2-8 古豊千泉との出会い
冤罪に関わった検察官の今在家も気になるけど今は古豊千さんに会わなければ。
彼女の自宅マンションは駅から歩いて二十分程度の場所にあり、俺は自宅に訪問する前に取りあえず外から眺めてみた。
マンションは八階程度で鳥取にしては大きい部類に入る。ただ壁の汚れ具合から新築という程でもなく十年から二十年は経過しているようにも思える。
「ここだよな。えーと、古豊千さんの自宅は……」
俺はスマホを取り出して謎解きメールの相手から伝えられた住所を確認する。彼女はどうやら一番上の八階に住んでいる様だ。もちろん階段は疲れるのでエレベーターを使うとしよう。
「あの、急いでますので」
「いやー、こっちも仕事なんで困りますよ、ちょっとだけでいいですから!」
「ん」
しかしメールを確認しているとなにやら男女が揉める声が聞こえた。それにしても今日は随分とトラブルに遭遇する日だなあ。今回も平和を美徳とする小市民としてスルーすべきなのだろうか。
「おや、ちょうどいい。あの薄汚い男に絡まれている女性が古豊千さんだよ」
「え? マジか。でも確かにテレビで見た事があるな」
けれどどこか嬉しそうな真矢からそう伝えられ状況は一変する。そういう事ならここで助ければ心証もよくなるだろうし何かしらの行動をすべきだろう。
「それじゃあ行くよ」
「おう。ちょっと、どうしたんですかー?」
「?」
俺は堂々とした振る舞いの市民を演じて二人に話しかけた。ヤクザと対峙した時と比べればこんなのは怖くもなんともないしどうとでもなるはずだ。
「え? いや今取材中でして……ん、あんたどこかで見た様な」
「はて、初対面のはずですけども」
ただ薄汚い男は予想外の反応をした。けれど俺には本当に心当たりがなく奇妙な間が生まれてしまう。
けど取材か。とするとこいつは新聞か週刊誌の記者だろうか。だが新聞記者にしては清潔感がないのできっと読む価値もない三流ゴシップ誌の記者だろうな。
「……ああ、お前か」
そして俺はある可能性を思いついた。直接顔を合わせた事はないが俺はこいつの事を知っていた。あれだけの事をしておいて向こうは忘れていた様だけど。
「何をしているんだい、サンチョ君。そこは言葉ではなくパイルドライバーで会話をするべきだよ」
「それをしていいのはプロレスのリングの上だけだ。それ以外の状況でそんな事をしたらややこしい事になるんだよ」
「サンチョ君?」
けれど真矢が無茶苦茶な指示を出した際古豊千さんはその名前に反応してしまい、俺はどうしてそんなリアクションをしたのか考えてそれは謎解きメールの人間によるものだと推測した。
もしそうなら謎解きメールを送った人物もつい最近俺につけられたばかりのあだ名を知っている事になるが――まあそのあたりの理由はおいおい考えるとしよう。
「すみません、こちらの方たちと約束をしてまして。今日はお引き取りください」
「……まあいいですけど。ですがまた来ますよ」
古豊千さんは俺たちを上手く利用し男を突き放した。実際元々そのつもりだったのだろうけどこっちとしても様々な過程をすっ飛ばす事が出来てラッキーだったよ。
「ではこちらへ」
「あ、はい」
俺は古豊千さんに案内されてエレベーターに乗って八階まで移動する。だが家に行く前にどうしても聞きたい事があったので俺は手短に尋ねる事にした。
「なんていうかお取込み中すみません。今のは週刊誌の記者ですか?」
「ええ、ニュースでもやっていたドン・キホーテという人が起こした事件について調べているそうです。私は何も知らないので答えようがないんですが答えなかったら答えなかったで好き放題ある事ない事が書かれますし」
「ご安心を。答えてもどのみち好き放題ある事ない事が書かれます」
「それもそうですね」
実際被害に遭った俺は実体験を話すとママタレの古豊千さんもまた思い当たる節があったのかクスクスと笑ってしまった。
「彼が来たのは今日だけじゃないんです。彼は私の家の郵便受けまで調べていて、あまりにも悪質だったのでどうにかしてほしいと管理会社に話をしましたがたまたま監視カメラが不調だったそうで証拠をつかめませんでした」
「それは大変でしたね……けどこうして知っている事を前提に話すって事は俺たちが来るっていう話は聞いているんですよね」
「ええ。高校時代の恩師からお願いがあったんです。寺町真矢と堤三千世、通称サンチョという人が穂久佐村連続幼女殺人事件について知りたがっているから協力してあげなさいと。その恩師には昔から何かとお世話になっているので」
「なるほど」
高校時代の恩師なんて卒業したら同窓会くらいでしか会う事はないけどどうやら彼女は急なお願いを受け入れる程度に親しいらしい。だけどもしかしたらその恩師は謎解きメールの送信者かもしれないな。それに関して教えてくれるかどうかはわからないけども。




