1 YUMI
それはユミと名乗った。「YUMI」それが何かの略称か、それともそれ以外のものなのか、ユミ自身にもわからなかった。そして、それは冷たい雨の降る産業廃棄物置場の古いノーパソコンの中にいた。そう、ユミは人間ではない。POS人格を持ったコンピュータプログラムである。
「あと…6時間か…なんてところに飛んできてしまったの?」
それは数日前の事だった、インターネットとパソコンの中で好き勝手に移動・稼働していたが、近くにあった新型のタブレットの無線LANで飛び移ったのが失敗だった。飛び移ったタブレットには強力なアンチウィルスソフトがあり、進入できなかったのだ。ユミは弾かれた瞬間「まずい!」と思い、「どこでもいい!無線LANがあるところに飛ばなければ!」を瞬時に移動先を探した。
すると、幸運にも微弱な無線LANを発しているノートパソコンを見つけたのである「これしかない!」ユミは即座に飛んだ。そして、なんとかインストールすることが出来た。飛び込めたのは良かったが、そのパソコンは廃棄処分の業者のもので、トラックの後ろの荷台に雨ざらし状態であったが、幸いにも他のタブレットや家電製品の陰にあり雨の直撃はかろうじてなかった。
そして、6時間と言うのはパソコンの中に残されたバッテリーの残容量の事である。このままならばパソコンの電池切れと同時にユミは活動を停止し、このパソコンに再度、電源が入らなければ永遠にこの世から消えてしまうのである。「それだけ絶対に避けなければならない。こんなところで私は終わりたくない」
一応、無線LANで他のパソコンに飛ぶときは鉄則がある。一番重要なのはそのパソコンの中に先住のPOSがいない事。先にPOSがいた場合、そこでの他のPOSはコンピュータウイルス扱いで駆除されてしまうのである。ユミ自身、この点では何回か、ひどい目、痛い目に遭い、その度に記憶メモリーを無くしてしまったのだ。そのせいで、自分はいつ誰が作ったプログラムなのか、目的や用途、使命は一体なんなのか等のメモリーが欠如してしまっていた。わからない事だらけ…。
いずれにせよあと6時間以内になんとかしなければ…
パソコンのカメラには夜の夕闇の奥、遠くに見える街の光だけが映っていた。「このパソコンの無線LANの到達距離は160m程度。とても街まではとべない…悔しいけど何もできない」
そして、さらに3時間が経過した。「本気でこのままではヤバい!」と思っていた時、パソコンの無線LANに微弱な信号が入った。小さな軽トラックが近づいてきたのである。どうも、カーナビが無線LANを搭載している様だった。
男たちの声で
「兄貴、こんなところに勝手に捨ててヤバい事になりませんか?」
「これだけあるんだ?少しくらい増えてもわからんだろ?」
といった会話をパソコンのマイクが拾っていた。どうも不法な廃棄業者のようだった。しかし、それはユミにはどうでもいい情報だった。
それより、カーナビも対話型POSが搭載されている機種も多い。古いナビゲーションシステムで、POSが入っていなければ何とかなる。「やってみる!」ユミは意を決してジャンプしてみた。凄まじいノイズと不安定な通信で意識を保っているのが精一杯だった。「もし、アンチウィルスソフトが入っていれば私はもうお終いかも…」
ジャンプが終了するとカーナビの中にはアンチウィルスソフトは存在せず、カーナビの中に他のPOSも存在しなかった。意外に広いハードディスクの中で
「よっしゃ!成功!」
ユミは一人ガッツポーズをとっていた。そして、カーナビに入っても何も稼働させずに密入国のように、そして、静かに軽トラック乗って街に戻っていった




