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捏造探偵~ドン・キホーテの大罪~その探偵は真実を葬り偽りの罪を作り出す【完結】  作者: 高山路麒


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2-9 想い出の寄木細工のメダル

「さ、こちらです」


 そしてエレベーターから降りた俺たちは廊下を歩いて古豊千さんの自宅へと入る。やはり元オリンピアンのママタレというだけあって室内は高級そうなもので溢れ、家具や時計も北欧という感じがするオシャレでエレガントな雰囲気で統一されていた。うっかり壊したら弁償が恐ろしい事になりそうなものも多そうだし気をつけないと。


「椅子に掛けてお待ちください。紅茶でよろしいですか?」

「あ、はい」

「問題ないですよ」


 俺は緊張しながら真矢と一緒に今の白いソファーに座った。ソファーはふかふかでビジネスホテルのベッドよりも遥かに寝心地が良さそうだ。このままゴロンゴロンしたかったけどもちろん俺は自重したぞ。


 待っている間俺は部屋の中を観察してみる事にする。


 ママタレなので子供もいるのだろう、居間にあったカラーボックスの様に小さな本棚には調度品とマッチしていない子供向けの本がいくつも収納されていた。絵本や小学校の図書館に置いてあるような科学や歴史の本などなど。比較的科学系が多い事から子供はもっぱらそっちのジャンルに興味を示しているのだろう。


 だがやはり一番目を引くのは棚を埋め尽くす数々のトロフィーやメダルだろう。その中には当然金色に輝くオリンピックのメダルも一番目立つ場所に置かれていた。本人もやはり人生において手にした栄誉の中で最も輝かしいものだと認識している様だ。


(あれ? あれはもしかして……)


 ただ俺はその中につい最近も見た寄木細工のメダルがあった事にも気が付いた。六芒星の形をしたあのメダルも何かの大会で手に入れたものなのだろうか。それにしては随分と安っぽい、もとい手作り感満載だけど。


「じー」


 いろいろと眺めていると小学生くらいの男の子が現れ俺たちを興味深そうに見つめた。多分この子は古豊千さんの息子なのだろう。


「おや、こんにちは」

「こんにちは」

「こんにちは!」


 俺達が挨拶すると古豊千さんの息子は元気よく挨拶をした。昨今ではあまり見られない程快活な挨拶で乳歯が抜けたばかりの隙間がなんとも愛らしい。最近じゃ挨拶しただけで防犯ブザーを鳴らされる事もあるからなあ。


 だけど男の子は、


「ねえねえおじさん、いんもうちょうだい!」

「うん?」


 と、いきなりなかなか初対面の人にはしないお願いをしたのだ。


「ごめん、聞き取れなかった。パードゥン?」

「いんもうちょうだい!」

「ふむ、それは成人した男女の股間に生えているアレという認識でいいのかい?」

「うん!」

「ええー」


 俺は再度尋ねるもその質問は聞き間違いではなかった。だがどうしよう、こういう場合の返しが俺の脳内マニュアルにはないよ。


「いいじゃないか、減るもんじゃないし」

「人としての尊厳が減るよ!」


 真矢はその反応が面白かったのか笑いを堪えて俺にそう促した。そりゃいくらでも生えているけどやはりはいそうですかと渡したくはないよなあ。


「やれやれ。ごめんね、彼は全身脱毛をしてつるつるなんだ。他をあたってくれるかな?」

「その誤魔かし方もどうかと……」

「そっかー。じゃあ竹は持ってる?」

「いや持ってないけど」

「ちぇー。しょぼっ」


 男の子は更に無理難題を押し付けるも当然そんなものは持っていないのでそう答えると彼はひどく残念そうな表情になった。何故だろう、無性にこのクソガキを殴りたいよ。


「ちょっと朝日あさひ、また変な事を言って! まったくもう、うちの子がごめんなさい。ほら大事なお話をするからあっちに行って」

「はーい」


 ようやく戻って来た古豊千さんは息子を叱りつけて別の場所に移動させる。また、と言った事からどうやらこういう奇行はこれが初めてではない様だ。


「すみません、うちの子が」

「い、いえ。俺はそんなに気にしてませんけど……」

「ええ、元気があっていいじゃないですか」


 彼女の謝罪に真矢はとても便利な魔法の言葉で誤魔化した。何か不始末をしても子供は元気があっていいって言えば大抵の事は許されるのだ。


「それにしても凄い数のトロフィーですね」

「子供の頃に獲ったものや小さな大会のものでかさまししているだけですよ。上には上がいますから」


 真矢は打ち解けるために早速メダルの事を話題にすると古豊千さんは照れくさそうに笑った。だとしても普通はかさましすら出来ないし誇ってもいいと思うけどなあ。


「ところであの木のメダルは? もしかして寄木細工ですか?」

「ああ、これですか。厳密には大会で手に入れたものでもなければメダルでもないですけどここにあったほうがおさまりがいいので置いてるだけです」


 古豊千さんは紅茶を置いた後に寄木細工のメダルを獲ってきて間近で俺たちにそれを見せる。だが改めて近くで見るとそのメダルは作りが荒く形が歪で接着面にも隙間がありお世辞にもいい出来とは言えなかった。


「これは美鳥ちゃんから貰ったものです。彼女がいなくなる直前にもらった……形見みたいなものですね」

「美鳥って、姉歯美鳥から?」

「ええ」


 けれど俺はその事実を知り別の印象を受けてしまった。もちろん見ただけでこれから情報が手に入るわけじゃないだろうけど。


「私はその頃からいろんな水泳の大会に出ていたんですがその頃に参加した大会が散々な結果で終わってしまいまして。悲しくてもう水泳を止めたいって思っていたんですが美鳥ちゃんはこれを渡して私を励ましてくれたんです」

「なるほど……」


 どうやらこれは彼女にとって大切な想い出の品の様だ。大事な証拠だからいろいろ調べてみたかったけどこれじゃあ貸してください、とはさすがに言えないか。


「それであの事件の事を、美鳥ちゃんの事を聞きに来たんですよね」

「ええ。話してくれますか?」

「もちろんです。私も本当の事が知りたいですから」


 俺達の事情を知っていた彼女は二つ返事で承諾してくれる。古豊千さんもやはり親友と呼べる人物の死の真相を知りたがっているらしい。


 だけどあんまり言いたくないけど荻野弘が真犯人ではない可能性がある以上この人も容疑者候補なんだよな。多分違うとは思うけどその事を念頭において出来るだけ先入観を持たない様にして話を聞かないと。

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