魔法研究は面白い
魔法陣の組み立てが間違っているのは間違いない。
もう一度、二つの魔法陣を観察する。
大きな円の魔法陣が二つ並び、それぞれ魔力が管のように伸びて途中で合流して、地面全体に広がっている。
しかしよくよく見ると、合流部分から色が緑のみになっている。
循環魔力――この場合はブロウに近い属性と考えて――の緑、アクアの青があるはずだが、アクア側の魔力は消えている。
魔法陣の形も、魔力量も一緒。
属性と内容だけが違う。
イメージ的には色が混じって、そのまま二つの効果が重なる感じになるかと思っていた。
でも違った。
考えてみればこれは合成魔法、いや結合魔法に近いもの。
結合魔法は相性がある?
……そういえば通常の魔法とは違って、結合魔法を別の属性同士て掛け合わせる実験はしてなかったような。
丁度いい、やってみるか。
僕は小さめの魔法陣を作り、適当な魔法陣の機構を作った。
それぞれの属性、現時点で僕が使える属性魔法。
フレア、ボルト、ブロウ、アクア。
他にもジャンプ、シールド、ブーストのような肉体を強化する魔法もあるが物質や現象とは違うので割愛。
また、ブラッドブレットは血が大量に必要なのでやめておいた。
ブロウ以外は恐らく、魔法を継続して使うのは難しいと考え、一時的に魔法を起こす方法で実験する。
それぞれの結果は――。
「……同じだ」
ボルトは大気魔力に弱く、フレアはアクアに弱く、アクアはフレアで蒸発しつつも、消火し、ブロウはボルトを消失させ、フレアの勢いを増し、アクアによって抵抗があった。
つまり、一般的な各現象と物質の特性をそのまま受け継いでいる。
一般的な物理現象と化学反応と同じってこと。
問題はそれぞれの現象が消失、または継続しているという両極端にあることだ。
つまり属性相性が強い方が残り、弱い方が消えるのだ。
抵抗があるにしてもこれはさすがに極端すぎる。
「うーん、ってことは単純なアクアの体積に対しての抵抗が大きいってこと?
いや、それはおかしい。
水分量は少ないし、何より魔力色自体が変わっているし」
「何を言っているかわからんぞ!
説明しろ、貴様!」
がーがーとわめきたてる魔族娘。
「まあ、いいけどさ。実は――」
最低限の説明を終えるとラプンツェンは目を白黒していた。
「な、なんという情報量……本当に貴様がこれを発見したのか!?」
「全部一人じゃないけどね。仲間とか家族が手伝ってくれたことも沢山あるよ」
「それにしても……これは……。
むぅ、まあいい。とりあえずはわかった!
悩むほどのことではないではないか!」
「ってことは理由がわかったの?」
「ふふん、わからない方がおかしいのだ!
いいか、これはだな! ……相性が悪い!」
「……いや、だからさっき相性の確認はしたんだって。
それでもアクアの方は消えたんだよ」
「だから貴様はダメなのだ!
他に理由がない! 相性が悪い以外にな!
他にあるか? ないだろう! じゃあないということだ!」
なんという暴論。
なんという自信。
微塵も自分の発言を疑っていない。
強い。強すぎる。自我が。
僕は嘆息して、思考を切り替えた。
ラプンツェンの意見はかなり一方的だ。
でもそれが間違っているというのもまた一方的な考えだろう。
魔力相性を考えてみれば、ブロウはアクアよりも強い。
それが顕著に出ている。
顕著に……出ている?
僕は魔法陣を見た。
なんだ?
何かに似ている気が。
管……魔法陣……合流……。
「……回路?」
そうだ!
これは回路だ!
「だとしたら! そうかこれは……並列回路ということ?
通常なら電池のプラスとマイナスを電線で繋ぐ。
全体が流れ続けるようにする。
でもこの魔法陣は周回せず、行き来している。
そのせいでぶつかり合ってると考えれば……抵抗が強くなっているのもわかる」
「……なーんもわからんが。
つまりわし様の考えがあってるということか!?」
「あってる! 結局は、相性の問題でもあるからね!
ありがとう、ラプンツェン! 助かったよ」
「あ、ありがとうだと!? な、なんなのだ、突然!
貴様、人間の分際で魔族のわし様に感謝するなど!
敵同士でなぜそんなことをする!?」
「別に関係性はどうでもいいでしょ。
助かったら感謝する。嬉しいから言葉にする。
それだけだよ」
変な魔族だ。いや魔族が変なのか。
うん? 僕が変なのか?
まあいいや、感謝してるのは事実だし。
とにかく解決の糸口はつかめた。
後は検証を継続するのみ!
僕は魔法陣をすべて消して、改めて書き直す。
今度は『一つの魔法陣に文節を二つ書いた』。
さっきまでの形が『並列回路』だとすれば、これは『直列回路』だ。
通常、回路形式だと電圧は一定になり、配線もシンプルになる。
つまり、最初の段階から属性が決まっているため、合流させ混ぜ合わせる工程がなくなり、相性を考える必要がなくなる。
シンプルな機構ということだ。
「ほう? 最初の段階で二つの魔術を使うのか」
「うん。そうすれば相性による抵抗もないし、魔力の流れもスムーズになる。
さっきは相性と流れのぶつかりで不具合が出てたんだと思う」
「なるほど……魔力の流れか!
ふむぅ、そうかそうか。そういうことか」
ふんふんと鼻息を鳴らしながら、少し興奮した様子のラプンツェン。
やっぱり魔法が好きなんだろうか。
魔法陣に『空気を循環し、空気中の水分を集める』という文章を作成した。
魔力を文字列の上に重ねて、地面全体に広げた後、口腔魔力を魔法陣へと流す。
ブロウは綺麗に循環している。
さっきの魔法陣とそん色はない。
問題は水分……アクアの方だが。
じっと水筒を見つめる僕と魔族娘。
しばらくそうしていると。
ぼちゃん。
「い、今水滴が落ちた!?」
「あ、ああ! 落ちた! 落ちたぞ! 間違いなく落ちた!」
成功だ!
大気中の水分を集めて、水筒に入れることができた!
たった一滴。
でも成功なのは間違いない。
数秒間隔で一滴ずつ水筒に水が落ちていく。
正常に稼働しているみたいだ。
「やった! やった!
また一つ、魔法陣の機構が完成したぞ!」
「ぬははは! 面白い魔術だ!
機構? 魔法陣? よくわからんが、面白いのは間違いのだ!」
「……今、面白いって言った?」
「あ」
はっとした顔をしながら手で口をふさぐラプンツェン。
僕と目が合う。
気まずそうに目を逸らした。
「い、言ってない!」
「言ったでしょ!」
「人間が考えたものなど面白いはずがないのだ!」
「でも笑ってたでしょ!」
「笑ってないのだ! わし様はこういう顔だ!
愛嬌がある、キュートな顔なのだ!」
言った、言ってないの押し問答は続く。
おかしな話だ。
人間と魔族が殺し合い、いがみ合った。
それなのに同じことをこうして楽しんでいる。
わかりあえないとわかっているはずなのに。
なんでだろう。
ラプンツェンの顔を見ていると、少しだけ考えてしまう。
もしかして人間と魔族は共存できるのではないかって。
そんな淡い期待を抱くのは、僕が甘いからなのだろうか。
ふとコールの言葉を思い出す。
『いいか? まずは相手に心を開く前に、話していいことかいけないことかを考えろ。
自分を守るために、誰かを守るために、簡単に本音を話したらいけない。わかるか?』
生真面目な友人の顔が浮かぶ。
その言葉を胸に刻み、そしてそれでも僕はまだ考えてしまう。
目の前で子供みたいに喚き散らすこの魔族を見て。
思わず笑ってしまった自分は一体、どうしたいのかと。






