4-5 真矢との別れ
翌朝、俺はホテルのロビーでスマホの画面をチェックした。
「むう、音沙汰なしか」
やはり謎解きメールは今日も届いていない。調べる事がもう無くなったのでいい加減そろそろ来てほしいのだが……。
「うーん、謎解きメールは来ていないみたいだね。仕方がないから待っている間観光でもするかい?」
「いやそういうわけにはいかないだろ。そりゃ新鮮な海の幸とかは食べたいけどさー」
「なら駅の近くにあるカレイの素揚げを食べられるお店がオススメだよ。ノドグロの煮つけも美味しかったし」
「へー、なんて店なん、だッ!?」
しかし俺はいつの間にか会話をしていた相手が真矢である事に気付いてかなり驚いてしまった。しかも何事もなかったかの様にニコニコ笑ってやがるし。
「どうしたんだい、そんなに驚いて?」
「いやそりゃ驚くよ。釈放されたのか? 厳密にはこの言い方は正しくないけど」
おそらく真矢は俺と同じ様に非合法なやり方でどこかに監禁されていたはずだ。烏丸は法律に則って拘束したわけではないのでもし訴えればきっと余裕でこちらが勝てるだろう。もっともその訴える相手が警察だから揉み消されるだろうけども。
「ううん、朝くらいに脱走してきた。鍵開け技術でちょちょいとね」
「ああそう。お前何でも出来るんだな」
「探偵ですから」
だが彼女は笑顔でそんなとんでもない事を言い放った。もっとも留置場から脱走したら問題だが彼女の場合は無理やり監禁されていたわけだからセーフなのかな?
「んで? お前の事だから左門が殺されたのはもう知っているだろう。調べる人間がいなくなったわけだがこれからどうする?」
「僕は烏丸を調べるつもりさ。真犯人の大物代議士の親族を庇うため捏造を指示した疑惑がある、つまり黒幕かもしれないあの男をね」
「お前もそう思っているのか。真犯人が不動幹事長の親族だって」
それはニュースでも報じられていた最もポピュラーな説だった。ひねりが無くてつまらないが真矢もどうやらその説を支持している様だ。
「実際事件当時現場近くに住んでいた不動幹事長の親族の風間和彦は小学生への痴漢の容疑で捕まったけどそれは優秀な弁護士によって揉み消されている。そして穂久佐村連続幼女殺人事件の前に子供を追いかけ回す不審者の情報があったけどこれもいつの間にか不自然に黙殺されている。二人が同一人物である可能性は十分にあるけどその証拠はない。ただずっと家に閉じこもっている風間和彦はそう簡単には会えないからまずは烏丸のほうを先にね。取材も殺到していてかなりガードが固くなっているだろうし」
「それは構わない。実際俺も親族の男は怪しいとは思っているし烏丸も同じくらいに怪しいと思っている。俺は捕まっている時に烏丸と話をしたが……もう本人も忖度があって捏造したって認めてたしなあ」
「……ふーん、そうか。君もその情報を手に入れたんだね」
俺は早速手に入れた情報を彼女と共有する。実際あいつが後から気付いたのに揉み消したのは間違いないだろう。
無論どのタイミングで冤罪だと気付いたのはわからないけども彼は警察組織を護るためにそれを隠蔽し萩野弘の刑は執行されてしまった。隠蔽は組織ぐるみで行われ別に彼だけに責任があるわけではないだろうがそれは糾弾されて当然の事のはずだし何かしらの罰は受けるべき事柄には違いない。
「ごめん、急な用事が出来た。これからはしばらく別行動だ。君も観光でもなんでも好きに行動するといい」
「え? あ、ああ」
そして真矢は何を思ったのか足早に去っていく。だけど俺はその背中に危ういものを感じてしまい思わず左肩を掴んでしまった。
「また捏造するのか、真実を。今度は烏丸を終わらせるのか」
「だとしたら君はどうするんだい?」
真矢は振り向き――ひどく冷たい表情をしていた。それは俺でもたじろいでしまうくらいに般若の様に恐ろしいものだったんだ。
「確かに烏丸は許されない事をした。少しくらいなら無茶をしても構わない。だけど最後の一線は越えるな。俺が言えるのはそれだけだ」
「……ありがとう」
俺はそれだけ言うと真矢はそのまま振りほどく様に立ち去った。
宙ぶらりんになってしまった俺の右手はどうする事も出来ず、その寂しげな背中を見送る事しか出来なかったんだ。




