形炸薬弾があるから尚更だ・・・、対戦車砲を自走化できれば・・・)

 師団の再編成時にその考えをテッタウ少佐に話したのだが、改造にかなり時間が掛かると言われて保留にされていた。

(いかん、思考が脱線してしまった。切り替えなくては)

 ふと、我に返ると皆が私に注目していた。

「すまない、考え込んでしまった」

 苦笑いとともに謝罪すると、同じく微笑みが返ってきた。

「・・・先遣隊も本隊も火力は充分だ、航空支援も受けられる。それでも対処できない場合は一時撤退だ、無理はするなと師団長閣下から命令を受けているからな。無論、撤退するのは私が命令を下した時だけだ」

 皆が笑顔のまま頷いた。

「戦闘団としての訓練が不十分なのは承知している、従って齟齬が生じる場合もあるだろう、だが、万難を排して作戦を成功させるんだ、いいな?」

「了解しました、中佐殿!!!」ガヅン!!!

 私は彼等の返答に迷いがない事に非常に満足して、指揮官達を解散させた。


ちょうど100話となりました。沢山の方に読んでいただいて感謝しております。

正直に申し上げますと、気色悪い感想を書かれて以来、進みが芳しくありません。投稿が不定期になるかもしれませんので、お知らせしておきます。書いていれば何かしらあるだろうと思っていましたが、実際に経験してみると思っていたよりも精神的なダメージが大きいです。

完結させる。を目標のひとつにしていますので、達成できるようほどほどに頑張ります。

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