3-6 島根県西部の都市、鰈浜にて
真矢がドン・キホーテ事件に関わっているのではないか。
茶町の発言に思う所はあったが俺はそんな不安を車を運転する事で吹き飛ばした。少なくともこうしてハンドルを握っている間はそんな考えはどこかに飛んでいくからな。
果てしなく広がる紺碧の日本海の海岸沿いに並んだ何機もの白い風車は潮風を一身に受けてゆったりと回転する。
真矢はそんな壮大な眺めにおお、と感嘆の声をあげた。俺も脇目でそれを見て少しは穏やかな気持ちになれたよ。
もうすぐ目的地の鰈浜だ。余計な事は考えずに仕事に集中しよう。
……………。
ようやく鰈浜に辿り着いた頃には夕方になってしまったのでその日は車中泊をして翌日市民病院を訪れた。
「僕の調べによると三隅さんは元々星鳥大学病院に勤めていたけど今はここ鰈浜市民病院に勤務しているらしいね」
「医者だから忙しいだろうなあ。前みたいに謎解きメールの奴がアポイントを取ってくれているといいんだけど」
鰈浜市民病院は六階建てで山陰の地方都市にしてはかなり大きい部類に入り島根西部の医療の基幹を担っている。だがこういう病院は往々にして待ち時間が長いものだ。俺達は病気になっているわけじゃないが待たずにサクッと行けるといいんだけども。
俺達は受付で三隅さんと話せるか交渉する。だが思いのほかあっさりと居場所がわかったので早速彼がいる小児科病棟へ移動した。
「ええ、じゃあそちらはお任せします」
早速俺は医療スタッフに指示を出している三隅さんを発見する。ニコニコして随分と人当たりが良さそうなおじいちゃんの先生だ。医者というのは偉そうな態度をとる奴も多いけど第一印象は悪くない。
「すみません、あなたが三隅先生ですか?」
「ん? 君たちは……」
「自分は探偵の寺町真矢といいます。で、こちらは助手の堤三千世君です」
「堤と申します」
「ああ、君が。そうかそうか」
そのリアクションから俺は彼が穂久佐村連続幼女殺人事件に関しての事情を聞いている事を察した。ならここは余計な手間をかけずにすぐに行けるかな。
「大体の話は聞いている。しかし今は忙しいんだ。すまないが診療時間が終わってから私の部屋に来てくれるかね?」
「あ、はいそれはもちろん」
残念ながら今すぐにとはいかなかったものの約束を取り付ける事は出来たので、俺達は彼に感謝の言葉を述べてその場からいったん離れようとした。
「ん?」
けれど俺は廊下の奥に静かな病院には似つかわしくない一団がいる事に気付いた。その人間たちはカメラや機材を携え何かの撮影をしている様だ。無論あれがテレビ局のクルーである事はわかるが何をしているのだろう。
「ああ、あれは二十四時間やってるテレビの撮影だよ。うちの小児科病棟の患者さんに密着しているんだ」
「ふーん」
不思議に思っていると三隅さんは困った様に説明してくれる。だがその表情と口ぶりからあまりいい印象は抱いていない様だ。
「それじゃあサンチョ君、ここにいても仕方がないし適当に時間を潰そうか」
「そうだな。それじゃあまたお仕事が終わってから」
「ああ、またね」
もちろんカメラの撮影が入っていても俺達には関係ない。俺は先生にそう告げて今度こそその場から移動しようとした。しかし、
「ああ、ちょおい! そこの人!」
「え?」
何故か撮影スタッフが駆け寄って来て俺に話しかけたのだ。まさか気付かないうちに何か迷惑になる事をしてしまったのだろうか。というか病院の廊下を走るんじゃないよ。
「いやあんたじゃない、そこのお姉さんだよ!」
「え、僕? 僕になんか用ですか?」
だが撮影スタッフは俺には見向きもせず真矢に話しかけた。初対面の人間にあんたと呼ばれてイラッとしてしまうがそれよりもなぜチャリティー番組のスタッフが真矢に話しかけたのだろうか。
「実はちょっとお見舞いに来る人が急遽来れなくなって代役を頼めませんかね? もちろん謝礼は渡しますので!」
「はい?」
けれど彼はそんなわけのわからない依頼をしたので些細な苛立ちの感情はすぐに吹っ飛んでしまう。しかも真矢も真矢でうーん、と悩んで考えこんで、
「ええ、いいですよ」
と、深く事情も聞かず即答してしまったのだ。
……ホワーイ?




