3-7 この作品はフィクションです、実際の二十四時間やっちゃってるテレビとは何の関係もございません
というわけで今俺の目の前、病気の子供が入院する病室では謎のドラマが繰り広げられていた。
「わあ! ティアラちゃんすっかり大きくなったね~」
「えへへ、お姉ちゃんも久しぶり!」
真矢は眼鏡とカツラで軽く変装し彼女の従姉を演じた。だがこんなわけのわからない仕事を引き受ける真矢も真矢だがそれを受け入れる女の子も女の子である。
彼女の名前は波路上姫冠というらしい。今時な名前のセンスについてはツッコまないでおこう。
「って、なんかごめんね、いきなり無理を言って。私もどうかなあとは思うんだけど」
「いいよ、面白そうだったから。お金ももらえるし」
ティアラという少女は元々人懐っこい性格だったため早速真矢と打ち解けた様だ。二人が楽しくやっているのならそこは問題ないけどやっぱり俺は困惑のほうが勝っていた。
「大丈夫なんですかね、これ」
「バレなきゃ問題ないよ、皆普通にやってるし」
「まああなた方がいいなら構いませんが」
プロデューサーの人の発言から察するにこういうのは日常茶飯事な様だ。何やらテレビ業界の闇を見た気がするよ。
「けどここまで来るのに大変だったでしょ?」
「大丈夫大丈夫、最初は走っていたけど間に合いそうになかったから車を使ったんだ。ほら、ムー〇ン好きだったよね? 買ってきてあげたよ!」
「わあ! これで寂しくないよ! お友達が増えたね!」
「本当に……会いたかった……会いたかったよぉ! ごめんね、ティアラちゃんが一番辛い時にそばにいてあげられなくて……!」
「お姉ちゃん……お姉ちゃあん! 大好きだよ!」
「うわぁ」
もちろん二人は今日会ったばかりの見知らぬ他人である。だが真矢は熱演して涙を流し先ほど購入したお土産をプレゼントして想い出の品に代えてしまう。なんつーか普通に怖いわこいつら。
「ぐすん、良かったね、ティアラちゃん……!」
「いやあんたも何泣いてるんですか」
しかも何故かそれを見ていた女医さんも感動のあまり涙を流してしまった。こんな茶番で泣けるなんてどういう神経をしてるのだろうか。
プルルルル、プルルルル。
しかしその感動的なシーンに水を差す無粋な音が鳴ってしまう。どうやらスタッフさんのスマホの様だ。
「てめ馬鹿何してんだ切っとけよぶっ殺すぞ!」
「ひぃ! すみません!」
ここは病院なのでもちろん携帯の電源は切らなければならないがプロデューサーはそれ以上に撮影の邪魔をした事に激怒してしまった。けど仮にも病院なんだからそんな言葉は慎みましょうよ。
「って、GPからです!」
「何!? すぐに貸せっ!」
けれどその相手が目上の立場の人間だとわかった途端に彼はスマホを奪い取り通話をした。どうやらこいつもここが病院だという事を失念しているらしい。GPってゼネラルプロデューサーの事だっけ? どのくらい偉いのかよくわからないけど凄そうな名前だよな。
「あ、どーもどーっ」
『てめぇとっとと出ろやボケカスッ! 死ねッ!』
「ひぃ! すみません、今撮影中でしてっ!」
『撮影!? ふーん、まだ撮影してたんだ、てっきりとっくの昔に終わってると思ってたわ、どんだけ遅いんだよッ! こんなクソみたいな部下がいたら鬱病になっちゃうなー!? 俺が自殺したら責任取れよアアゴルァ!?』
「はいい、すみませんッ!」
相手の声はスピーカー機能が無くても聞こえるほど大きかった。部下が部下なら上司も上司なのか。テレビ業界って大変なんだなあ。
『お前……ジッ……馬鹿…………ザザッ、聞いてんのかッ!?』
「すす、すみません、電波が悪いようなので後で折り返し掛けます!」
しかし幸いにして途中で電波が乱れてしまったためプロデューサーはそれを理由にして電話を切った。だけどこれどうせまた後でボロカスに怒られると思うぞ。
「大丈夫ですか? なんか揉めてましたけど」
「き、気にしないでください、いつもの事なので! うーん、ここはもうちょっと感動的なほうがいいかな。ここは内容を含ませて感情移入しやすくするため恋愛絡みでトラウマを抱えている設定で行きましょう」
けれどプロデューサーは先ほどの事は無かった事にしてすぐに平常心に戻り更に無理難題を押し付けてこの三文芝居を続行させてしまう。これは真矢もさすがに怒るのでは……。
「わかりました。では結婚の約束をしていた彼氏の二股現場を目の当たりにして男性不信になったという設定で行きますか。でしばらく行方をくらましていたと。恋人の名前は出口兼雄でいいですか?」
「おお! いいですね~! じゃあスタート!」
うん、それは俺の思い過ごしだった様だ。真矢はかなりノリノリで楽しんでおり役になり切って演技を始めた。こいつにとっては普段やっている事の延長線上だからそんなに抵抗はないのだろうか?
「すみませんね、変な事に巻き込んで」
「いえ、俺は別に構いませんけど。相方も楽しんでいるみたいですし」
俺は女優真矢の即興劇を遠目で見ながら少女の両親と会話をする。だが苦笑しつつも止めない辺り二人もこれを受け入れている様だ。
「元々自分たちは震災で宮城のほうから引っ越してきたので知り合いがあんまりいないんですよ。それで仕方なく盛り上げるために姪を呼んだんですが昨日夜逃げしてしまって……しかし放送の都合でどうしても今日収録しないといけなかったそうです」
「よ、夜逃げですか」
「はい。ホスト遊びにハマって闇金から借金をしていたそうです。二千万くらい。失踪の数日前に家が津波で流され病気の娘がいる私たちに土下座してお金を貸してほしいと頼んできました。もちろん断りましたがね」
「わお」
俺はもちろんそいつの事は知らないが父親の話を聞く限り正真正銘のクズだった様だ。俺がそいつの身内なら即座に縁を切るだろうな。
偽物とはいえそんな人間が今感動を生み出している。なるほど感動ポルノとはこうやって作られるのか。俺はとても虚しい気持ちになってしまった。
「白鳥先生もこの茶番に付き合っていただきありがとうございます」
「いえいえ、ドラマを見ているみたいで楽しいですから~」
また母親は仕事を中断して協力してくれた白鳥という女医に感謝をした。リアクションを見る限りその言葉は本心からのものらしい。まあコントと思えば確かに面白いかもな。
「そう、わかったでしょう? 本当は私はあなたの生き別れの姉だったの!」
「そ、そんなー! ずっと会いたかった……お姉ちゃん……お姉ちゃあん! 大好きだよ!」
しかしちょっと目を離した隙に超展開が訪れていた。女の子のほうはちゃっかり台詞を使い回していたけど一体何があったらこうなるんだ?




