三か月目
落下から三か月後。
キノコと交互に消費していた携帯食料がなくなった。
これからはキノコのみの生活になるだろう。
ラプンツェンは『キノコ生活はいやなのだ……』と泣き言を漏らしている。
食あたりのトラウマがまだ消えないらしい。
瓦礫の撤去は進んでいる。
下へ五メートルほど進めている。
まだ瓦礫は下へ下へと積み重なっているようだ。
空洞は見えない。
ただ大きな変化があった。
「まただ。また風が吹いた!」
「髪が揺れるほどの風だ。
それほど遠くないかもしれないのだ!」
僕とラプンツェンは笑顔で頷きあう。
今までは大気の流れを体で感じることはできなかった。
でも、下から時折、ほんのわずかな風を感じたのだ。
恐らく、外と繋がっている空洞があるのだろう。
循環魔力も瓦礫の下の方へと続いている。
つまり。
出口はこっちに間違いなくあるということ。
希望が出てきた。
僕たちはやる気を回復させて、作業を進めた。
●〇●〇
落下から五か月後。
キノコの数が残り少なくなってきた。
成長促進させ、栽培していたのだが、生えなくなってきたのだ。
木の栄養がなくなったのか、はたまたキノコ自体に問題があるのか。
とにかく、これからは一日一キノコで過ごすしかない。
「お腹すいたのだ……」
「僕も……」
お腹が空いても、瓦礫撤去作業は継続。
しかしまだ出口は見えない。
風は感じるのに。
魔術で岩を運んでいるラプンツェンだったが、居住区画で座り込んでしまう。
「もうだめだ……腹が減って動けんぞ」
「今日はこのくらいにしよう。
干しキノコがあるから、鍋にしよう」
「いつもの奴なのだ!
焼きキノコ! 干しキノコ! キノコ鍋!
そればーっかりなのだ!
もう限界なのだ! 石のように固い干し肉や乾パンの方がマシなのだ!」
ラプンツェンは仰向けになった手足をじたばた動かしている。
まるで子供だ。
キノコは美味しい方だと思う。
でも正直飽きた。
岩塩も底をついている。
つまり味付けなしのキノコだ。
体からキノコが生えそうなくらい、キノコだけ食べてる。
頭がおかしくなりそうだ。
体の調子もおかしい。
異常に怠く、息切れが激しい。
僕は倒れ込むように地面に仰向けになった。
もう無理。動けない。
なんだこれ。
おかしいぞ。
疲労とか空腹感とかとは違う。
さすがにこれは……何か異常がある。
常に小さな吐き気と倦怠感がある。
動悸も激しいし、視界がゆがんでいる。
意識が朦朧としていた。
ここ数か月、感じていた異常が徐々に大きくなっている。
これってまさか……。
「早いとこ、こんなとこおさらばしたいのだ!
あのマリーとかいうメスガキはなぜ助けに来ない!?
救助に来ると言っていたではないか!?」
「助けにくる……でも、まだ時間がかかるんだ……」
「そう言ってもう五か月だ! いい加減、我慢の限界だぞ!
もういい! 瓦礫を一気に撤去するのだ!」
「ま……待って……それは……」
僕は必死に制止しようとした。
でも体が動かない。
まずい。
僕の体も限界が近いらしい。
ラプンツェンがイライラしながら瓦礫の方へと向かう。
そして下の方へと姿を消したと思ったら。
ずがーん。
地鳴りと騒音。
しばらくして、無数の瓦礫を持ってきたラプンツェンが顔を出した。
瓦礫撤去中、僕は『ラプンツェンが魔術を使うことを許可している』。
つまり、僕が制止しなければラプンツェンは魔術を使い放題ってことだ。
声が出ない。
ダメだ。
「ぬははは! 見ろ!
何も起きないではないか!
貴様の心配は杞憂だったわけだ!」
嬉しそうに笑っているが、目は笑っていない。
ラプンツェンも肉体的、精神的に限界を迎えているのだろう。
ラプンツェンが瓦礫を地面に置いた。
いつもの丁寧な作業ではなかった。
ずーんと振動が響き。
そして。
連動するように空洞全体が振動し始めた。
「な、なんだぁ!?」
「し、振動だ……崩落する……!」
ゴゴゴ。
徐々に、そして確実に振動は大きくなる。
上に積み重なっていた瓦礫が少しだけ下へと落ちていく。
空洞が崩落する。
天井から岩や土が落ちてくる。
振動は続く。
撤去した瓦礫が転がる。
岩壁が崩れる。
キノコ部屋が押し潰される。
「うわああああああああああっ!!」
「うううううっ……」
僕とラプンツェンは寄り添うように頭を抱えて振動に耐える。
崩落はさらに続く。
僕たちの頭上に岩や土が降ってくる。
しかしラプンツェンの魔術で触れる前に止まる。
ゴゴゴゴゴゴ。
恐ろしい振動音と落下音。
それが無数に訪れ。
視界は塞がれていく。
そして。
徐々に振動は弱くなり。
最終的に止まった。
土埃が舞う中、僕は目を開く。
目の前に岩があった。
ラプンツェンの魔術がなければ押し潰されていたかもしれない。
あたりを見回す。
空洞は半分が岩で押し潰されていた。
奇跡的に魔法陣と鞄、鉄雷剣、雷光灯の大半は無事だった。
ラプンツェンの魔術のおかげで僕たちは傷一つない。
ただ。
振り返ると瓦礫は崩落した瓦礫で埋まっていた。
せっかく撤去した瓦礫もすべて崩落に巻き込まれて、下へ下へと落ちていった。
つまり、最初からやり直しだ。
しかも空洞は狭くなり、キノコ部屋は崩壊した。
食料もほぼなくなった。
「う、うわあああああああああ!
せっかくあれだけ撤去したのに……うううっ!
くそおおおおおぉぉぉぉっっ!!」
絶望し、地面に這いつくばるラプンツェン。
怒りも不満も苛立ちもあった。
けどそんな彼女を見ていたら何も言えない。
僕も同じ気持ちだったし、我慢の限界でもあったからだ。
ラプンツェンが行動しなければ、僕の方が先に参っていたかもしれない。
いや。
「もう……参って、た……か……」
「お、おい!? どうした!?
人間! どうしたのだ!?」
僕は意識をもうろうとしてその場に倒れた。
もう動けない。
体がまともに動かない。
これは間違いない。
僕は病気になり……死にかけている。






