3-16 はじめてのねつぞう
真矢と共犯関係になる事を決意した俺が意気揚々と向かったのは何故か拠点のビジネスホテルだった。
「なあ、何で俺達はホテルにいるんだ。作戦会議をするのか?」
「いや、今回の捏造はネットをメインに使ってみようかなと。いわゆる炎上だね」
「炎上? 随分とスケールが小さいというか……そんな事であいつらに痛い目を見せられるのか?」
だが彼女が提案した方法はそんなショボいものだった。てっきりもう少し極悪非道な事をすると思っていた俺は拍子抜けするも彼女はチッチッチ、と指を振って否定する。
「古いね、サンチョ君。ネットは不確かな情報でも一瞬で世界中に拡散して簡単に人を社会的に抹殺する事も出来るんだ。別件で掴んだ弱みもあるからそれも上手く使ってみようか」
「はあ。まあやるだけやってみるか」
俺は釈然としないものがあったが言われるがままノートパソコンの前に座る。まさか元警察官の俺が炎上請負人になるとはね。親父はきっと草葉の陰で泣いているだろうなあ。
「今回の炎上の肝になるのは隠しカメラ、そしてここにある募金の着服の証拠だ。後は白鳥とのやり取りを偽装したものをネットにあげればいい」
「着服って。いつの間にそんなものを」
「元々はこれを使ってプロデューサーを攻撃しようと思ったんだけどね。人々の善意のお金が遊ぶ金に使われている、ただでさえ二十四時間やってるテレビは批判も多いから最高の火種になるだろうさ」
真矢はUSBメモリを取り出しそれをパソコンに突き刺してデータをコピーする。これからこれを使って悪い事をすると思うと不安になってしまうがどこか興奮してしまうな。
「で、これが白鳥との通話アプリのやり取りを偽装した奴。よく出来てるでしょ」
「へえ、そっくりだな。どうやって作ったんだ?」
「普通に偽装出来るアプリがあるんだよ。お金に困ったら週刊誌に売って小遣い稼ぎも出来るからやり方を覚えておくといいよ」
「ほーん」
続けて真矢はどこからどう見ても本物にしか見えないやり取りをした画面もコピーした。もしかして俺が聞いた事があるゴシップネタもこいつの仕業だったりするのだろうか。
「同じ人が投稿したら不審に思われちゃうし複数のアカウントを使い分けつつ後は上手い具合に回すだけさ。ネット民は自分で手にした情報が正しいと思う傾向にあるから一方的に与えず時間差でやってみようね。」
「お前なんつーか……怖っ」
さらにさらに彼女はどさどさとたくさんのスマホをカバンから取り出した。かなり手馴れているしきっとこうした作業をしたのは一度や二度ではないのだろう。
「そうそう、これも上手く使うといい。自動的に場に合わせたコメントを考えて発言してくれるAIが仕込まれたプログラムさ。言わせたい言葉を仕込む事も出来るからAIと人はもちろんAIとAI同士を喧嘩させたりも出来るね。ある程度炎上させたら後はこのプログラムに任せちゃおうか」
「ごめん、ちょっとついていけなくなってきた。時代は進んでるんだなあ」
「まあこれも希典さんの発明品をちょろまかした奴だけどね。役に立つガジェットを使いこなして戦うのが一流の探偵の最高にクールなスタイルなんだよ。さあ、早速やってみようか」
「あ、ああ!」
正直全く知らない事ばかりだから上手くいくのか自信はなかったけど自分で言ったからにはやるしかない。それじゃあ気合を入れて炎上させるか!
……………。
その後も複数のアカウントを駆使してひたすら情報を流し、ようやくネットニュースになった頃にはもう俺の出番は無くなった。実のところほぼほぼ真矢の手柄だったけど俺も少しは貢献していたと思いたい。
チャリティー番組の不祥事は元々疎ましく思っていたネット民にとっては最大のご馳走だったらしく我先にとピラニアの様に群がって情報を食い漁る。最早火消出来ないレベルまで炎上したのでこちらに捜査の手が及ぶのも時間の問題だろうな。
話題になっているのはもっぱら俺たちが暴露した隠しカメラ、着服の証拠、そして偽装した画面だがしばらくしてトピックは別のものに変わってしまった。
『あいつは別の企画でも人を殺している』
その一つはこんな感じのもの、そしてもう一つは、
『穂久佐村連続幼女殺人事件は彼がスクープを手にしたいがために自ら起こした』
というなかなかショッキングなものだった。無論俺はどちらも信じてはいないがこれであの事件の犯人に関する新しい仮説が生み出される事だろう。実際刈部が足を見つけた時の状況は不自然な点が多々あったから何かしらの後ろめたい事はあるかもしれないし。
『ちょっと! 逃げないでください! あなたがやったんですよね!』
『しつこいな、うるさいよ!』
動画サイトでは迷惑系動画主が突撃取材をしておりプロデューサーはかなり苛立っていた。こういう事をすると普通は動画主のほうが嫌われるが今回ばかりはヒーロー扱いをされている様だ。
その悪態は更に炎上を加速させて取り返しのつかない状態までズタボロになっていく。こうなってしまえばもう彼はもう社会的地位を取り返す事は出来ないだろう。
「ふああああ」
とにかくこれだけやれば十分だ。俺はあくびをして背伸びをし仮眠をとる事にした。ここ最近はずっとパソコンにかじりついていたからな。
「ん」
けれどSNSが更新されて新たなコメントが表示される。これは確か真矢のアカウントだったか。たくさんあるから全部は覚えてないけど。
『無実の罪で犯人にされる気分はどうかな?』
コメントにはそれだけが記されていた。それは炎上目的ではなくきっと彼女の本心から来る言葉だったのだろう。
「……………」
真矢は何を思ってこんな事をしたのだろうか。彼を社会的に抹殺しあらぬ罪を作り出して満足なのだろうか。
少なくとも俺は、目的を達成したのにどこか虚しさを感じていたけれど。
「眠たいのかい、サンチョ君」
真矢は特に表情を変えず俺にそう尋ねた。今のコメントに関しては……聞く必要もないか。
「ん、ああ。真矢は?」
「僕は平気さ。もう炎上させるのもこのくらいでいいだろう。僕は左門の捜索に切り替えるよ」
「そうか、俺も」
俺はかなり眠たかったが真実のカギを握る左門を探したかったのでベッドから身体を持ち起こした。時間は一分一秒も無駄には出来ないからな。
「だから僕一人で十分だって。徹夜だったんだし君は寝ておきなよ。相手は警戒しているから技術がない君じゃ足手まといになる。しばらくは僕一人で行動するから君は君のしたい事をするといい」
「そういう事なら。じゃあ寝るわ」
しかし真矢はやはり俺を仲間に入れてくれなかった。その主張は理に適っているとはいえ不満はあったけど本音では心の底から眠りたかったしここはお言葉に甘えて一休みするとしよう。
そして目を閉じて十秒後――俺はすべての情報をシャットダウンし夢を見る事もなく瞬く間に眠りに落ちてしまった。




