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捏造探偵~ドン・キホーテの大罪~その探偵は真実を葬り偽りの罪を作り出す【完結】  作者: 高山路麒


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3-1 傷心中の堤三千世

 ――十年前、堤三千世の視点から――


 ぼんやりとした意識の中、俺は記憶の中を漂っていた。


『父さん?』


 そこは東京の実家で父さんは珍しく昼間から酒を飲んでいた。それも全然楽しそうではなく、ひどく苦しそうに。


『……三千世か』

『どうしたのさ、昼間からこんな強い酒を飲んで。父さんらしくないよ』


 空気の読めない俺でも流石にわかる。俺の父親は今やけ酒を飲んでいるのだと。そして堅物の父さんですらそうなるに至ったその理由はとても深刻な何かである事も。


『父さんらしいか。なあ、お前にとって俺はどんな父親なんだ?』

『え? そりゃ正義感が強くて、信念もあって、刑事になるために生まれてきたような人じゃないかな』


 父さんはその言葉に寂しそうに尋ねたので、俺は少し迷ってしまったが父さんを励ますため少し照れながらそう答えたんだ。


『違うんだ』

『え』

『俺はな、お前が思っているほど立派な人間じゃないんだよ……!』

『父さん?』


 それは初めて見る父さんの涙だった。父さんは歯を食いしばり嗚咽を漏らしながら振り絞る様にそう言ったんだ。


 これがずっと憧れていた父さんの背中なのか。なんて弱々しくて小さな背中なんだ。本当に目の前にいるのは俺の父さんのなのか。


『……まあ、飲み過ぎない様にね』


 だけど何も出来なかった俺はそんな当たり障りのない言葉で気遣うだけで精一杯だった。それが何の意味もなさないと知っていながら俺は彼のために何もしなかったんだ。


 そして、その日の夜。


 父さんはいつも仕事に行く時につけていたネクタイで首を吊って死んだんだ。


 ……………。


 くーん。


 サンチョくーん。


「さーんーちょーくーん」

「ギョエー」

「ん」


 俺は能天気な真矢の声と不細工なオウムの鳴き声で意識を取り戻した。どうやら考え事をしてボーっとしてしまった様だ。


「どうしたのさ。もしかして鳥恐怖症だった?」

「いや、違うけど」


 意識が戻った事で俺は周囲に音が溢れている事に気が付いた。草花に囲まれた俺は四方八方から聞こえる鳥の鳴き声や翼を広げて羽ばたく音に圧倒されてしまうがすぐに我に返って自分が今何をしているのを思い出した。


 ここは稲子の左側に位置する島根県の県庁所在地、神在かみあり市にある鳥専門の動物園だ。


 いや、動物園という表現も相当ではない。その場所には頭上に、床に、至る所に色とりどりの花が咲き誇っていた日本とは思えない未開の楽園の様な場所だったのだ。


 花と緑の香りは疲れ切った身体を抱きしめ、鳥は鳥籠の世界というには贅沢過ぎる囲われたドームの中を優雅に飛び回ってこんな素敵な場所だというのに元気のない俺を不思議そうに見下ろしている。まったくもって自由気ままで羨ましいよ。


「あ、そろそろペンギンが来るよ!」

「ああ」


 真矢は俺をほったらかしにして子供の様にはしゃぎよちよちと散歩をするペンギンの群れの中に突っ込んでいった。けどあんまり騒ぎ過ぎるのもよくないから皆はほどほどに楽しもうな。


 しかし独りぼっちになってしまったな。今は憂鬱な気分なので別にそれでも構わないが……。


「ギョエー」

「ん? 話し相手になってくれるのか」


 けれどそこにアホ面のオウムがやって来て俺を真っすぐ見つめた。折角だしこいつと遊ぶのもいいかもしれないな。


「シネ、カトウセイブツドモヨ!」

「焼き鳥にして食うぞコラ」


 が、おそらく来園者によって変な言葉を覚えさせられたオウムは翼を広げてなかなかな言葉を言った。


「ムム、コレデモコワガラナイカ! デハコレハドウダ! クスリヲシテイルゲイノウジンヲハッピョウシマース!」

「面倒くさい人に絡まれるからマジで止めて!?」

「ギョエー!」


 続けてオウムはヤバイ事を平気で言ったので俺は慌ててオウムの首を絞めた。こういうガチの人が食いつくネタはマジでやめてほしいものだ。


 仕方ない、このオウムがまた問題発言をする前に早く離れよう。これ以上はきっと世界が滅んでしまう。


 俺は急いで真矢と合流し一緒にペンギンを眺める。ああ、なんて安全で可愛らしいペンギンだ。やっぱ動物園に来たならこういうほのぼのとした空気を楽しまないとな。


「あれ、結局君もペンギンさんが見たかったんだ」

「違う、世界を護るためだ」

「?」


 真矢は俺の発言の意味が分からず首をかしげてしまう。けどこれは別にわからなくてもいいのだ。というかわかってはいけないのだ。


「というか君、もうちょっと楽しみなよ。ペンギンさんがいるんだよ? ペンギンさんを見て幸せにならない人なんていないはずなのにどうしてだい?」

「そりゃな……お前この間の事を忘れたのか?」


 けれど真矢は間違いなく心の底から楽しんでいたが俺の気持ちはそれどころではなかった。何故なら俺は自分勝手な独り善がりの正義により三人もの人の命を奪ってしまったからだ。


「もちろん覚えているよ。だからこうしてノートや事件の解明そっちのけで遊びに来たんじゃないか。君を励ますためにね。もっといい理由が欲しければもうそろそろ三通目の謎解きメールが来るだろうからそれを待っているって事で」

「つってもなあ」


 俺を気遣う真矢の気持ちはありがたかったがそれですぐに気持ちを切り替えられるほど俺は単純じゃない。やっぱり彼女には悪いがしばらくは立ち直れそうにないだろうな……。


「ふーむ」


 そんな俺の様子を見て彼女は難しい顔をして考え込んでしまう。そしてしばらくしてから、


「そうだ、あそこに行ってみようか。あそこならきっと君も楽しめるかもね」


 と、提案してにっこりと素敵な笑顔になったのだ。


「んあ?」

「グワァ?」


 俺が首をかしげるとペンギンも意味もなく真似をする。流石にメンタルがこんな状況で妙な事はしないとは思うがどこに連れて行くつもりなのだろうか。

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