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捏造探偵~ドン・キホーテの大罪~その探偵は真実を葬り偽りの罪を作り出す【完結】  作者: 高山路麒


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2-21 真相を追い求める権田原

 だがしばらく待っていると彼は唐突に別の話を切り出した。


「ただその代わりにドン・キホーテ事件の事を教えてほしいんだが。というかむしろこっちが本題だね」

「ドン・キホーテ事件を?」


 俺はその話題に変わった事で一瞬安堵してしまう。自分が疑われているかもしれない事件の話題になって安心するというのも変な話ではあるが。


「今はどこもかしこもトップニュースだから君もあの事件については知っているだろう。ましてや殺された更家警視と乙亥正は君と因縁のある相手だったからね。ああ、もちろん別に君を疑っちゃあいない。だから安心してほしい」

「本当ですか?」

「本当本当。だってずっと尾行していたら生中継で事件が起こっちゃったもん。君が無関係だって事は俺たちが一番よく知っているよ。勝手にコソコソつけて悪かったね」

「そ、そうですか」


 俺はその言葉に不安と安心が入り混じった奇妙な感情になってしまった。だがそういう事ならでっち上げで犯人される事はなさそうだ。何故ならほかならぬ警察自身が俺のアリバイを証明してくれたのだから。


「いえ、それは嘘ですね。ならどうしてここに呼んだんですか? というかさっきおもっくそ昭和の刑事が恫喝してましたし」

「ふむ、まあそう思うよな。一旦怖い思いをさせてから安心させて情報を引き出そうと思ったんだが」

「正直言えばいいってものじゃないと思いますよ」


 しかし俺はすぐに矛盾に気付いて指摘すると権田原は笑いながらすぐに白状してくれる。それは一見愚かな行為に見えるがこれも計算された駆け引きなのだろう。


「動画でもわかる通りドン・キホーテ事件は複数犯の可能性が高い。君の無実を、正確には直接かかわっていないと証明出来たのは三人目の犠牲者の乙亥正文治の事件だけだ。他は知らん。まあ君は多分違うとは個人的に思っているけどな」

「その理由は?」

「君は少し前まで食べるものにも困るホームレス同然の暮らしをしていただろう? あんな博物館に置かれている様な処刑道具を用意出来る仲間がいる人間がそんな暮らしをするとは思えないからだ」

「なるほど。というかその時から監視していたんですか。別にいいですけど」


 幸いにして権田原はそこまで俺を疑っていなかった様だ。まさかあの極貧生活が身の潔白を証明するのに役に立つとはね。


「それで? 無関係な俺に何を聞きたいんですか? 俺はドン・キホーテ事件について報道されている以上の事は知りませんよ」

「そうだね。俺が聞きたいのは正確にはドン・キホーテ事件と連動している穂久佐村連続幼女殺人事件の事だ。君や君のお父さんもあれこれ調べていたみたいだしこっちは詳しいだろう?」

「そりゃまあ、はい」

「警察はあの事件の真実を知る事でドン・キホーテ事件の真実に辿り着けると考えている。そんなわけで警察もこっそり穂久佐村連続幼女殺人事件を再捜査しているんだよ」

「あの事件を……」


 権田原の言葉を素直に信じていいものなのか俺は迷ってしまった。何故なら冤罪を生み出したのはほかならぬ警察だったからだ。


 その警察に真実の探求を任せていいものなのか。またあの時と同じ様に真相は闇に葬られてしまうのではないか。俺はそれを危惧していたんだ。


「そこでだ。俺達は君のお父さん――堤兵馬が残した事件の事をまとめたノートを探している。君はそれを持っていたりするかな?」

「ノートを、ですか」


 どうやら警察も父さんのノートの事は把握していたらしい。いや、きっと父さんも警察を含めて関係者に聞きまくっていただろうからそれも当然か。


「ああ。彼はあの事件の真相に辿り着きそして自ら死を選んだのだろう。きっとそのノートには彼に自ら死を選ばせてしまう程の真実が記されているはずだ。だから俺たちは何としてでもそれを見つけ出さないといけないんだよ」

「見つけて燃やすために、ですか?」


 けれど俺はその言葉を鵜呑みに出来なかった。しかし俺がそう言っても権田原は俺の目をジッと見つめるだけでそこからその言葉の真意を推し量る事は出来なかった。


「俺達が何を言っても君はそう簡単には信じてはくれないだろう。実際警察の中にはそうしようとしている奴もいる。だけど真実を知りたいと思っているのは君だけじゃない。俺もまた友人が自ら死を選んだ理由を知りたいんだよ」

「え?」


 しかし権田原はそんな衝撃的でもない真実を伝えた。そりゃ同じ警察官なんだからどこかで絡みくらいはあったかもしれないけど父さんと権田原は知り合いだったのか。


「だから協力してくれとは言わない。信用してくれも言わない。けれど俺達も真相を知りたいんだ。たとえその真実がどれだけ悲惨でくだらないものだとしても」

「……………」


 もしこんな寂しそうな目をしていてそれが偽りだったというのならばこいつはシリアルキラーの素質があるだろう。それほどまでにその曇りのない瞳は俺を信頼させるのに足りるものだったのだ。


 俺はその瞳の奥に父さんの姿を見た気がした。彼と父さんは見た目も性格も全然違うはずなのに俺は何か同じものを感じてしまったんだ。


「ノートは持っていません。穂久佐村連続幼女殺人事件を調べつつ一応探してはいますけどあまり期待はしないでください」

「そうか」


 そして権田原さんは主張をそのまま受け止めそれ以上追及することはせず、何も言わずに俺の言葉を信じてくれた。


「時間を取らせて悪かったな。今日はもう帰っていいぞ。ああ、稲子に来たならサバしゃぶと牛骨ラーメンは食っていけ。美味いぞ」

「ええ。こちらこそありがとうございました」


 俺は椅子から立ち上がってドアの前に移動し、彼に敬意を払ってお辞儀をしてから外に出ていった。


「あ、そうだ後で携帯の連絡先を交換してくれ。君とはこれからも話がしたい。友人の息子としてもな」

「え? いいんですか」

「構わないさ、これも捜査の一環って事で」

「はあ、あなたがいいならぜひ」


 だが彼は部屋を出る前にそんななかなか度肝を抜く提案をした。捜査する人間と被疑者は普通そんな事をしないとは思うしバレたら面倒くさい事になりそうだけど……だが彼の立場が悪くなったとしてもこちらとしてはメリットの方が大きいしもちろん快諾する事にした。


 結局俺には権田原さんの真意はわからなかった。それにもし彼に真相を解明しようという意志があっても俺をハメた更家警視がそうだった様に警察も一枚岩ではないだろう。


 だが程々の距離感で協力するのはありかもしれない。俺はそんな事を考え警察署を出た後、まずはサバしゃぶと牛骨ラーメンの美味しい店をスマホで検索したのだった。

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