第6話 桃華の過去
第6話
「えっ、、、桃華には、、、過去の記憶が、、、ない、、、?」
私の言葉が、自身の頭の中でループする。
「あぁっ。紗季ったら、、、」
母が私が割ったコップをバタバタと慌てて片付ける。
が、その母の小言も何も聞こえない。
しかし、叔母さんは話を続ける。
桃華の過去を、、、。
ー 12年前 ー
「ねぇ、パパー?まだ着かないの?」
幼い桃華は無邪気に父親に聞く。
長時間、車の中にいたせいで疲れてきたのだ。
「んー?もう少し待っててなー?そしたら、美味しいご飯を食べようなー。」
「もぅ、貴方ったら、、、。貴方も疲れたでしょ?そろそろ、休憩にしましょ?」
桃華の父親と母親が、どこで晩御飯を食べようか相談を始める。
ーーキキィーーーー!!
ーードンッ!!!
突然の事だった。
桃華の父親は愛娘のため、運転には気をつけていた。
しかし、悲劇は起こったのだ。
桃華の乗る車にトラックが突っ込んだ。
トラックの運転手は飲酒運転をしていた。
桃華の目の前一面に広がる紅い色。
鉄の匂い。
「、、、パパ??、、、ママ??」
桃華が両親を呼ぶが、返事はない。
桃華は幼く、小さい手を必死に伸ばす。
「、、、パパ??、、、ママ??、、、パパ??、、、ママ?? パパ!!ママ!!」
伸ばした手が父親に触れると、桃華の手はぬるっとした紅い色に染まる。
「いやぁぁぁぁぁ!!」
桃華の叫び声。
警察のサイレン。
救急車のサイレン。
あたりが騒がしくなる。
ーーピッピッピッ、、、
医療機器の電子音。
無機質な音の中心に桃華はいた。
「桃華ちゃん、、、。目を覚まして、、、!」
警察から知らせをうけた、桃華の叔母、橋本真里。
真里の声と電子音だけが響く病室。
事故から2週間後、桃華が目を覚ました。
「桃華ちゃん!!良かった、、、。貴方だけでも無事で、、、。」
真里は涙ながらに言う。
「ママ?何で泣いてるの?悲しいの?」
桃華は叔母である真里に言う。
”ママ“と、、、
「、、、!!??」
真里は驚き、涙が引いた。
「先生、桃華はどうしたのでしょう?私のことをママと呼ぶのです、、、。あの子の両親は事故で亡くなったのに、、、。」
真里はどう対応したらいいかわからず、医師に相談した。
「そうですか、、、。一度、脳の検査をしてみましょう。」
「はい。お願いします。」
桃華は脳の検査を受けた。が、どこにも異常はなかった。
ただ、、、両親を目の前で亡くした、こころの傷はとても大きく残った。
その傷をいやすため、こころを守るため、自己防衛のために、桃華は記憶を失った。
そして、叔母の真里を母親だと思い込んだ。
桃華が事故にあったとき、ひよこのネックレスを大切そうに持っていた。
そのため、宝物にするように、と桃華に真里は教えた。
京都に住んでいた叔母夫婦は子どもがいなかった。
桃華を引き取ると決め、育てることにする。
義父の仕事の都合がついたため、この春、桃華が生まれ育ったこの街に移ることにした。