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207/210

一か月目

 数日後。

 脱出のための岩壁崩しは継続中。

 ここでの生活も少し安定してきた。

 でもずっとこんな場所にいたくはない。

 早いところ脱出したいところだ。


「よし、ここも崩せた」

「うむ! あー……奥には何もないみたいなのだ」


 隙間を広げて顔を突っ込んでいるラプンツェン。

 どうやらこの奥に空間はないようだ。


「別の場所も崩すしかないね」

「なんとも面倒なのだ……。

 なんというかこう、もっとババーンと解決できる方法はないのか?」

「瞬間移動する魔法とかあればいいんだけどね。

 そういうのはさすがに」

「ふむ……では地道にやるしかないか」


 妙だ。

 妙すぎる。

 なんというかラプンツェンの物分かりが良すぎるのだ。

 数日前はすぐに噛みついてきたのに。

 互いの関係性が変わってきたのか。

 それとも別の理由があるのか。

 うーん、まあ面倒事が減るからありがたくはあるんだけど。


 それからさらに一週間。

 僕たちは壁の隙間を慎重に崩して奥を調査するという作業を繰り返した。

 結果。


「やはりないな」

「うーん。ここまで奥深くだとやっぱり空洞なんて早々ないか」


 地下に落ちてから約二週間が経過している。

 食料はまだあるし、水分も確保できている。

 酸素供給も安定しているから一先ずは問題ないんだけど。

 脱出する手段がないなら、マリーたちの救助を待つ以外にない。


「いや! まだ諦めるのは早い!」

「ではどうするのだ?

 無理やり壁を壊して適当に掘り進めるのだ?

 崩落するとかなんとか言っていたではないか」

「補強しつつやっても限度があるからね……。

 ん? そういえばラプンツェンは土の魔術が使えたよね?

 それでさ、こう、頑強な場所とか作れないの?」

「土や岩を動かすことは可能なのだ。

 でも土や岩を加工することは得意ではないな」


 ラプンツェンとの戦いや、この空洞でのことを思い出す。

 確かに岩や土そのものを動かしてはいたけど、形そのものをそんなに変えたようには見えなかった。

 ということは家みたいな精緻な技術が必要なものを作るのは無理と言うことか。


「瓦礫を動かして無理やり崩落を防ぐことはできるのだ。

 短時間ならな」

「いざという時は頼むかも。

 さすがに僕にはそんなことはできないし」

「ふふん、気が向いたらやってやる」

「……命令ね」

「ぐぬ! 卑怯な奴め!」


 不満そうに唇を尖らせるラプンツェンを横目に僕は再び思考する。

 崩落を考えるとこれ以上の採掘作業は危険が伴う。

 だとするならば救助を待つ以外に手がないということか?

 じっと待ってろって?

 いくらキノコの成長を早くできたとしても、栽培は潤沢ではない。

 食料も有限だ。

 今の状況だと……恐らく持って半年程度だろう。

 それまでにマリーたちが来てくれるかどうかもわからない。

 僕は悩んだ末にラプンツェンを見た。

 

「僕たちには選択肢がある。

 一つ目は、危険を承知で脱出口を見つけるために掘り進める。

 二つ目は、大人しくして救助を待ち続ける。

 どっちがいいと思う?」

「掘り進める方なのだ!」

「だよね。そう言うと思ったよ」

 

 僕が苦笑すると、ラプンツェンは当然だと顎をしゃくり上げた。

 僕もじっと待っているのは性に合っていない。

 危険を承知で、少しでも進展させるために、動き続けたいところだ。


「岩壁の隙間の奥か。

 あるいはさらに危険が伴うけど瓦礫の下か」

「空気が下から来ているのなら、瓦礫の下が一番可能性が高いのだろ?

 だとしたら答えは決まってるのだ!」

「それも言うと思ったよ。

 まあ、僕も異論はないよ。

 やるなら可能性が高い方に賭けた方がいいし。

 オーケー。やろう」

「うむ! どんとこい!」


 お互いに頷きあい、僕たちは瓦礫へと向かった。


  ●〇●〇


 落下から一か月が経過。

 瓦礫撤去の作業が始まった約二週間。

 僕たちはバランスを考えつつ、時には岩を移動させて崩落しないようにして、下の方へ移動しようと試みていた。

 瓦礫はアビスの地上部分、ラプンツェンがいたホールから下に伸びた空洞に埋まっている。

 細い試験管に小さな石粒を入れたみたいな状態だ。

 それぞれの間に空間はあり、互いに支えあっているため動かない。

 ただどれかを動かせば、抵抗がなくなり、瓦解する。

 ジェンガみたいなものだ。

 しかも途中、横部分に僕たちが住んでいる空洞がある。

 奇跡的にその空洞に瓦礫が入り込んでいない状態だ。

 高低と横幅が狭いからというのが理由の一つだろう。

 これ以上、空洞を広げたら、瓦礫がなだれ込んでくる可能性は高い。

 ブーストを使って一メートル程度の瓦礫をゆっくりと動かす。

 空洞側にある瓦礫の一つだ。

 横の少し離れた場所に瓦礫を置く場所がある。

 ゆっくりと移動し、そこに持ち運ぶと僕は汗をぬぐった。

 汗臭い。

 風呂なんてものはここにはない。

 手拭いはいくつもあるので、水でぬらして拭くだけだ。

 環境は最低限でしかない。

 正直、最近は体がちょっと怠く感じる。

 食事のせいか、太陽光を浴びてないせいか、この環境のせいか。

 おそらく全部だろう。

 ただ。


「おい! ぼーっとするな!

 早く、下へ行くのだ!」


 不満そうに僕を見ているラプンツェンがいた。

 彼女がいてくれるおかげか、かなり気はまぎれている。

 僕一人だったら、もっと気分が落ち込んでいたに違いない。

 下手をすれば気が触れていた可能性もある。

 閉鎖空間とはそれだけストレスが凄まじいものだ。

 まさか敵である魔族に対して、いてくれてよかったと思うなんて。

 僕は苦笑を浮かべる。


「なーんだその顔は!

 見ろ! わし様を!

 ほっほっ! こんなに運んでいるのだぞ!」


 ラプンツェンは魔術を使って岩を複数運んでいる。

 魔力を用いて岩や土を自由に動かすことができるらしい。

 明らかに僕の知っている魔法とは違う技術だ。

 魔力を使っていることは間違いないんだけど。


「僕は手作業で、君は魔術使ってるけどね……。

 まあ、運んでくれるのはありがたいけどさ。

 あんまり振動させないでね。崩落するから」

「わかってるのだ。動きは激しいが、振動はしてないのだ!

 ほら! 岩を動かす時! 持ち上げる時! 下ろす時!

 すべて一瞬止めているのだ! な!?」


 したり顔で複数の岩を魔術で動かしつつ、実演している。

 動きは早く、そして振動は最低限だ。


「わかった! わかったから!

 見てて怖いから、それくらいにしてよ!」

「ふん、ノミの心臓め!

 貴様は常に心配しすぎだ!

 瓦礫の撤去だって順調ではないか!」


 瓦礫は十数個撤去し終えていて、縦に連なった瓦礫の塔の一部は消えている。

 それは僕が慎重に瓦礫のバランスを考えて、補強しつつ撤去しているからだ。

 ラプンツェンに任せていたら、すでに崩落していただろう。

 まあ、補強はラプンツェンの魔術に頼っているので文句は言えない。

 むしろ大助かりだ。

 ブーストはただの肉体強化であって、自在に岩や土を動かせる魔法はないからね。

 僕は少し重い体を無理やり動かし、作業へと戻る。

 このまま続ければ下の空洞へ行けるかもしれない。

 希望が少しだけ見えてきた気がした。


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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます ラプンツェンが居ることによるメンタルの癒しはでかいやろな 地上は今どの時系列だろ……早く再開できますように!
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