3-17 ティアラを護るための嘘
毒を以て毒を制す。悪徳プロデューサーを倫理的に問題がある手段で叩き潰し役目を終えた俺は少し気がかりな事があったので再度病院を訪れていた。
「あ、お兄ちゃん!」
しかし彼女の下に向かう前に俺は病院の入り口でティアラちゃんと出会ってしまった。むう、もうちょっと心の準備をしたかったのに。
「やあ、ティアラちゃん。すっかり元気そうだね」
俺は苦笑しながら当たり障りのない事を聞いた。というかこういう場合の正解があるなら是非とも教えてもらいたいものだ。
「うん! 病気が治ったからもう退院していいって! これでまた学校に通える様になるしたくさん遊べるんだね!」
「そう、だね」
ティアラちゃんの喜びと希望に満ちあふれた目を俺や同行していた両親は直視する事が出来なかった。この様子だと本当の事はまだ教えてもらえてないんだろうな……。
「でも白鳥先生にお礼を言いたかったのになー。どこ行っちゃったんだろう。手紙渡したかったのに」
「……さあね」
何も知らない彼女にとってはあの女は今でも恩人だ。たとえ知らないうちに人生を滅茶苦茶にされていたとしても。
医療スタッフもその名前が出てきて一様に気まずそうな顔になった。白鳥の起こした事件はドン・キホーテ事件と並んで連日報道されているし、というか今もその辺にカメラがあるからバレるのも時間の問題だとは思うけどな。
「それじゃあ俺が先生に渡しておくよ」
「本当!? じゃあよろしくね!」
だけど到底俺に真実が話せるはずもない。こうして届くはずのない手紙を預かる事が俺に出来る唯一の事だった。
この手紙を渡したところであいつは改心しないだろう。きっと感動はするが罪悪感なんて人間らしい事は感じないに決まっている。
「さあ、行こうか」
これ以上ここに留まっていてはいつマスコミに話しかけられるかわからない。父親はそう促し早めにその場を離れようとした。
「うん! じゃあね、ばいばいお兄ちゃん!」
「ああ、元気でな」
結局俺は真実を伝える事が出来ないままティアラちゃんは病院を去ってしまった。果たしてこれが正しい選択だったのか――わかるはずなんてなかったんだ。
「ティアラ!」
「え?」
「ん」
しかし病院を後にしようとするとどこからか凛々しい少年の声が聞こえる。
それはナイト君のものだった。真実が明るみになるきっかけを作った彼も当然事情は知っているだろうけど、その時の姿はまるでお姫様を救いに来た騎士の様に頼もしかったんだ。
「俺が、俺がお前を護るから! どんなに辛くて悲しい事があっても全部何とかするから!」
そして騎士は姫に対して誓いの言葉を言った。それは偽りだらけのこの陰鬱な事件の中で唯一心が救われる美しい光景だったんだ。
「えへへ、よくわかんないけどありがとー」
ティアラちゃんはその意味がよくわかっていなかった様だけどふにゃふにゃとした笑顔で感謝した。これがもうちょっと年齢が上なら恋が始まりそうだけど二人の場合はどうなるのだろう。
ならばこれ以上はお邪魔虫だな。後の事は小さくも勇敢な騎士に任せて脇役は退散するとしよう。こんなにもティアラちゃんの事を思ってくれているナイト君がいればきっと彼女は大丈夫だろうから。




