4-4 悪意に満ちた考察をする民衆
さて、真矢の無実が証明されたところで俺は穏やかな気持ちになりながらドン・キホーテ事件の事を調べていた。
元々明日から鑑識の左門の事を調べるつもりだったがその左門は今しがた生中継で殺されてしまった。つまりとっても暇になってしまったわけである。
「ふむふむ」
だが俺は改めて検索エンジンのトップページを見て衝撃を受けた。先ほどの生中継はもうトップニュースになっており報道に携わる人間も含めてかなりの人間があの事件に注目している様だ。
今は丁度ニュースをやっている時間だしテレビもつけてみよう。こちらはまだ生中継の事はやっていないがやはりドン・キホーテ事件絡みのニュースを報道している様だ。
『――とも言われていますが』
『この動画はハッキリ言って現代の技術では素人が作成することは不可能です。おそらくこれは本物でしょう』
ポチン。これはダメだな、他はどうだろう。
『そして我々のインタビューに、当時の捜査関係者はこう語った』
『はい、捏造や忖度は間違いなくありました』
ポチン。これもどうでもいいか。
『答えてください幹事長! 人が死んでいるんですよ! あなたが圧力をかけたんじゃないんですか!?』
『……………』
ヒステリックに叫ぶ女性レポーターは答えてくれないとわかりながら大物代議士の背中を追った。これも代わり映えしないしどうでもいいな。
やはりテレビはどれもこれもワンテンポ遅れているし週刊誌の記事をそのまま垂れ流しているだけだ。見る価値もないしやはりネットを中心に調べよう。
ネット上では以前から穂久佐村連続幼女殺人事件とドン・キホーテ事件の考察合戦がなされていたが四人目の犠牲者が出た事でさらに過熱した。どれもこれも根拠に乏しいが一応世間の声を調べる意味合いも込めて調べてみよう。
まずは穂久佐村連続幼女殺人事件からだ。
『真犯人はやはり最初から言われている様に楊彩文だろう
楊彩文は娘を殺したのを隠すため姉歯美鳥を殺害した
在日は基本嘘しかつかないしこれで決まりだな』
『刈部プロデューサーはどう考えても怪しい
警察が何度も調べたところに突然足が落ちていて
それをスクープとして報道した
都合が良すぎるにもほどがある
スクープを作るために自分が事件を起こしたかも
実際他のニュースでやらせがバレて左遷されたし』
『古豊千泉も怪しいだろ、第一この前実際にやらかしたし
今思えば夫の急死も最初は疑われていたのに何も言われなくなったなあ』
『もういっそ誰も死んでないんじゃない?
姉歯美鳥は誘拐された子供だった
彼女は自分の足を自分で切断して死を偽装、そのまま逃げだしたんだ』
SNSのコメントには様々な根も葉もない憶測が書かれていた。だが中でも飛びぬけて有力とされるのはやはりテレビで報道されている様に不動幹事長の親族が真犯人とするものだった。
『難しく考える必要はないだろ
もともと親族の男はアリバイがあったけど
それは虚偽だってもうわかってる
親族の男を犯人に出来なかった警察は荻野弘を生贄にしたんだ
今の鳥取県警の警務部長は不動幹事長の親戚だし闇を感じるよ』
「……………」
穂久佐村連続幼女殺人事件のリサーチはこんな感じか。
でも鳥取県警の警務部長って権田原さんの事だろうか。彼は不動幹事長の身内だったのか? 後で聞いてみるのもいいかもしれないな。
様々な悪意のある発言に陰鬱な気分になりつつも俺はどうにか堪えて今度はドン・キホーテ事件について調べた。
『少なくとも犯人の一人は萩野キホの娘で確定だろ
荻野キホは本当は生きていたがその人生は決して幸せではなかった
娘はそんな人生を自分と母親に強いた警察に復讐しようとしたんだ』
『大男は実は萩野弘だった
萩野弘は実は生きていて自分と家族を不幸にした奴ら全員に復讐しているんだ』
『それじゃあ普通過ぎるだろ
二人目の被害者以外の死体は見つかっていないんだ
しかも一人目の更家警視にいたっては死んでいる姿も映っていない
黒幕は更家警視だ』
……調べるのはこれくらいでいいだろう。なんかもう疲れた。それにしてもみんな好き放題言いまくっているなあ。
この事件は不幸になった人間が大勢いる。だがこいつらは誰も真実を知らないというのにどいつもこいつもエンタメ系のコンテンツとして消費していたんだ。これは現実に起きた事件であり決して茶化してはいけない事だというのに。
いや、それだけならまだいい。問題はその妄想を真実だと思い込み正義に酔いしれながら糾弾している事だろう。それはハッキリ言って悪よりも遥かにタチが悪かった。
全員狂っている。間違っていた時に一体誰が責任を取るというのだ。それにこれでは真実は永遠にわからないだろう。
警察はもちろんマスコミにも頼れない。
奴らは誰一人として真実を追求しようとしていないのだ。彼らが求めているのは結局視聴率や正義という名のカタルシスだけなのだから。
やはり俺たちがやるしかないか。真実に辿り着けるかどうかはわからないがこうなりゃとことんやってやるさ。




