3-13 白鳥に仕掛ける罠
真矢が何かを調べている間俺は必死で子供たちと遊んであげた。といってももっぱらプロレス技の練習台にされて遊ばれていただけなんだけど。
子供との遊びは結構体力を使う。まあまあ限界が来ていたところでやっと真矢が戻って来て俺の役目は完了した。
「やあ、お疲れ様」
「ふぃー。ようやく戻ったか。で、首尾はどうだ?」
「ああ、どうにか探る事が出来たよ」
真矢は満足げにニッと笑う。だがそれは同時に残念な知らせである事も覚悟しておかなければならないだろう。
そして人気のない場所に移動し真矢は入手した情報を教えてくれた。
「裏付けは取れた。ティアラちゃんの容態に異変があるのは決まって白鳥が当直の夜だけだった。何かを仕込んでいるとみて間違いないだろう」
「やっぱりか」
それは確たる証拠にはなりえないが外堀は一つ埋まった。これでナイト君の証言はより信憑性が増しただろう。
「で、どうする?」
「証拠を集めるよりも普通に現行犯で捕まえたほうが早いだろうね。もしかしたら今夜にもティアラちゃんは殺されてしまうかもしれないし……ここは罠にかけてみよう」
「罠か。それはどんなものだ?」
自体は急を要するのでもちろん俺はその提案に反対しなかった。今はとにかくまず第一にティアラちゃんを護らなければいけないのだから。
「折角だ。ここは感動的な事が大好きな彼らを利用させてもらおうか」
「彼ら?」
そして真矢はいつものように何かを企んでいる悪い笑みをした。相変わらず憎たらしいくらいに素敵な笑顔をしやがる。
そいでもって場面転換して俺たちは今ティアラちゃんの病室にいる。そして部屋の主であるティアラちゃんは今鉛筆を持って可愛らしい天使が描かれた便箋を前にあれこれ格闘していた。
「むーん、どんなのがいいかなあ」
「君の好きなように書くといいよ。ああ、カメラはダメだよ。内容を映したらつまらないだろう?」
「それもそうだな」
刈部は真矢の説明に納得し、最初こそカメラを回していたけど大人しく去っていく。
そう、これは病院モノでド定番の手紙イベントだ。日頃の感謝の想いを親しい人に書くわけだけどこの手のイベントは書いた人間が死ぬ事によって成立する様になっている。そして死んだ後に遺族とかが読んで号泣するんだよな。
「うふふ、気になるけど見ちゃダメだよね」
「うん、まだ恥ずかしいから」
ティアラちゃんは白鳥先生に対しても手紙を書いているのだろう、すぐにガバッと両手で便箋を隠した。
「……もしかしたら私、そうなっちゃうかもしれないからね。だから今のうちに残しておきたいんだ」
「大丈夫ですよ。ティアラちゃんには私が付いていますから。絶対に未来を奪わせません。私は絶対にあきらめませんから! だから病気になんて負けちゃダメですよ!」
「えへへ、ありがと」
「っ」
そして俺は見てしまう。白鳥のあまりにも悍ましすぎる天使の笑顔を。だがその笑顔の意味はその正体を知っている人間以外にはわからず両親はただただ微笑ましそうな笑顔をするだけだった。
彼女は酔っていたのだ。このくだらないやらせだらけのリアリティーショーに。
こいつの目的はきっと怨恨でも歪んだ正義漢でもない。俺は詳しくないが医学的には代理ミュンヒハウゼン症候群というものに近いだろう。彼女は自らを主役にしたドラマを作るためにこの可哀想な少女を標的にしたのだ。
こんな感動的なイベントをこいつが逃すはずがない。ドラマのクランクアップのために彼女は今晩確実に仕掛けるはずだ。そこを俺たちが現行犯で捕まえればいい。
だが失敗してしまえば――それは即ちティアラちゃんの死を意味する。だから絶対にミスをするわけにはいかない。
俺はニコニコ笑いつつも忘れかけていた正義の心と情熱を瞳に宿し激しい憎悪の感情をこの悪魔に向けた。
覚悟しろ、白鳥。俺達は絶対にお前の正体を暴いてティアラちゃんを助けるからな。




