3-12 百万騎士の告発
翌日、刈部プロデューサーについて調べるため俺たちは引き続き病院に潜入した。話をする約束はしていないが彼らはティアラちゃんに密着しているので彼女に張り付けば遭遇する事は出来るはずだ。
だけど直接会って穂久佐村連続幼女殺人事件で捏造しましたよね? ちょっとお聞かせ願えますか? と聞いたところで絶対答えてはくれないだろう。しかも相手は高給取りのプロデューサー、お金では解決出来ないはずだ。
とにかく様子を見るついでにティアラちゃんの病室に行こう。無事だといいんだけど。
「あれ」
というわけでティアラちゃんの病室の前に行くとそこには部屋の前で寂しそうに佇んでいるナイト君がいた。病室にも入らず何をしているんだろう。
「どうしたんだい、ナイト君」
「あ、えーと、ティアラの生き別れのお姉さんだっけ?」
「という設定だけどね」
その強烈な設定のおかげでナイト君は俺たちの事を覚えてくれていた様だ。まあ彼の話だとまだ何人もいるっぽいけど。
「ティアラちゃんはいないの?」
「いや、いるんだけど入りにくくて」
俺が尋ねるとナイト君は躊躇いがちにそう答え、
「な、なあ、ちょっとこっちに来てくれ」
「?」
と、震える声でそう申し出たんだ。何かよろしくない予感がするけども……。
そして俺はナイト君に案内されて人があまりいない駐車場の片隅へと移動した。その顔はとても深刻そうなので真剣な話をしようとしている事はなんとなくわかるよ。
それももちろんティアラちゃん絡みの事のはずだ。悲しい話じゃないといいんだけどそうはならないだろうな。
「ごめん、急に呼んで。だけど相談出来そうな大人がお姉ちゃんくらいしかいないから。なあ、俺が今から話す事を信じてくれるか?」
「ふむ、まずは言うだけ言ってごらん。信じるに値するかどうかはそれから決めよう。僕は警察じゃなくて探偵だから信憑性があれば子供の言う事でもちゃんと聞くよ」
「う、うん」
真矢にそう促され、ナイト君は勇気を振り絞って震える声で語り始めた。
「実はその……俺見たんだ。前に白鳥先生が夜中にティアラの部屋に忍び込んでなんかしているのを」
「ええと、それはどういう経緯でそうなったのかな」
時間帯にもよるがここは病院なので面会時間が過ぎている夜中にお見舞いに行く事は出来ない。俺がその疑問を問いただすと彼は少し怯んだけど話を続けた。
「その日は昼間会えなくて、けどどうしてもお見舞いがしたくてこっそり夜中に病院に来たんだけど……病室で白鳥先生が注射器を持って眠っているティアラに何かをしてたんだよ。お医者さんだからそういう事もするのかな、と思ってたんだけどそれからティアラの体調が悪くなって死にかけて……とにかく絶対におかしいんだ!」
「それはまた、ふぅむ」
ナイト君は嘘を言っているように思えなかったけれどその話をすぐには信じられなかった。だけどもしかしたらそれは白鳥先生に感じた奇妙な感覚と関係があるのかもしれないな。
「どう思う、真矢」
「そうだね。僕も彼女の言動には違和感があった。こういう場合殺害の動機となりうるのは怨恨や安楽死させてあげようという歪んだ価値観が多いけど……彼女の場合は多分違うだろうね。まずは調べてみようか。もしかしたらプロデューサーに話を聞く糸口になるかもしれないし」
「ああ、もちろんだ。彼女が何かをしているのなら元警察官としても見過ごせないからな」
「本当か!?」
俺達がその依頼を引き受ける事にするとナイト君は泣きそうな顔で大喜びをした。ティアラちゃんを助けたいという彼の期待に応えるためにもここは精一杯頑張らせてもらおう。
「ああ、俺達に任せておけ。こいつは人間性に問題はあるがなんだかんだで優秀な探偵だからな」
「ちょっと聞き捨てならないけど……まずはティアラちゃんの病室に行ってみようか」
「うん!」
真矢はナイト君を安心させるために笑顔でそう言った。それじゃあ何か手掛かりがあるかもしれないしまずは病室をくまなく調べるとしようか。
白鳥はティアラちゃんに毒物を投与しているのではないか――そんな恐ろしい疑惑を調べるために俺たちはまず彼女の病室に向かった。
「あれ、真矢ちゃん」
「やあ、お見舞いに来たよ。なんか大変だったって聞いたけど大丈夫そうだね。お土産のぬいぐるみだよ」
「わあ、ありがとう!」
「これはこれは、ありがとうございます」
真矢はまずお見舞いにペンギンのぬいぐるみを渡してほのぼのとした空気を演出する。ティアラちゃんはともかく一緒にいる両親に嫌われたら捜査が面倒くさくなるからこういうひと手間は大事だろう。
ティアラちゃんは危篤になったらしいけど見た感じケロッとしている。だがあの異変が薬による一時的な物ならそれも納得だ。
「ナイト君も今日もお見舞いに来てくれてありがとうね!」
「あ、ああ」
ティアラちゃんは素敵な笑顔だったけどナイト君は気まずそうに目を逸らした。これから俺たちがしようとしている事は彼女が敬愛する白鳥の罪を暴く事だからそんな事を言えるわけなんてないよな。
「それにしてもたくさんぬいぐるみがあるんだね」
真矢は部屋の中に置かれたぬいぐるみに注目した。そこには様々な種類のぬいぐるみがありずいぶんと賑やかだったけど、お見舞いに来る人がほとんどいないと考えるとそれは物悲しさを演出させる小道具にしかならなかった。
「あのへんがお父さんとお母さんがくれた奴でー、あれがナイト君がくれた奴でー、このクマさんがプロデューサーさんがくれた奴だよ!」
「へえ、あのプロデューサーさんが。結構いいところあるんだね」
ティアラちゃんはお友達でもあるぬいぐるみを自慢したけど俺はあの悪徳プロデューサーがぬいぐるみをプレゼントしたという事実にかなり驚いてしまった。あるいはただ単に信頼関係を築くか映える絵を撮るためにプレゼントしただけなのかもしれないけど。
「ひっ」
「あれ、ナイト君また怖がってるの? こんなに可愛いクマさんなのに」
「だってそれオバケがいる奴だし」
だがナイト君はクマのぬいぐるみに恐怖してしまいそんな不思議な事を言ってしまう。それは子供特有の妄想だったかもしれないけれど真矢はもちろんその発言を逃さなかった。
「ええと、それはどういう意味なんだい?」
「そいつは机の上が定位置なんだけどさ……前に何か視線を感じて不気味だったから窓側に向きを変えてその後ティアラと一緒に病院を散歩したんだよ。だけど散歩から帰ってきたら向きが戻ってたんだよ」
「ふーん」
それは怪奇現象というには奇々怪々なものではなかった。普通に考えれば看護師さんとかが勝手に戻したのだろう。だけど真矢は何かが気になった様でそのクマのぬいぐるみを手に取りじっと見つめた。
「よし、次に行こうか。といってもサンチョ君は何もしなくていい。二人の遊び相手になってくれ」
「え、うん」
そして部屋を調べ終わった後、俺が何かをしようと提案する前に真矢は先んじて戦力外通告を出した。
釈然としないものはあったけど注意を逸らす大事なミッションだと解釈しておこう。プロの探偵である真矢の情報収集能力は俺よりもはるかに優れているから役に立たないだろうし。




