3-15 捏造に手を染める堤三千世
そして一夜明けて俺達はティアラちゃんの病室に向かっていた。
なお白鳥は警察に引き渡したのでティアラちゃんは正しい検査を受けている。これで最初から全くの健康だったのに病気の子に仕立て上げられたのなら目も当てられないけど……あのサイコパスの事だからもしかしたらそうなのかもな。
白鳥は当然逮捕されて重い罰が下されるだろうが失った時間はもう戻ってこない。この救いようがない悪意に満ちた理不尽な物語はとてもではないがチャリティー番組では放送出来ないだろう。
「いやあ、ゆうべはとっても激しかったね」
「変な言い方をするな、真矢。事情を知らない人間が聞いたら誤解する……ん?」
「あ」
しかし病室の前まで移動すると俺たちは今まさに部屋に入ろうとするテレビスタッフたちと出会ってしまった。向こうはかなりバツが悪そうな顔をしていたが真矢はもちろんそんな空気なんて読まずに彼らに話しかける。
「大変でしたね。折角撮影したのにお蔵入りになって」
「あ、ああ、そうだな」
プロデューサーは苦笑していたが口数が少なかった。職質のノウハウを知らなくてもこいつがかなり挙動不審である事は誰が見てもわかるだろう。
「きっとティアラちゃんはもうすぐ退院するでしょう。なのでぬいぐるみを回収して渡しておこうかなと」
「え? それは」
そして真矢がそう言った途端プロデューサーはあからさまに表情が強張ってしまった。彼女もその意味を理解しているのか試す様に不敵な笑みをしてしまう。
「何か僕らがぬいぐるみを回収しては不都合な事でも?」
「……いや、もちろんあ、あるわけがないだろ。じゃあ俺たちはこのへんで」
何かを見抜かれている。プロデューサーはそう直感し怯えて逃げる様に去ってしまった。ふむ、随分と気になる行動だったがその意味はこれからすぐにわかるだろう。
「やれやれ、少しは隠そうとしろよ。完全にあいつは何かやってるな。それで調べたい事ってなんだ? っていうかそれは何なんだ?」
プロデューサーがいなくなった後真矢は八木アンテナの様な装置を持ってティアラちゃんの病室を調べていた。これも探偵の秘密道具的な奴なのだろうか?
「これは電波を発生するもの、つまり電子機器を調べるために使う装置だね。探偵はこういう事もやってるんだよ。最近は皆あちこちに盗聴器とか隠しカメラを仕掛けているからね」
「ほへー」
探知機は聞き慣れないみょんみょんとした不可思議な音を奏でる。動き回す度に音はわかりやすく変化しているがその変化がどういう意味なのか俺にはさっぱりわからなかった。
そういえばなんかこういうのをテレビで見た事があるな。警察も持っていた気がするし。俺は使った事はないけども。
「僕の予想だと……お、あったあった」
しばらくして真矢はクマのぬいぐるみを調べる。すると音がキュイイン、と変化し、俺でもここに何かがある事がすぐに理解出来た。
「それって確かプロデューサーがプレゼントしたっていう」
「そうだね。てい」
真矢は躊躇う事無くカッターナイフでぬいぐるみの顔面を切りつける。するとそこから白い綿とぬいぐるみには本来あるはずがないカメラが出てきたのだ。
「っ!? 何でそんなものが」
「簡単な事だよ。彼らはこれでティアラちゃんの異変を察知していたんだ。何か視聴率が取れそうな事が起こればすぐに駆け付けられる様にね。携帯の電波障害やぬいぐるみの向きがいつの間にか戻っていたのもそういう事なんだろう」
「そうか、それでベッドに隠れる前にあんな指示を……待て。まさか白鳥とプロデューサーはグルだったのか!?」
「さあ、そこまでは。けど間違いなく犯行には気付いていただろう。彼らはそれを知っていながら何食わぬ顔でティアラちゃんが苦しむ姿を撮影していたんだ」
俺は言葉を失ってしまう。あの純粋無垢で何の罪もないか弱い少女は白鳥だけではなく他の人間からも標的にされていたのだ。どうしてこれほどまでに彼女だけが苦しい思いをしなければならないのか――俺は悔しくて仕方がなかった。
「けれど断言は出来ない。もし共犯関係になくたまたま知ったとするならばこの企画も当然お蔵入りになるだろうしこの監視カメラの事も闇に葬り去られるだろう。証拠があまりにも乏しすぎるからね。追及しても白鳥のものだって言い張ればそれまでだし」
「そんな……」
俺は歯を食いしばって屈辱に耐える。しかし真矢はいつもの様にあくどく、それでいてどこか決意に満ちた顔をして笑ったんだ。
「サンチョ君。僕はこれから一仕事する」
「いつもの捏造か」
「ああ。それしか奴らを裁く方法はない。君はどうする。元警察官としての矜持を捨てて一線を越えられるのか。正しいか正しくないかは重要じゃない。君にはそれが出来るのか、出来ないのか。重要なのはそれだけだ」
真矢は俺に問いかける。もし踏みとどまる事が出来るのならここが最後のチャンスだろう。
葛藤がないと言えば嘘になる。けれど彼女の正義を知った今となっては前ほどその行為に対して嫌悪感はなかった。
そして、迷い抜いた俺は覚悟を決めて答えた。
「正しいだけじゃ救えない人もいる。俺はそれを知ってしまった」
「……………」
「やらせてくれ。俺に一線を越えさせてくれないか」
それが俺の出した答えだった。それが正しいのかどうかはわからなかったけど――ここでそれをしなければ後悔すると思ったからだ。
「なんだか微妙に卑猥な言い回しだね。はいはい、わかったよ。君に学校じゃ教えてくれない捏造のイロハを教えてあげよう」
しかし真矢はクスッと笑いそう言った。しかし今更その微妙に誤解されそうなセリフを訂正する事は出来ない。締まりがなくて恥ずかしいけどここはシリアスモードを貫こう。
「さあ、望むままに真実を作ろう! 君はどんな真実がお好みかな?」
その時の真矢はどういうわけかかなり嬉しそうだった。それは正義に固執する俺をようやく仲間に出来たという勝利宣言だったのかもしれない。
「ああ、こうなりゃとことんやってやる。頼むぞ、真矢!」
「うん!」
いや、というよりもこれは秘密の友達が出来たという喜びだろうか。もしかしたらそんなどうでもいい事は微塵も感じていなかったのかもな。




