4 流動子
22世紀後半の地球で、ある画期的プログラムが開発された。ナビゲーション・エアーフライト・システム、通称「NAS=ナス」の登場は航空機業界に一大革命をもたらした。燃料切れ以外、墜落の心配が全くないこのシステムは航空機を汎用化させた。その十年後、不法移民や亡命が数千件規模で相次ぎ、それに苦慮した各国は頭を痛めた末に、ある大きな決断と行動にでた。それは、地球上から国境線を消す作業に着手したのであった。
それから約10年、小規模な戦争や数多くの会議・会合・話し合いがもたれて、地球人類は有史以来、初めて国境線を消す事に成功したのである。地球は1つの直轄自治領、6つの大きな自治領と17の自治区によって構成された地球統合政府を発足した。各自治領と自治区の往来は原則、自由となった。そして、今まで、戦争・紛争に費やされていたお金と物資、そして、才能は人々の頭上にある宇宙へと向けられた。
20年に及ぶ研究と実験、そして尊い犠牲の果てに人類は火星に到達した。火星に到達した隊員の見たものは赤茶けた大地だった。が、その地下には膨大な無人の地下都市が発見された。これを先住火星人類の遺跡と判断し、調査を進めたが、遺跡であること以外、新しい技術の発見はなかった。ただ、各家庭と思われる室内には必ず十数枚のプレートがあり、大変に薄く硬いものであった。調査隊はこれを「マルスプレート」と呼び、とりあえず地球に持ち帰った。地球に持って帰ってもその使用方法は判らず、ただの硬い金属の板としかわからず、最終的には「何かの祭事に使われた宗教的な物」との当たり障りのない、一般的な結論に至った。その上、マルスプレートは地球上の鉱物で作ることが可能であることがわかると、科学者達は急速にその興味を失い、マルスプレートの価値は火星のお土産レベルまで下がってしまった。
その数年後、ある科学者の家で異変がおきた、軽くて薄くて硬いマルスプレートを風鈴の短冊の部分に使用していた時、風もないのに風鈴が鳴り出したのである。この科学者は「?」と思い、今度は完全に真空の容器の中に風鈴をいれてみた。すると、その中でも風鈴は揺れ続けた。人間と言う生き物は目には見えないものは否定する。しかし、この現象を学会で発表すると世界中の学者達が競ってマルスプレートの再研究を始めた。6年後、人類は光以上に速い、人間の目には見えない粒子が確実に存在し、マルスプレートにぶつかると、運動エネルギーを発生する事を突き止めた。
あの火星の各家庭で発見されたマルスプレートは発電機の一部で、軽くて薄くて硬く丈夫なマルスプレート以外は腐食してなくなり、マルスプレートだけが残っていたのだった。
そして、その未知の粒子は「流動子」と名付けられ、光よりも早く、方向性・指向性を与えれば宇宙船の推進動力として、また宇宙船内の電力供給源として十分に有効である結論に達した。
流動子の発見者が風鈴から発見された事から「F動力=流動子」の名前が定着していった。
各宇宙船には流動子のエンジンが次々と装着され、航続距離も既存の千倍以上になった。そして、宇宙開拓時代が始まった。
植民星には最初に流動子の発電ユニットが送り込まれて、その後は流動子発電ユニットを中心に町や国家が作られるスタンダードモデルが出来上がった。
それから、千年の時が過ぎ、地球人類は異星人・異文化との接触を繰り返し、人類は他民族・異星人との連合体国家を形成した。リサのいる「惑星ドルモア」もその植民星から惑星国家になった一つである。




