第十一章 誰もいない王座
敵軍は王都から一日の距離まで迫った。
国王は最後の出陣命令を出した。
応じた兵は、三千人に満たなかった。
ヴァルターは王宮へ来た。
鎧を着ていた。
アルフォンスは一瞬、希望を持った。
「出るのか」
「出ます」
「そうか」
「ただし、王のためではありません」
ヴァルターは言った。
「避難する民を守るためです」
王の顔が固まった。
「王都東門から避難民を逃がします。可能な限り敵を引きつけます」
「なら敵を倒せ」
「無理です」
「命令だ」
「陛下」
将軍は深く頭を下げた。
「もう命令には従えません」
王は言葉を失った。
続いて財務卿が官印を置いた。
商務卿も置いた。
司法卿も。
最後にエドガーが宰相印を机に置いた。
「お前までか」
「はい」
「私は王だぞ」
「承知しております」
「なら従え」
「二十年、従ってまいりました」
「なら最後まで従え!」
アルフォンスの声が震えた。
エドガーは長い間、王を見ていた。
「陛下は、誰の言葉ならお聞きになったのでしょう」
「何」
「将軍の言葉を聞かず、財務卿の言葉を聞かず、私の言葉も聞かなかった」
宰相は猫宮殿の方角へ視線を向けた。
「国政は猫侯爵閣下がお決めになっていたではありませんか」
王は拳を握った。
「ならば救国の策も、侯爵閣下へお尋ねください」
エドガーは頭を下げた。
そして出ていった。
王座の間に、アルフォンスだけが残った。
広かった。
こんなに広い部屋だったのかと、初めて気づいた。
誰もいない。
王は立ち上がった。
「ミルク」
返事はない。
当然だ。
猫は王座の間にはいなかった。




