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7 ネゴシエーション

 リサはF-98 MK-Ⅱの最後尾に乗っていた。先頭はパイロットのシュン、次席はガンナーのゴローで、リサの乗る席は計器の表示もなく、他の席との通信と無線の装置だけで、他には何もない?技術屋のリサにとっては退屈な席だった。が、この機体の乗り心地は最高だった。普段、普段、接している軍用戦闘機やスポーツ機の乗り心地はいつ乗っても最悪。仕事で何度か乗っている時も吐きそうになる時もあった。「この?シュンってパイロットの腕の差かしら…このパイロットと、この才能が欲しい」リサは本気で思っていた。

「おい?目標が見えてきたぞ?あれがトモノリだ」

 砂漠と岩場、その中にシュンが指さす先には10階建ての建物が6棟並んでいた。こんな辺境の地に偉そうな建物。「エデン法の管轄外とは言え、なんでこんな大物を建てられるの?」リサは不条理を感じた。

 エデン法。それは旧約聖書にでてくる楽園の名からのネーミングだった。惑星に入植が始まった際、いきなり惑星の全土を掌握しようとしても物理的に不可能だった。そこで、最初の入植時は100㎞×100㎞の正方形の中に都市が建設された。その星の全体面積からすれば“点”にしか過ぎない。しかし、この中は法律により、生命・身体・財産が国家によって保障されていた。入植が進むに連れ、て、エデン法の適応範囲は次第に拡大されていった。しかし、エデン内で罪を犯した者は、その惑星国家の法で裁かれるが、エデン外に逃げ出た場合、基本的に治外法権の扱いになる。

 しかし、そこは無法地帯であり、殺されても文句は言えないし、言っていく場所もない。事実、家族を殺された男が復讐のために人を雇って犯人を探し出し、殺した復讐事件も珍しくない。

 この惑星ドルモアでも入植開始から100年程が経ち、年々、エデン法の適応地区が増えていて、現在、惑星全体の3分の2までに至っているが、まだ3分の1が無法地帯である。そんなところに会社を構える奴は鼻から犯罪を生業としている。と、考えるのが妥当である。

 シュンは着陸態勢に入った。垂直にゆっくり、そして丁寧に来客用の駐機場に軟着陸した。その横には高級な航空機が数十機並んでおり、さらに先の駐車場にも高級車が並んでいた。多分、トモノリに商談に来ている連中だろう。

 駐機場の近くには噴水と豪華な草木の生茂る庭園。水が貴重な砂漠と岩山だらけの場所では、まさに“オアシス”であった。

「派手に儲けているみたいだな?」

 ゴローが口を開いた。続けてシュンが口を開いた

「悪いが、ゴロー、いつもの通りでお前はここで一旦、帰ってくれ。指示と連絡は後でする」

「了解した。シュン、死ぬんじゃないぞ?」

 そう言うと、ゴローはガンナー席から機体を操縦して垂直上昇。帰路についた。「え?ゴローさんは帰っちゃうの?なんで?3人で行くんじゃないの?」リサにはそんな疑問がでた。

「リサさん?さあ、行きましょう」

 シュンは玄関の方に向かって歩き出した。株式会社トモノリ、悪のアジトに乗り込む、リサにはそんな気持ちだった。

 トモノリの玄関は古代の地球のローマ建築を思い出させる豪華で立派なものだった。玄関の階段の前には3名の受付嬢が座っていたが、リサの目には「この子達、人間じゃない?バイオロイドだ。多分、ヤナギモト重工のYS-102、最高級のガイドロイドの受付に3体も置くなんて、1体あればいいのに?」技術者の性だろう。目に入るバイオロイドの素性を見てしまう。その中の1体のガイドロイドにシュンは話しかけた。

「イーグルのシュンだ。社長にアポはとってある?取り次いでくれないか?」

 ガイドロイドはニコッと笑い

「お話は伺っております。すぐに社長をお呼びいたします」

 すると、受付横のカフェスペースから声がかかった。視線を向けると

「待っていたぞ?シュン、ここで話さないか?」

「トモノリ社長!久しぶりです?元気でしたか?まぁ?派手に儲けているようですね?」

「まぁぼちぼちってところだ?で、隣の軍人のお嬢さんはどなたかな?」

 身長は180㎝を超える長身でかっこいい蒼年実業家を絵にかいた男だった。

 しかし、リサの目にはそんな姿は見えていなかった。今、リサは自分の中の怒りと憎悪を抑え込むだけで精一杯だった。「こいつが私のF-108とYUMI-90を盗んだ奴の親玉」その感情はリサの周りにドス黒いオーラを纏わせていた。それを見たシュンは「こいつ?なんかヤバい雰囲気が漏れ出している?」

 トモノリ社長は財布から名刺を出した。それを受け取ったリサはひきつった笑顔で自分の名刺を渡した。

「ほう?リサ・ラファエルさんですか?もしよろしければ今後とも素敵なお付き合いをお願いいたします」

 そう言って3人は商談スペースのカフェスペースに移って座った。商談と言うのは金銭という武器で行う決戦の場である。付近の10個ほどのテーブルでも静かな決戦が繰り広げていた。

 シュンが口を開いた。

「彼女は今回の依頼主です。で?社長の会社で軍相手に何か泥棒騒ぎをやっちまった社員がいるそうですね?」

「軍相手に泥棒騒ぎ?そんな企画も計画もないが?そんな、ヤバい事をしなくても我が社は十分に繁栄している?」

 その言葉でリサが沈黙を破って切れた。

「ふざけんじゃないわよ!私のF-108とYUMI-90を盗んでおいて、こんな脅迫状まで送っておいてしらばっくれるつもり?」

 リサは胸の内ポケットに入れておいた脅迫状をテーブルに叩きつけた。トモノリ社長はゆっくりと脅迫状を読んだ。

「あ~?そう言えばそんな企画があがっていたな?」

「私のF-108とYUMI-90を今すぐ返しなさい!」

 リサは本気で怒って両手でテーブルを叩きつけた。

「いいでしょう?私も軍を相手にケンカするほど馬鹿じゃない?」

 社長はガイドロイドを指で呼んだ。

「企画7課のヨシユキに連絡を取ってくれ、僕もすぐに企画7課に行く」

 ガイドロイドは「かしこまりました」と頭を下げて連絡ブースに歩いて行った。

 企画7課は10階建ての最上階にあった。その間にも様々な研究ブースがあり、発売されて間もない最新鋭のスポーツプレーンがバラバラに分解されて構造研究がされていた。「まさか?ユミもバラバラに分解・解体されているの?」最悪の事が頭を過った。

 企画7課に着いた。すると、社長は口を開いて

「ヨシユキ課長?お前、軍から盗みをしたのか?」

「はい?社長の決裁が下りましたので、黙って、そうっと連合宇宙軍の研究室から持ってきましたが?」

 身長160㎝に満たない小柄で禿げの男は悪びれた様子もなく答えた。そして続けた。

「こちらです」

 ライトに照らされた耐爆ガラスの先にはF-108が置かれていた。4人は耐爆室の中に入って行った「よかった。解体や分解はされていない!でも中に格納されているユミは大丈夫?」その不安だけはまだ残っていた。ヨシユキ課長は続けた。

「F-108とバイオロイドの完全リンクは成功したようですが、間抜けな技術者なのでしょうね?どうも?内部に格納されているバイオロイドを見てみないとわかりませんが?所詮は未完成品ですね。商品にはならない代物です」

 リサのこめかみがピクっと動いて言葉が出た。

「未完成品でごめんなさい…で?返してくれるのでしょうね?」

 返してくれるならば文句は言わない

「まぁ?私がメールを送った、お間抜けな技術者が来れば考えますよ?」

 その言葉にリサはプチっと切れた。そして、大声を上げた。

「私がF-108とYUMI-90を作った間抜けな技術者です!」

 シュンは一歩引いた。この女?怒らせるとヤバい奴だ!

「やっぱり?そうでしたか?怒らせれば正体を明かすと思っていましたが、その通りでした」

 禿げ頭は「所詮は小娘の作ったもの?大したことはない」偉そうに言った。

「それじゃ?返してくれるんですね?」

 ここで物事を順調に話を乗せれば上手くいく。シュンはそう思って言葉にした。その直後である。


「パパ!その男を殺して!」


 大声をあげて入ってくる女。ゴールドの長髪。大きなブルーの瞳、まっすぐな鼻筋、白い肌、ピンクのルージュをひく「美人」昨日、捕まえたあの悪態女だった。

「パパ!こいつは昨日、私を撃墜した!私の機体を壊したのよ!その上、私を砂漠に置き去りにした極悪人よ!」

 あの悪態の性格は直っていない。さて?どうしたものか?

「ここはエデン法の適応外!殺してやる!」

 女の悪態が続いた。そして、トモノリ社長が口を開いた。

「そうか?うちの娘を撃墜したのは君だったのか。残念だよ?シュン。君とはこれからもいい取引が出来そうだったのに…金の為とはいえ、警察の犬になっただけでなく、軍の犬にもなっていたとは…本当に残念だ」

 トモノリ社長と悪態女、ヨシユキ課長が耐爆室から出た途端、耐爆室の全ての窓が閉まり、シャッターが下りた。

「ほう?これは?素晴らしい接待ですね?俺を殺す気ですか?」

 シュンは落ち着いていた。室内のマイクとスピーカーが生きているうちはまだ交渉ができる。

「そのとおりだよ?殺し方はいろいろある。その部屋に毒ガスでも入れるのが一番手っ取り早いがね?その女の依頼を受けたことを悔やみたまえ」

「いやぁ?今回の件では、俺はこの女性に感謝している。この対応で、確証がとれた。株式会社トモノリ、あんたら“PTA”じゃないのか?」

 耐爆ガラスの向こうの3人が狼狽えていた。

 リサは驚いた。“PTA”って何?裏社会のの暗号?わからない事だらけだった。

「シュンさん?“PTA”って何?」

 シュンは重い口を開いた。「プラネット・トレジャー・アソシエーション。トレジャー・ハンターとは名ばかりの泥棒屋の集団だ。金目のものは何でも強奪。現金、宝石、人も機械もだ!そして、それらを高額で売り飛ばす悪党連中だ。そして、俺達、ダブルマークの唯一の敵だ!」

 シュンの口調には怒りがあった。今まで数回ではあるが、こいつらに手を貸した事があったからだ。

「いかにも株式会社トモノリは“PTA”の表のフロント企業の一つさ、でもそれを知っても君たちを殺す決定には変更ない。残念だったな?」

 それでもシュンは落ち着いていた。そして、ニヤリと笑った。

「今日、ここにゴローがいないのが、変だと思わなかったか?ゴローは今日、こういった状況のための外部の連絡員さ、俺が夕方5時までに帰らない場合、ダブル・シャークとダブル・フォックスがここに容赦なく全面攻撃をかける。エデン法の適応外だからな?思いっきりやるつもりさ、まぁ?このビル群も15分くらいは持つかもな?」

 トモノリ社長は蒼ざめた。そして、必死に思考を回転させた。

「…シュン、見事なフラグだな?」

「フラグか、どうかは5時になればわかる」

 数秒の沈黙が流れた。

「シュン、わかった。それでは5時まで君たちを監禁しよう。もし、ダブルマークの総攻撃の兆しがあれば、直ちに君たちを解放しよう。兆しがなかったら、その時は君たちを殺してやる!」

 トモノリ社長は吐き捨てるように言い、3人とも部屋を出て行った。「さて?どうした物か」シュンがそう思っている間に、リサはF-108の格納スペースで勝手に作業を始めていた。メンテナンスボックスを開けて、中にあるテン・キーボードに暗証番号を入力していた。そして、静かなモーターの作動音を伴って棺桶のような、銀色のメンテナンスケースが現れた。ケースの横のスプリング錠を外し、上蓋を開けた途端、シュンは驚いた。スクラブを着た美少女だった。髪はセピア系のセミロングだった。そして、リサは呟いた「よかった!誰も手を付けていないし、壊れてもいない!」リサはもしかしたら?との希望で起動スイッチをいれた。起動スイッチは両耳の後ろのソフトタイプのスイッチ、それを同時に3秒長押しだ。「ダメだ?起動しない…」しかし、シュンの目にはこれって「女の死体?」に映っていた。シュン達の仕事上、死体を見ることは珍しい事ではない?しかし、依頼された案件では話は別だ。シュンは覚悟を決めたように話しかけた。

「おい?これって契約違反じゃないのか?ダブルマークは殺しと営利誘拐は絶対にやらない。知っているはずだ?」

「大丈夫よ?安心して、そのどちらでもないから?」

「それじゃ?この娘はなんだ?まるっきし女の死体じゃないか?」

 リサはまた、数秒の重い沈黙の後でゆっくりと答えた。その言葉には覚悟があった。

「オフレコをお願いできますか?」

 シュンも、そんな重要な事なのか?と思いつつもゆっくりと口を開いた。

「お前が本当のことを言ってくれるなら、信じるし、秘密もダブルマーク・イーグルの名誉にかけて守ろう」

「そうですか。ありがとうございます。」

 リサはゆっくりと感謝の頭を下げた。そして

「じゃぁ~!喋っちゃおうかな?」

 今までの言葉を選んで慎重な発言だけだったのに、口調が真逆になった。急に軽薄で流暢になり、その辺にいるギャルと全く変わらない?

「お前?キャラ変わりすぎ…?」

 シュンは驚いていた。その間にもリサは機関銃のようにしゃべり続けた。

「あら?このキャラの方が本当の私なのよ?今まであなたと話していたのは軍人のリサ!軍人ってね、秘密は守れ、口外するなとかの箝口令の雨嵐なのよ?軍人になって、唯一、後悔した事よ!女にとって箝口令なんか最大のストレスの原因よ!それでも、その軍の中で生きていくための役の一つを演じていたに過ぎないわ。女はね!みんな女優よ!」

 これじゃ?機関銃じゃなくバルカン砲だ。そのバルカン砲が連射を続けた。

「この娘はYUMI-90。私が作ったバイオロイド、しかも、この娘は最初から流動子で動くことを前提と最終目標にした機体よ。でもね…」

 急に口調が暗いものに変わって,更に続けた。

「この娘、YUMI-90はバッテリーでは確かに稼働した。それも私の想定以上の性能だった。でも、流動子のジェネレータに換装した途端、動かなくなったの。その原因は今でもわからない」

 犯罪者の告白を聞くような声だった。

「俺も流動子にはかなりうるさい男でね?ちょっと?この娘の中身を見てもいいか?」

「いいけど?前胸部の上の方にメンテ用のマイクロ・ファスナーがあるから…」

 マイクロ・ファスナーを開けると複雑な機構が詰まっていた。シュンも流動子で稼働するバイオロイドの中身を見るのは初めてだった。

「わかるの?」

 リサは覗き込むシュンの横顔を見ていた。5分ほど覗いたあと、シュンが顎を撫で回しながら喋った。

「あれ?この機体?反転回路が付いていないのか?」

「反転回路?リバース・サーキットの事?そんな物、付いていないわよ?今のバイオロイドには必要ないでしょ?」

 確かに現行稼働しているバイオロイドには反転回路はついていない。必要ないからだ。

「それじゃ?ついていないなら、多分、それが原因だ?」

 と、シュンは数多くの工具と部品の散乱する耐爆室の中を探し始めた。そして、1台の掃除機を持ってきて、分解を始めた。バラした掃除機の中から、球形の部品を取り出した。

「流動子のジェネレータの給電線はどこからだぁ?」

 その言葉に、さすがにリサの口調が激しく技術者の口調になった。

「ちょっと?私のユミに掃除機の部品を付けるつもり?ふざけんじゃないわよ!」

「俺は可能性の問題で言っている?それで、この娘が動くようになれば、それでOKじゃないのか?」

 シュンの言葉にリサは反論の言葉を失った。そして。

「上から4枚目のマザーボードの左奥に唯一、赤と蒼だけの回路が給電回路よ…」

 こんな男にバイオロイドの構造がわかるわけない?そんな考えをしているうちに、シュンは鼻歌まじりに給電コードを取り出して、一旦、マイクロニッパーで切断し、ペーストを付けて加熱したはんだ小手で反転回路につないだ。リサにとってはんだでの密着技術は以前、太古の作業方法で知識として学んだ事はあったが、実際の作業工程は初めて見るものだった。リサが唖然にとらわれている間に作業は10分程度で終わった。こんな原始的な作業工程を私のユミに…見たくない。リサはすぅーと立ち上がりF-108の機体前部の下で膝を抱えて座っていた。

 シュンの方は作業を終えたが、反転回路を収納するスペースはどうしても無かった「仕方ないか?」とバイオロイドの首に余った被覆電線でペンダントの様にして首から下げることにした。銀色のちょっとしゃれたペンダントみたい見えた。が、2本のコードが胸の中に入っているのはちょっと?まずいか?まぁ?いいか?起動したらリサさんに入れてもらえばいい?

「おぉ~い?リサさん?こいつの起動手順を教えてくれ?」

「両耳の後ろのソフトタイプのスイッチ、それを同時に3秒長押しよ」

 一応、教えたが、こんなんで、私のユミが再起動するわけない、時間の無駄ね?リサはそう思って今までの事を後悔した。

 一方、シュンの方はリサから教わった起動手順を行ってみた。すると、額の起動確認ランプが点灯し、そして消えた。シュンはニヤッと笑った。「こいつは起動する!」そして、続いて、YUMI-90は起動呪文を唱え始めた。

「YUMI-90、起動準備終了、Fパワーにて起動電圧の到達を確認、システム、ノーマル01、スタンバイ」

 起動呪文の後で、バイオロイドは目をゆっくりと開けた。しかし、そこにはユミの知らない男の姿があった。

「あなたは誰?リサはどこに行ったの?」

 不安な少女は矢継ぎ早に言葉を発した。

「俺はシュン・ラコステフ。リサって軍人に頼まれて君を救出しに来た者だ」

「いやぁ~!リサ~!たすけて~!」

 シュンの説明を聞いても少女の不安は解消できなかったのだろう?大声で叫んで、泣き始めた。それを聞いたリサが飛んできた。

「ウソでしょ?再起動した?あんな小さな回路がないのが原因だったの?」

 リサはシュンを突き飛ばして、ユミを抱きしめた。

「リサなの?私?どうしたの?」

 リサは泣きながら

「よかった!本当によかった!再起動の失敗であなたを壊してしまったかと思ったの」

 ユミはリサの肩口に顎を載せて喋り始めた。

「あの時ね?バッテリー動力からF動力って動力に変わったじゃない?そしたら、私の中の給電プログラムが、自動で新規の動力に書き換えられて、でも、その後、“F動力”ってのが急に途絶したから、動けなくなっちゃったの?」

 そうだったの?リサは自分の仮説が概ね当たっていたと実感した。

「シュンさん、ユミを再起動してくれて本当にありがとう!でも、なんで反転回路がない事が原因だとわかったの?」

 シュンは「そんなことも知らないのか?」の感情が出たが、それは飲み込んだ。

「流動子ってのは、進入角・退散角が重要だ。ほんの少し進入角がずれただけでも流動子のジェネレータは稼働しない。複雑なバイオロイドの中なら尚更だ。その点、掃除機なんか常に部屋の中を走り回るから、流動子のジェネレータは反転回路で進入角・退散角を常に最善に調整している」

 リサは今までのバイオロイドの作成では“余分なものや、重量のかさむものは載せない“との軽量至上主義が設計思想だった。これが根本から崩れた。「悔しいけど?彼の理屈は正解だし、事実、目の前で証明もされた」そう思っても、硬い拳は緩むことはなかった。

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