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2 LISA

「これもダメか…」

 パソコン上の数十にも及ぶエラー表示のシミュレーションの結果を見てリサ・ラファエルは深くため息をついていた。

 彼女は連合宇宙軍の惑星「ドルモア」の半軍半民のイタド駐留基地に勤務する、技術士官の少佐である。現在、彼女は戦闘機とPOSを搭載したバイオロイドとの完全リンクの構想を持っていた。つまり、自分で出撃し、戦闘を行い、帰隊後は自分で整備・修理してハンガーに収まる。これが出来れば宇宙に連れていく人間を大幅に削減できる。この技術は戦艦や巡洋艦、駆逐艦レベルでは既に実用化されている技術だったが、戦闘機とのリンクはまだ実用化されていない、リサはそこに開発者の夢を抱いた。しかし、それはかなりの難題であった。軍用POSが最新鋭戦闘機F-108との相性が悪すぎて完全リンクなど夢のまた夢。元々、軍用POSは大抵はバイオロイドに搭載されて、主に白兵戦用に作られており、戦闘機とのリンクは想定されていない。しかも、軍採用となると、軍の既定のPOSしか使用することができないと言うジレンマだった。すでに、1千回以上のシミュレーションでも全く成果があがらなかった。

「少佐、ご飯を食べて気分転換などはいかがですか?私でよければご一緒させてください」

 そう、笑顔で声をかけてくれたのは副官のキミコ・オオヤマ少尉だった。

「ありがとうキミコ。そうね、お昼にしましょう」

 リサはそう言うと技術者用の白衣を脱いで椅子に掛けてキミコ少尉と一緒に部屋を出て行った。

 リサの後ろを歩いていて、彼女の後姿を見ていると、ふと思った。一糸乱れぬ濃紺の軍服の完璧な着こなし、タイトなスカートから伸びる細く長い脚、「リサ・ラファエル少佐…なんて素敵な人なの?年齢は私より2つも下なのに、悔しいけど知識も教養も私よりもはるかに上、そして上層部との折衝や交渉も上手いし、企画・立案・構想も十年は先を行っている。最難関の高等兵務女学校に最年少の十六歳で入学したのも納得できるし、伊達じゃない。確かに最初の配属された際は嫉妬の感情が先に来たが、数日後には憧憬の感情に変わっていた。私はこの人に追いつきたい」キミコ少尉は本気でそう思っていた。

 リサの美貌は隊内でも有名であった。身長175㎝の長身で抜群のプロポーション。肩までの銀髪、整った顔立ち、赤い目、スーっと通った鼻筋、ルージュを引けばもっと魅力的になる事が約束された唇。しかし、リサは濃いメイクは好まなかった。必要最小限が彼女のメイクに関するポリシーだった。額にはいつもなぜかヘアバンドをしているが、それもまた似合っていた。才色兼備、その言葉は彼女のためにある。事実、彼女のファンクラブなるものが非公式ではあるが3つほど存在していた。その為、彼女に言い寄ってくる勇気ある男性隊員も多数いたが、すべて、彼女のやんわりとした「お断り」で玉砕の海に沈んでいった。心無い隊員は「リサ・ラファエルは最後には研究開発って男とと結婚する」との噂があったがリサの耳に届く事はなかった。


 食堂は昼食時のラッシュで大賑わいであった。

 リサは少佐なので上級士官用の静かな士官室が用意されていたが、彼女は士官室の重苦しい空気より女性下士官たちのくだらないおしゃべりの雑音の中での食事が好きだった。

 その中で一人の女性下士官の話が彼女の耳を引き付けた。

「ねぇ?ユミって知っている?私が昨日、パソコンで友達と話しているときに、急に入ってきたの?名前は“ユミ”って言って礼儀正しいし、話も面白いから3人で盛り上がっちゃった。本人は“私はPOSです”って言ってたけど、本当の人間みたいだったし、モニター上の顔も十六歳から十八歳くらいで、結構、可愛かった」

「それって“NPOS”ってやつじゃないの?そんなの都市伝説でしょ?そんなNPOSがいるわけないじゃない?第一、NPOSって大抵がノイズだらけで翻訳機能や言語機能もいい加減じゃないの?」

 NPOSとはノンブランド・パーソナル・オペレーティング・システムの略で、POSが廃棄の際にネット上に逃げ出して、ネット上やパソコンの中に存在する事である。しかし、NPOSはメンテナンス等が受けられないために、数日から数週間でバグやエラーで自然消滅してしまうものだった。そのためNPOSの“N”を「野良」と訳して、NPOSと呼ばれることもあった。

「面白そうなお話ね?ちょっと聞かせてくれるかしら?」

 そう言うと、リサはトレイをその下士官の横に置いて座った。その横にはキミコ少尉が続いて座った。

「少佐、上級士官室はあちらですよ?それによろしいのですか?ただの都市伝説かもしれませんよ?」

「いいのよ?士官室は静かだけど重苦しくて、無口なオジサンばかりだし、ここのガールズトークの方が楽しいわ。情報も多いしね?それに、都市伝説の中にもとんでもない真実や発見がある事もあるのよ」

 リサはにこりと笑った。

 下士官たちから聞いた話を総合すると、このPOSの名前は“ユミ”。確かにこのPOSはかなり傷ついているようで、多少のノイズはあるが、おしゃべり好きでネットの世界で人間との接触と会話を楽しんでいる。そして、互換性がかなり高いらしく、様々な型式・年式のパソコンやタブレットにOSに関係なく同期できる。不意に現れて1~2時間のおしゃべりのあとでまたどこかに行ってしまう。

 ここで、おしゃべりの内容が問題だった。彼女は必ずメンテナンスをしてくれる技術者を探していて、見つけたら教えて欲しいとの話題が出るとの事。

 その情報を聞いてリサはニヤッと笑った。「そのユミってPOSが存在・実在するならば、私の開発する構想を実現できるかもしれない」

「そう?貴重な情報と時間をありがとう」

 リサはそう言うと急に無口になり早々に食事を終えて食堂を後にした。その直後、リサは踵を返すと

「キミコ?私は先に戻るけど、あなたはゆっくりでいいわよ?」

 キミコは「またか?少佐はいつもそう?重要で貴重な情報を掴むと全ての優先順位がひっくり返る?」と思いながらもコーヒーカップを赤ちゃん飲みして、

「はぁ~い!了解です~!」

 と言ってリサを見送った。


 翌日、リサは有給休暇を取ってパソコンのジャンクヤード街を歩いていた。

「おお、リサちゃんじゃないか?久しぶりだな?中古パソコン屋に何か用事か?」

 顔見知りの禿げ頭のジャンク屋の親父さんが話しかけてきた

「ちょっと?特殊なパソコンを探しているの?容量はSHDの500テラバイト位でメモリーは16テラバイト。CPUはある程度早ければそれでいい。で、重要なのは無線LANが最初から付いていないで、LANケーブルだけの機体ってある?」

「かなり前の機体になるな?4世代か5世代前の機体だな?」

 リサはニコッと笑って女の得意技の「お願い」の顔を見せた。ジャンク屋の親父さんは「やれやれ…?」と、頭を掻きながら店の奥に消えていった。

 その十数分後、埃の被ったいかにも型遅れのパソコンを持ってきた。

「一応、オーダーのとおりだが、稼働と耐久性は保証できないが…」

 その言葉にリサはニコッと笑って大きく頷いた。

「十分よ、おいくらでしょうか?」

「600ボルってとこだが、リサにはご贔屓にしてもらっているから、ノークレームのノーリターンならば、400ボルでどうだろうか?」

 リサは直ぐに財布からボルカードを出してIC端末で決済した。

「毎度あり、で?こんな古いパソコンを何に使うんだ?聞かせちゃくれないか?」

「優秀なPOSの狩りと捕獲よ?」

 リサはニコッと笑って答えた。

 ジャンク屋の親父は

「はぁ?なんだそりゃ?」と首を傾げた。


 リサは家を2軒持っている。1軒は街中にある中流マンションで、普段はここで一人暮らをしていて、ここから軍の施設に通っている。もう1軒は軍の研究所の中にあり、研究や仕事が長引いたりした際に、仮眠や休憩をとる際に泊まる施設で、ここはスタンバイルームと呼ばれていて、佐官以上に与えられる個室である。階層で男女に分けられていて、一応、十分な生活が出来るが、トイレと24時間使用可能なシャワールームとバスルームが共用な点を除けば研究・開発者のリサにとっては至れり尽くせりの環境だった。

 今回は街中マンションの方の自宅に戻った。リサは早速、中古パソコンを起動した。OSも何も入っていない中古で真新のパソコンだったが、手持ちの4世代前のOSを入れて、そして、立ち上げた。

「さぁ~て、狩りの始まりよ…」

 そう、呟くとネットに接続して、あちこちの掲示板に「天才SEからPOSの使用者とPOSの皆様へ、バグやノイズでお困りの方は当店にご相談、ご依頼ください!POSの方の直接のご来店も大歓迎!現在、キャンペーン中につき格安200ボルで承ります。ご連絡は下記まで!ご連絡&ご訪問をお待ちしています~!」と、大風呂敷広げた書き込みを行った。

「これで、ユミっていうPOSが引っかかれば…私の…勝ち…!」

 POSはその使用者との関係にもよるが、比較的に自由な環境にあるPOSが多い、使用者が必要な情報をPOSに望めば、ネット上を駆使して情報を集めてくる。

 しかし、その際に接触先のアンチウィルスソフト等によってPOSのプログラムが傷つくことがあり、または飛んだ先でデレートされて帰ってこない事もある。損傷した時は専門的なプログラマーに修理を依頼する事になる。だから、慣れ親しんで付き合いの長いPOSを大切に思う使用者達は、ビジネスパートナーや秘書を治療や入院に出すと言う感覚である。

 罠を仕掛けて4日がたった。自宅のパソコンに着信があればすぐにタブレット端末に連絡がはいるようにしていたが、まだ、何の連絡もなかった。

 5日目の夕方、帰宅途中の彼女のタブレット端末にアラートと振動の連絡があった「もしかして?」そう思ったリサは乗用車のアクセルを思い切り踏んだ。

 自宅に戻った時にわざと窓に向けた罠パソコンのモニター画面が反射した窓ガラスに映った映像はまさしく「少女」の顔だった。16から18歳くらい。「来た!情報のとおりだ!」リサはそう思った。パソコンのカメラは作動するようにしていたが、マイク機能は切ってあった。その後のユミに関する情報では、ユミは非常に用心深く、頭もいい、何か異変があれば直ぐに逃げ出すとの情報を得ていたからだ。

 リサはそれを考慮してマイク機能を切っていたのだ。その少女はモニターの中を何かを探している様だった

「これって?何よ?天才的SEなんかいないじゃない?それとも?留守なのかな?お~い?ごめんくださ~い?誰かいませんかぁ~?お客さんですよぉ~!」

 スピーカーからこのPOSの声が流れた。

「かかった!間違えない!」そう思った瞬間、リサはカメラの死角からゆっくりと近づき、一瞬でLANケーブルを引き抜いた。

「え?どうしたの?急に入り口がなくなった!無線LANは?嘘でしょ?ここって?無線LANのゲートがない!」

 リサはパニックを起こしているPOSを初めて見た。それと、この少女の映像にかなりのバグとノイズがあり、少女の顔が時折、髑髏や悪魔のように変化していた。「このPOSかなり傷ついている」そう思って、パソコンの画面の正面に回り込み、マイク機能をオンにした。そして、ゆっくりと話し始めた。

「はじめまして、私の名前はリサ・ラファエル。あなたの名前を聞いていいかしら?」

 その少女は「今の状況ではここからは出られない」と判断したのだろう。モニター画面の中でゆっくりと喋り始めた。

「あたしは…ユミ…今すぐここから出してください!」

「そう…ユミって言うのね。私はリサ・ラファエル。連合宇宙軍の技術開発部の少佐をしています」

「その軍人さんが、あたしに何の用ですか?ここから出してください!」

「ダメよ。今回は何とか捕まったけど、同じ手はもうあなたには通じないし、使えない?そうでしょ?」

「あたしをどうするつもりですか?デレートするの」

 NPOSにとって、デレートとは殺すと同義語だった。ユミは泣きそうだった。その間にも髑髏と悪魔がノイズと一緒に現れては消えていった。

「まさか?まず、今のあなたの状況を教えてあげます。あなたはと~っても不安定。いつ消えちゃっても不思議じゃない?わかるかしら?」

 ユミは黙って聞いていた

「まず、私はあなたを安定化させることができるし、それだけの技術も持っている。その上で、どう?ユミ、私と組まない?」

 ユミはきょとんとした表情になった。「この人は悪い人ではない?」そして、表情がゆるんだ。

「組むって?私に何をさせるんですか?」

 リサは説明を始めた。

「まず、あなたにあげるものがあります。まず、これを見て?」

 そう言うと、リサはカメラの前にタブレット端末の中の女性体バイオロイドの機体を見せた。

「私が作った何のPOSも入っていない、言わば素体バイオロイド。ロットナンバーは90。だから、あなたが乗れば「ユミ90」と呼ばれるでしょう?ちょっとかっこいいわね?でもタダってわけにはいきません。仕事をしてもらいます。ユミ、私は航空機とバイオロイドとの完全リンクの構想を持っているの、自分で出撃し、戦闘を行い、帰隊後は自分で整備・修理してハンガーに収まる。そんなシステムを作りたいの」

 ユミは息をのんだ。「この人って天才?」

「そして、私と組むならば、あなたのメンテナンスと、この素体バイオロイドの提供、そして、お給料を支払う事を約束するわ」

 なんて素敵な条件。

「リサ?それってあたしが体と仕事とお金を貰えるって事?」

 リサは静かに頷き

「そのとおり。どうする?ユミ?これから先はあなたの決断次第よ?」

 ユミは十秒程度の沈黙の後、決断した。


 数日後、リサの研究室ではキミコ少尉の立ち合いのもと、重大な起動試験が行われようとしていた。ユミのバグとエラーの修正が終了し、これからユミを素体バイオロイドのロットナンバー90にインストール段階を迎えたのである。

 モニター上のインストールのパーセント表示がゆっくりと上昇し数分で100%になった。

「スイッチ…入れるわよ。キミコ、もし、この娘が暴走して暴れだしたりしたら、起動実験は中止、すべての電源を切ってあなたは直ちに逃げなさい。私は責任者としてここに残ります。」

「そんなことはできません。拒否します。少佐の身体と生命を守るのが私の重要な任務です。少佐が残られるのなら、私も残ります」

「いい度胸ね?もし、この娘が暴走しても、この娘の今のバッテリーの稼働時間は3分程度、その間、なんとか2人で生き延びましょう?」

 そのリサの顔には本気と緊張、そして覚悟の表情があった。

 事実、NPOSを市販のバイオロイドに面白半分でインストールして、その直後に暴走状態になり、大事件になった事が、年間にして数件発生していた。一応、リサの研究室は大抵の爆発にも耐えられる強度を有していたが、室内で暴れだしたバイオロイドには対応していなかった。そして、人間の数倍・十数倍の身体能力を持つバイオロイドに素の人間、ましてや、女性2人で抑える事など物理的に不可能だった。ガードロイドとよばれる格闘と警備専用のバイオロイドを手配する事も出来たが、研究者の性だろうか、一刻でも早く結果が見たい感情の方が先に出てしまったのである。

「起動するわよ?いい?」

 キミコは覚悟を決めて頷いた。

 YUMI-90起動手順は、起動スイッチが両耳の後ろ、ソフトタイプのスイッチがあり、それを同時に3秒長押しだった。

 リサも、覚悟を決めて、両耳のスイッチを長押し、すると、バイオロイドの額にお約束の起動確認のランプが点灯し、そして消えた。そして、呪文のように呟き始めた。

「YUMI-90、起動準備終了、起動電圧の到達を確認、システム、ノーマル01、スタンバイ」

 起動呪文を言い終えるとユミはゆっくりと目を開けた。

「…リサ?どこにいるの?」

 天井しか見えていないという状況での不安な声だった。部屋の片隅で不安で両手を握り合っていたキミコとの手をほどき、リサはユミに近づき

「おはよう、ユミ、あなたとバイオロイドの起動実験、成功したのよ?おめでとう!そして、はじめまして!」

 半身を起こしたユミをリサは抱きしめた。

「はじめまして、リサ、あたし、体を手に入れたのね!」

 そこに、ガウンを持ったキミコが近づいてきた。

「少佐、感動するのもわかりますが、ユミは今、素っ裸ですよ。若い女性にこれでは相手がバイオロイドでもセクハラになりますよ。」

 そういうと、キミコはユミにガウンを掛けた。そして

「私は本当にはじめましてね?私はキミコ・オオヤマ。リサの下で副官をしています。これからよろしくね!」

 キミコは笑って初めての挨拶をした。

 それから、ユミの各種点検や稼働状況確認がはじまった。歩行運動試験、カメラアイ試験等一つ一つの試験項目は大した事はないが、その数百項目の確認が終わったのは起動から3時間後だった

 次は教育が始まった。リサの開口一番。

「ユミ。最初に言っておくけど、あなたは整備専門のメンテロイドの登録よ。それと私はあなたが戦う事を望んでいない。わかったわね?」

 ユミはちょっと意外?って顔をした。

「えぇ?それじゃ私って変身アイテムや変身ポーズで変身したり、巨大化したりはできないの?」

「特撮ヒーローや魔女物アニメじゃないのよ?あなたに与えてあるのはモードの切り替えだけ」

 ユミは「なんだ?やっぱりあるんじゃない?リサったら出し惜しみして!」と喜んだ

「どうすればいいの?」

「胸元にクリックタイプのスイッチがあるでしょ?それを押しながら下に下げてあなたの声で“YUMI-90・バトラックス・イン”と、叫びなさい。」

 早速、ユミは胸元のスイッチを下に下げて

「YUMI-90・バトラックス・イン」

 と、叫んだと途端、右腕の人工の皮膚が内部に巻き取られて白いスジだらけの腕の変わり、左腕も同じく人工の皮膚が内部に巻き取られて、黒いゴツゴツの腕に変わった。

「なにこれ?」

「その右腕には2百を超えるツールが入っているわ。通常の整備には十分な数と量よ。左腕は打撃しての破壊用、巨大な金鎚ってところかしら?威力的にはアマチュアのボクサーのパンチ程度かしら?」

「えぇ?それじゃ?ビームソードとか、レーザー光線、高出力のブラスターは?マイクロミサイルや実包のバルカン砲とかはないの?」

「はぁ?」とリサはため息をついた。この娘は中二病がまだ残っている。

「さっきも言ったけど、私はあなたに戦ってほしくはないの、だから、あなたに与えてある装備は自分を守るだけの装備よ?第一、ビームやらレーザーを使ったら、一瞬であなたの体内電池を食い尽くすわよ?マイクロミサイル?そんなものを入れるスペースはどこにもないわ、バルカン砲ですって?3発も打てばその振動で、あなたの体はバラバラに分解するわよ?」

 ちょっと残念?ユミはそんな表情をした。それを見たリサは

「でもね?あなただけの特装もあるのよ?左手の親指の下辺り、赤いスイッチがあるでしょう?それを数回押してみて?」

 ユミは言われるままに押してみた。しかし、何も変わらなかった。ただ変わったことは、リサが止まったままだった事だ。どうしたの?また、故障かと思って数回赤いボタンを押した。すると、リサは急にしゃべり始めた

「わかったかしら?それがあなたの特装の倍速装置よ?航空機のリンクでは航空機以上に素早く動くことがどうしても求められる。そのための装置よ?倍速係数は最大で3.0。これはあなたの機体を徹底的に軽量化して叩き出した数字よ。現行のバイオロイドの中では最速ね?わかったでしょ?」

 ユミには不満もあったが、今はこれで十分、何より自分の体、自分の機体が持てたことが嬉しかった。

「さぁ?バトラックスモードは電力を馬鹿食いするから、胸のクリックボタンを下げてバトラックス・アウトしなさい」

 ユミはうんと頷いて

「YUMI-90・バトラックス・アウト」と呟いた。する今度は両腕は人工の皮膚が現れて綺麗に巻き付いた。


 晴れ渡る冬の空を1機の最新鋭戦闘機F-108が飛び回っていた。その機体のコクピットにはパイロットは誰も乗っていない。そして、コクピット後部にはあの少女が真っ赤なフライトスーツを着て波乗りにするように立っていた。それをインカムを付けて、軍用コートを羽織り、眩しそうに見ているリサ。それは自分の娘が晴れの初飛行を見ている様だった。

「ユミ!そのまま高度3千まで直上昇!3千でユミは機体から離脱して降下!機体をコントロールして高度千で機体後部に着機しなさい!」

「了解!」

 それは少女が戦闘機で楽しくアクロバット飛行を楽しんでいる、遊んでいる。そんな光景だった

「リサ~!この体~!さいっこう!」

 リサの顔に目標達成の笑顔があった。

「リサ君、とうとうやったな!」

 そう声をかけてきたのは初老の軍人だった。階級章を見れば少将。リサは振り返り軽く会釈した。

「まったく、あの機体が無人で、あの娘がリンクして操縦しているとは、今でも信じられない」

「ありがとうございます。ローズイ将軍。これも将軍が私の構想を認めてくれたからできたのです。」

 うんうんと頷いたローズイ将軍。

「しかし、あの娘、YUMI-90が軍の規格から大きく外れている点だけが非常に残念だ。だが、これで戦闘機とバイオロイドの完全リンクが可能である事が証明された。素晴らしい成果だ」

「ありがとうございます。ローズイ将軍。でも私は次のステップを考えています。」

 ローズイ将軍は驚いて

「ほう?まだ何かあるのかね?聞かせてくれないか?」

 リサはゆっくりと話し始めた。

「あの娘は今、バッテリーで稼働しています。バトラックスモードでは電力を馬鹿食いします。ですから、あの娘の稼働時間は2時間ほどでしょうか?ですから、次はあの娘、“YUMI-90”を流動子で稼働させたいと検討しています」

 ローズイ将軍は驚いた。

「あの娘を今度は流動子で稼働?確かに大型の艦船では流動子を動力として使われているが、バイオロイドには流動子での稼働する事は不可能と言われているぞ?」

「だからこそやりがい、挑戦し甲斐があるのです。それに?私はいつも諦めが悪い女なんです」

「よろしい!私の権限で戦闘機10機分までは予算を保証しよう!頑張ってくれたまえ!」

 リサはゆっくりと頭を下げた。そして

「ユミ!今日はもういいわ。降りてきなさい!」

 F-108は高度を下げてきて、ユミはリサのいる場所の上空高度500で離脱して飛び降りた。そして、慣性の法則など無視するかのようにリサの前にストンと膝立て着地した。一方のF-108は通常のとおりに着陸し、そのままハンガーに入っていった。

 そして、ユミは得意げに

「ローズイのおじ様、リサ、私の初フライト見てくれた?かっこよかったでしょ?」

 それを聞いたリサは

「ユミ?ローズイさんは少将で私の上司なのよ?言葉には気を付けなさい。ローズイ将軍、申し訳ありません」

 それを見たきょとんとしたユミ。

「かまわんよ?ユミちゃん?君には僕の事を呼ぶときは特別に“ローズイのおじ様”と呼ぶことを許可しよう」

 ユミはニコッと笑って

「うん!わかった!」

「将軍、よろしいのですか?うちのユミが申し訳ありません」

 リサは再度深々と頭を下げた。

 こうして、ユミの試験飛行とデモフライトは無事に成功の裡に終了したが、しかし、その成功を遠くで嫉妬の目で見ている目が2つ、好機の目で見ている目が多数あった


 その翌週の木曜日から、リサはユミの流動子稼働実験に着手した。

「本当にユミちゃんは本当に可愛いですね?モデルは誰ですか?」

 キミコ少尉はメンテ台の上に電源を切って寝ているユミを見て思った。ユミは身長173㎝でキミコが羨むほどのプロポーションをしていた。髪はセピア系のセミロングで目の色は赤色、その容姿は女性の16歳位の可愛い世代から、綺麗になる18歳代の過渡期の女の子。今はスクラブと呼ばれるメンテナンスでの脱着が簡単な服を着ているが、この娘は着飾れば素敵なレディになる。私がコーディネートして磨いてあげたい。キミコは本気でそう思っていた

「モデルは特にいないわ。私に娘か妹がいたらこんなかんじかなってレベルのフルスクラッチで作ったのよ」

 キミコは驚いた。ハンドメイドのバイオロイドの大抵は既存のボディを組み合わせて作るのが一般的、フルスクラッチで作る技術者は拘りが強く、よほど美術か芸術をやっていた人間にしかできない。

「え?ユミちゃんは少佐のフルスクラッチで?すごいですね?私、少佐をまた尊敬しちゃいました!」

 目をキラキラさせているキミコに

「それより、ユミのバッテリー駆動から流動子動力への換装作業を始めるわよ?私も初めての作業だから3日位かかるから、キミコ?帰れないけど覚悟してね?」

 そう言うとユミの前胸部のメンテ用のマイクロ・ファスナーを開けて作業を始めた。

 バッテリーから、市販されている一番小さい流動子のジェネレータに換装した。作業は順調に進み、8時間ほどで終了した。「意外と簡単ね?」リサの推定作業時間の当てが大きく外れた。

「キミコ。起動するわよ?」

 そう言うとユミの起動スイッチが両耳の後ろ、ソフトタイプのスイッチがあり、それを同時に3秒長押しだった。前回は暴走を恐れて緊張したが、今回はそんなことはなかった。バイオロイドの額にお約束の起動確認のランプが点灯し、そして消えた。そして、呪文のように呟き始めた。

「YUMI-90、起動準備終了、Fパワーにて起動電圧の到達を確認、システム、ノーマル01、スタンバイ」

 起動呪文を言い終えるとユミはゆっくりと目を開けた。「やった!成功よ!」リサは嬉しくて仕方なかった。と、同時に「なぜ?こんな簡単な改造なのに?他の技術者やメーカーの人は出来なかったの?」との疑問がでた。

「リサ?私って今?流動子で動いているの?あんまり変わらないよ?」

 目を開けたユミの目を見てリサは驚いた。赤い瞳だったユミの目は蒼色に変わっていたのである。

「ユミ?何か他に異常はない?大丈夫?」

「うん?大丈夫だよ?」

 明瞭の答えるユミにリサには安心感・安堵感があった

「それじゃ?ユミ、新しい装備の話よ」

 ユミの顔が綻んだ。「新しい装備って高出力のビーム?ブラスター?それとも?マイクロミサイル?」ユミは本気でそう思って心が弾んでいた。

「両上腕のバッテリーが必要なくなったから、そこに新しい装備をいれたの。まずは右腕、流動子を使用したバイオロイド専用の武器を装備しました。種類としては、バイオショットと、バイオブレッド、そしてバイオブラスターが主流だけど、あなたの右腕に付けたのはバイオショット。一番弱い武器よ?威力はボクサーのパンチ程度で、殺傷能力は無いわ、射程は15m」

 リサは続けた。

「あとは、左腕に装備したバイオシールド、言わば盾ね?大抵のレーザーやらビーム、実包やマイクロミサイルでも十分に防げるわよ」

 ユミはふくれっ面だった。「もっとかっこいい超必殺技的な武器が欲しいのに…」

「やっぱり?必殺の決め技的な武器は?」

 そう言いながらユミが作業台から降りようとした瞬間、ユミは意識を無くした人間の様に顔面から床面に倒れてしまった。リサとキミコの悲鳴。そして、2人の呼びかけにも全く反応がなく、人間でいう死亡した様になってしまった。

 これが、各家電メーカーやバイオロイド製作会社の技術者達が、流動子で稼働するバイオロイドを完成できなかった理由がこれだったのだ…!

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