2-20 鳥取県警警務部長、権田原権蔵との対峙
場の空気を悪役レスラーの様に巧みにコントロールするこの権田原という男はやはり怪物だ。こりゃ戦いは棄権したほうが良さそうだな。
「話せる範囲なら話してもいい。あんたには隠しても無理そうだ。けどこっちも警察で掴んでいる以上の事実は知らないぞ」
「それはどの事件の事だ? マンションでの殺しか? ドン・キホーテ事件か? それとも連続幼女殺人事件か?」
「全部だ。ちなみにマンションは倒れた女性から今在家という元検察官のホームレスが財布を抜き取ったのを目撃した。それ以外にあいつが女性に何かをしたかどうかはわからないが……まあ現場周辺の監視カメラでも調べればそれくらいわかるだろう。他にもいろいろとな。後はあんたも知っての通り追いかけようとしたら別の警察官に俺が捕まったというわけだ」
俺は観念していつの間にか情報を話していた。実際俺は隠すほどの情報は持っていないし話しても問題はないだろう。こんな無意味な取り調べはさっさと終わらせるに限る。
「ああ、マンションに防犯カメラはあったが録画はされていなかった。どうやら随分前に壊れてそのまま修理代をケチってほったらかしにされたらしい。まあカメラのランプが点灯していなかったから注意深く観察している奴ならそれに気付いていたかもしれないけどなあ。犯人や隠蔽工作をした人間は」
「……………」
権田原はそう告げると憎たらしい笑みを浮かべた。
これはどう解釈すればいい。堂々と犯行現場で何かをしていた真矢は当然その事実に気付いていたとして権田原もそれを疑っているのだろうか。
だとすればかなりピンチだ。このままでは真矢が捕まってしまう。
……いや、別に構わないのではないか。元々俺も彼女の違法行為には憤慨していた。いっそここで話してしまえば……。
俺は真矢を売るべきか悩む。そのほうがいいに決まっているではないか。彼女を護る義理なんてどこにある。
「かもしれませんね。俺はたまたま現場に居合わせただけなのでよくわかりませんが」
けれど俺の口から出たのはそんな言葉だった。俺はどういうわけか真矢を庇ってしまったのだ。
それが自分でも不思議でならなかった。俺はあいつの事を嫌悪していたはずなのにどうしてこんな事を言ってしまったのだろう。
「ふふ、そんなに怖がるな。心配しなくてもマンションでの殺しは適当にやっておけば解決出来るだろう。ちなみに今在家はマンションから逃げた後ちゃんと別の警察官に捕まったぞ。お前が言ったとおり被害者の財布も持っていたから何かをやったのは間違いないだろう。今は別室で取り調べをして犯行を自供しているよ。あと数日もすれば証拠も集まって逮捕出来るだろうな」
「そうですか……」
権田原は笑いながら今在家のその後を教えてくれた。実際彼が被害者の財布を奪ったのは俺もこの目で見たので間違いないし、彼が何かしらの方法で襲撃して財布を奪ったと考えるのが自然だろう。
ただその場合何故真矢が偽装工作を行なったのかは謎ではあるのだが……真矢はどうしてあんな事をしたのだろうか? あいつが怪しかったのは誰が見ても明らかだったというのに。
「ちなみに被害者はあの後どうなりました?」
「意識不明の状態で病院に運ばれしばらくは生きていたが亡くなったよ。死因は後頭部を尖った何かで殴られた事によるもの。近くの郵便受けの角に血が付着していたから恐らくもみ合いになって押し倒されそこにぶつかったんだろうな」
「っ」
また権田原は女性の死因も教えてくれたが俺はそれが間違っている事に気付いていた。どうやら警察はまんまと真矢の偽装工作に引っかかってしまったらしい。
このまま黙っておくべきだろうか。しかし状況からして今在家が犯人と考えるのが自然だ。ならばここで伝えたところで結末はそれほど変わらないか……?
「まあ別にこっちはどうでもいい。君の証言と事実は矛盾していないし証拠は何もしなくても集まるだろうしな。少なくとも今在家が倒れた被害者から財布を奪った事は紛れもない事実だ。君も今在家が犯人と思っているんだろう? それとも他に隠している事があるのかな。まあ話したくないなら無理に話さなくてもいいけど」
「……………」
ニヤニヤと笑う権田原はおそらく気付いている。真矢が偽装工作をした事を。
だが動揺してはいけない。一瞬でも隙を見せたら俺はこの羊の皮を被った狼に食い殺されてしまう。彼女を護るためにも平常心を装わなければ。




