5 シュン
さっきからエンジンは全開を続けている。「そろそろケリをつけないと赤字なる」シュンは本気でそう思い始めていた。目標は5キロ先を飛行している違反航空機だ。機種はF-102、高速と旋回性能が売り物のスポーツプレーンで、若者に人気の機種だ。それに引き換え、シュンが乗るこの機体はF-98 MK-Ⅱ、汎用の頻度は高いが一般機と大差はない。が、F-102との最高速の差はどうしようもできない。しかし、違反機はこれまでも最高高度違反、最低高度違反、そして最高速度違反の大物だ。捕まえたら反則金の20%が懐に入る。そのため、しつこく着陸と停止指示を出しているが、それに応じる気もないようだ。しかも、航空機に搭載が義務付けられている自動着陸装置も切っているようだ。粋がっている若者なら当然のことか。本来、航空違反は政府所管の「政府警察」と呼ばれる組織が行うものだが、時代は変わり、「警察」と呼ばれる組織でも手に負えない犯罪が多くなってきた。今、追っている違反航空機も「航空警察」と呼ばれる組織では追跡も追いつく事もできない高性能な代物で、対応不可能のために民間組織のシュンたちに業務委託した。情けない話であるが。
「おい、ゴロー、起きろ。そろそろケリをつけるぞ」
シュンは後部座席でこれもさっきから昼寝をしているガンナーのゴローを起こした。
「どうだ?シュン、目標との距離は縮まったか」
大欠伸のあとで目を覚ました。
「5キロまで詰めた。ゴローやれるか?」
航空機の追跡では5キロも離れれば目標は点でしかすぎない。
「やってやるよ。シュン。俺には十分すぎる距離だ」
ニヤリとキャノピー越しに映るゴローの顔を見てシュンは親指を立てずにはいられなかった。「航空警察」と呼ばれる組織なら法律に雁字搦めであるが、シュンとゴローは民間人であるために、殺さなければ武器の使用も無制限なのだ。しかも、地上は数少ない植物は確認できるが基本的に砂漠と荒野。撃墜の地上の被害はほとんどないだろう。
「おい、シュン、ピンポイントで動力系を打ち抜くぞ」
F-102の動力系のシステムコンピュータはコクピットの1メートルほど後ろ、少しでも手元が狂えば2人は犯罪者である。
「わかった。ただし、リニアバルカンは使うなよ。無駄弾で経費がかさんじまう」
1分間に千二百発も撃たれたら完全に赤字である。
「了解。シュン。やるぞ。高度をあと、200とってくれ」
シュンのコンソールモニターにも照準を表すクロス・ゲージと様々なデータが表示された。航空機に対する射撃の基本は、今も昔も上方からがセオリーである。シュンは操縦桿を引いた。激しく揺らぐモニターの中でゴローはトリガーを弾いた。たった一発の20ミリ誘導弾は確実に目標へと向かっていった。
その数秒後、5キロ先で小さな光点と僅かな煙があがり、順調かつ偉そうに飛んでいた機体はバランスを崩して墜落していった。正確に言うなら地上300メートルで緊急軟着陸機能が働き不時着した。「さっさと着陸していれば機体を壊すこともなかったのに…いい機体なのに…」
同じ、航空機を愛するシュンには残念でならなかった。
F-98 MK-Ⅱは垂直離発着が可能であった。しかし、この手の違反者はいきなり拳銃を撃ってくる。シュンは慎重に違反機の後方に着陸した。そして、
「お~い?違反機のパイロットさん。俺たちは警察じゃない、民間組織のダブルマークのイーグルだ。素直にこれまでの違反切符にサインするなら、近くの町まで格安料金で送っていく用意があるぜ?どうする?」
通常の「政府警察」ここまでサービスは絶対にしないし、してくれない。
その忠告を聞き入れたか、キャノピーがゆっくりと開き一人の人間が降りてきた。以外に小柄だ「子供?」と、思った直後、ヘルメットを取った。とたんに風に靡くゴールドの長髪。大きなブルーの瞳、まっすぐな鼻筋、白い肌、ピンクのルージュをひく「美人」だった。しかも、センスの良い蒼いフライトジャケットとパンツを着こなしていた。しかし、その「美人」は口と性格と頭の中身は美しくなかった。
「あんたたち!私のこの子をどうしてくれるの?修理にいくらかかるかわかっているの?それ以前に、私が誰か知っているの?」
矢継ぎ早に苦情の雨嵐…しかし、弁護士あがりのゴローは落ち着きゆっくりと
「はっきりと言います。あなたがさっさと着陸していればこんな事にはならなかった。まぁ、自業自得でしょう。さて、修理ですが俺達がご贔屓にしている修理工場なら5000ボルで明日には飛べるでしょう。そして、最後の質問ですが、俺達はまだあなたのライセンスを見ていない。だから、あなたの事は知らない。そんなわけであなたのライセンスを見せてもらえますか?」
弁護士上がりの特有の回りくどい言い方だった。しかし、さすがにこの説得に観念した
のだろう。素直にライセンスを提示してくれた。ライセンスさえ提示してもらえば、あとは違反切符の事務処理だけ、その作業には簡単だった。だが、近くの町までの同乗はふくれ面で断った。
事務処理も終わり、シュンとゴローはF-98 MK-Ⅱに乗り高度百まで垂直上昇して、現場を後にした。その時、あの女は2人に向かって、アカンベーしていた。それを見て「まったく?反省もないのか?」シュンは呆れていた。帰投コースはナビのオートパイロットに任せてある。
仕事を終えたゆっくり感の中で違反切符を見直した。反則金は20万ボル、大体、平均的なサラーマンの1月分の給料だ。これを、10日以内に振り込んでくれれば、シュンたちの懐には20%の4万ボルが入る。いい稼ぎだ?そんでもって?あの女の名前はケイコ・タカモリ、年齢は22歳で会社員。結構な美人だったが?まあ?そんな情報はどうでもいい?とりあえず、違反切符を機内のスキャンに入れて航空警察のコンピュータに送っておいた。
シュンとゴローの活動拠点・オフィス通称“イーグルベース”は惑星「ドルモア」の首都ナルセの南へ約200㎞ほど離れた田舎町「アカネダイ」にあった。この町には民間の飛行場が4つ程あり、その中には3階建ての飛行場ビルを持つク・シハシ飛行場が拠点だった。
「お~い?シュン?早く帰って飯にしようぜ?」
腹をすかせたゴローが叫び始めた。
「いや?ゴロー?まて?変な見かけない機体が停まっているぞ?なんだありゃ?」
う~ん?とゴロー面倒くさそうに起き上がりは眼下の飛行場を見た。
「S-1050?しかも?あれって軍用機だぞ?」
Sナンバーの航空機は主に高速配達用の機体で、レースにも使用される速度を最優先のコンセプトの機体だった。
「まぁ?俺たちの客じゃないし?大丈夫だろ?」
そう言ってシュンは着陸態勢に入った。
機体をハンガーに納めて2人は歩いて事務所に向かった。
ダブルマークの服は基本的には白に近い銀色、肩にはソーラーパネルがあり、左上腕にはダブル・イーグルのワッペン、服の中には冷却ファンと電熱ヒーターで常に適温で保っていた。対ビーム・対レーザー装甲で、ヘルメットを被れば簡易な宇宙服になる優れものである。背部にはバックパックと呼ばれる各種通信ユニット等が装備されていて胸元にはマイクと服温の調節器、襟にはスピーカーが付いている。ブーツは靴底にマルスプレートがあり、条件がよければ数メートルのジャンプが可能。ダブルマークの技術陣が開発したもので「プロテクトスーツ」と呼ばれる逸品だ。
事務所に向かうと事務所の前の公共のベンチに一人の女が座っていた。
「あの?すいませんが?ここってダブル・イーグルの事務所でしょうか?」
女は立ち上がりいきなり話しかけてきた。濃紺の軍服が似合う…かなりの美人。シュンとゴローは顔を見合わせた。「この女?何者?何の用事だ?」




