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3 事件

 起動実験の失敗から1日が経ち金曜日になっていた。

「限界…か?」

 リサはそう言って親指の爪を齧った。それを見ていたキミコ少尉はそんなリサを見て何も声を掛けられなかった。彼女が爪を噛む時は、とてつもない大きな壁にぶち当たり、ジレンマに陥っていた時だった。「私はユミを殺してしまった…約束していたのに…殺してしまった…」時折、そんな独り言が聞こえた。

 原因は判っていた。流動子のジェネレータである。このジェネレータが稼働したりしなかったりで、安定した出力を得られない。最初は不良品かと思い、メーカーに交換してもらったが結果は同じだった。しかも、返品したジェネレータもメーカーのテストでは十分に稼働したのである。バイオロイドの中では流動子のジェネレータは正常に稼働しない?

 従来のバッテリー駆動にも戻してみたが、結果は同じ、考えられる要素は、推測だが、ユミは流動子のジェネレータから機体への給電ルートが確定した段階で、ユミは自動で給電ルートの変更をリプログラミングしてしまった。あの時、一時ではあるが、蒼い目で起動し、最初は順調に給電していたが、理由は不明だが流動子のジェネレータで急に給電を停止して、倒れたとすれば合点がいく。いずれにせよ、ユミを再起動させるには流動子での稼働が絶対条件になった。

「今日はもう帰ろう…キミコ?ユミをF-108のメンテスペースに入れておいて、月曜日に技研に精査をお願いするわ」

「了解しました」

 キミコは力なく答えた。 F-108のメンテスペースはユミのためにカスタマイズされたものだった、2基あるエンジンの中央にある。本来は各種オプションを載せたり取り付けしたりするスペースであった。ユミの場合、ここに積載しておけばF-108の操縦と飛行可能である。

 帰宅してもリサの心は晴れなかった。熱いシャワーを浴びて、食事をして、テレビを見ての気分転換、それらは全て無駄だった。そして、リビングにはあの「罠パソコン」が置いてあった。「ここからユミとのすべてが始まったのに…」

 土曜、日曜とリサはトイレとシャワーと食事以外はベッドでずっと寝ていた。何をしてもダメなような気がする、ネガティブな思考が彼女の頭を支配していた。

 月曜日の朝が来た。さすがにこれ以上は、寝ていられない、リサはゆっくりと起き上がり、シャワールームに向かう途中で「あれ?私って?技研への連絡したっけ?」記憶をたどっても、その記憶はない。「あちゃ?しくった?ユミの事で頭がいっぱいで忘れていた!」簡単な結論にたどり着いた。「まぁ?いいか?出勤してから連絡すればいい?」

 リサの勤務体系、上級士官であるため基本はフレックスであった。軍施設に到着はいつも10時頃、いつものルーティンに沿って身支度を整えた。

 研究室に着くとキミコが既に出勤していた。

「少佐、おはようございます。週末はゆっくり出ましたか?」

「はい、キミコ、おはよう。今週も頑張っていきましょうね!」

 そうして、研究室から下の格納庫のハンガーを見てリサは驚いた。実験用のF-108が跡形もなく無くなっていたのである。

「キミコ?F-108は?」

 叫び出したい動揺を抑えつつ、キミコ少尉に聞いてみた。

「今日の朝早くに技研の企画第7課の方が来られました。少佐からの依頼で取りに来たとの話なので、渡しましたけど?」

 リサは驚いたが、冷静に「私は技研にはまだ連絡していない、しかも、最新鋭戦闘機であるF-108を一機、黙って持ち出せる事が出来るのは、軍内部の人間か軍内部に内通者がいる。それに技研の企画部は5課までで、7課なんか存在しない」盗まれた…リサはそう思った。そして、

「技研も対応が早いわね?あとでお礼を言っておかなきゃ?」リサは続けた。

「キミコ?私、今日は体調がすぐれないので有休をとるわ。あとをよろしくね!」

 そういうと、早々に退室し、自分の車へと向かった。残されたキミコ少尉は

「少佐が?週の初めから有給?しかも、一度出勤してから?休みの連絡なら、朝、電話1本で済む連絡なのにどうしたのだろう?」

 キミコの頭の中は“?”マークが沢山あった。

 車の中でリサは対応を考えていた。犯行が軍内部の者ならば、副官のキミコと言えどももう信用できない。内通者がいれば尚の事。「極秘で緊急、そして、最優先でF-108とユミを取り戻さなければならない」そう考えつつ自宅へ急いだ。

 自宅に戻ると、「軍の機関は使えない。極秘で早期に取り戻すのは?」の自分への問いがあった。

 その時、プライベートで使っているパソコンにメールが着信した。「なんだろう?こんな時に?」メールを開くととんでもない事が書かれていた。

「拝啓、連合宇宙軍、リサ・ラファエル少佐殿、貴君の開発したF-108とYUMI-90は当社の完全管理下にあります。ご安心ください。しかしながら、YUMI-90は厳重なロックの中にあり、取り出すことができません。機体を破壊しての取り出しも考慮しましたが、それはお互いの利益にならないと思います。つきましては、一度、当社にご訪問されてのご教授をお願いいたします。尚、誠に勝手ながらご来訪はこのメールが到着後72時間以内でお願いいたします。ご来訪なき場合、または警察や軍部の関与がありました際はこれも誠に勝手ながら強硬手段に移ることをご容赦くださいませ。株式会社トモノリ」

 なんて、ふざけた…脅迫文!「上等!やってやろうじゃないの?F-108とYUMI-90は絶対に自力で取り返してやる!」本気でそう思った。しかし、極秘の緊急で武力衝突の恐れのある依頼を引き受けてくれる組織や会社ってある?その中で、ある組織の名前が浮かんだ「ダブルマーク」確か、このドルモアにも1つあった事を思い出した。グループ名は確か「ダブル・イーグル」リサはすぐさまネット検索をかけた。

「ダブルマーク」それは政府の警察組織ではない、基本は自衛組織である。理不尽な盗難や強奪から財産を取り戻したり、様々な暴力から依頼者を守る、営利を目的とした集団であるが、場合や事情によっては無償で動く時もある。そういった組織である。そんな「ダブルマーク」を人々は敬意を込めて、「スーパーポリス」と呼んだ。

 その自衛力は強大で連合宇宙軍と同等か、それ以上。その反面、双方は敵対こそしていなかったが、反目しあっている関係だったが、そんな事情は今のリサには関係なかった、そして、即座にネット上からアクセスした。


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