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小さな公爵令嬢はミリしらな異世界で平穏に暮らしたい  作者: 瑠璃
第2部 時の彼方に紡ぐ、忘れられた約束

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桜の日記に残る記憶 中編 脱出

いつもお読み頂きありがとうございます

ステファンの母 ポーラ編

ポーラ視点です


 私の頭の中の霧が晴れたのは、少しだけシンリーの呪縛を解いてくれたから…

 頭の中で「ポーラ・・・起きて… ごめんね今はこのぐらいしかできない…」

 か細い声が頭の中で聞こえた

 囚われた意識が少しだけ自分の中に戻ってきたが…

 まだ、身体は囚われたままだ。


 後から知ったことだけれども

 すべては、ファウト様、アリオト王太子殿下、

 そしてスチュワート様が帝国の皇帝陛下に呼び出され、

 王国を離れた時を狙って進められていた。

 そもそものはじまりは、国王陛下がチャウナ公国を訪れたことだった。

 陛下は当初、ファウト様とシンリー王女の縁談を断るおつもりだったという

 けれどその訪問を境にすべての歯車が狂い始めた。


 私がはっきりと意識を取り戻したのは、チャウナ公国にあったシンリーの離宮であった。


「今日からあなたは私の侍女よ 」

 とシンリーから宣言されたその時から、

 私の意思とは関係なく侍女としての生活が始まった。

 シンリーも、他の侍女達も私に、ひどく辛くあたった。

 お茶を淹れると「ぬるい」と言って熱いお茶を頭からかぶせること等日常茶飯事。

 小さなミスをしたときはもちろん何もしていなくても無理やり私の落ち度を作り上げて、私に罰則を与えた。

 ここまで、ひどい仕打ちをされると、

 一体何が原因で彼女は私にここまでするのだろう…

 私がそう思うのは当たり前だ。


 そして、彼女に関わっている人たちはどんどん自我というものを失っているように思う。

 まるで心の時間が止まったかのように、

 何も考えず日常を送りシンリーに命令をされるがまま行動をしている。

 私もその一人だ。


 シンリーに命令されると気持ちとは裏腹に命令通りに動いてしまう。

 でも、あの声に救われてから、私は徐々に本来の自分を取り戻しつつある。

 ただ、シンリーにはそのことを知られてはいけない

 なので、ずっと彼女に操られている振りをしていた。

 そして、ここから逃げ出すための準備を少しずつしていた

 チャウナ公国経由の月に一回しか出ないイブー島への連絡船その船で脱出するのが、一番現実的かもしれない

 次の船が出る日は、3日後…時間も、既に調べてはいた

 でも、もしも追いかけられてきたら、ロリアやイブー島の人に迷惑が掛からないだろうか。そんなことを考えていたら先延ばしになっていた。

 一体彼女は何を目的にし何をしているのだろう…

 何か月か彼女の行動を見ていると真っ赤な月の夜に彼女は離宮の庭にある隠れた扉に入りどこかへ行く。


 真っ赤な月の夜 船の出港は今夜遅く…

 それを逃すと次の船は1か月後。

 それでも、このまま何も知らずに逃げてしまっていいのだろうか。

 シンリーが何を企んでいるのか。その手掛かりだけでもつかんでおきたい。

 私は意を決して彼女の後を追った。


 扉をそっと開けるとレンガが敷き詰められた、どこまでも続くような長い廊下があった。足音がしてはいけないので私は靴を脱ぎ、冷たいレンガの上をそっと歩いて行った。

 長い廊下の途中には、いくつかの扉があった

 ここにも何か部屋があるのかしら・・・そう思いながら通り過ぎていった。

 突き当りにある扉を開けシンリーが入っていく。

 彼女が入った扉をほんの少しだけ覗いてみると大きな鏡の中に黒い影…

 シンリーが鏡と話していた。

 ふと部屋にあるテーブルを見ると、帝国で厳重に管理されているはずの禁書が何冊かおかれていた。

 授業で習ったわ… その本の装丁…一見華やかな装丁に見えるがその華やかさに手を触れると心に邪心を抱くものは本に魅了されてしまう。

 そしてあの鏡は…あの黒い影は…悪魔の鏡

 闇の魔道具

 鏡の中の悪魔はシンリーに甘い言葉をささやく

「君は美しい魔王の娘の生まれ変わり前世では、

 許されない恋でファウトと結ばれることができなかった 」

「でも、ファウトは私を拒否するの 」

「だから、支配の香を使えと言ってあるだろう・・・

 せっかくの本だ。活用しろ 」

「もう、ファウトもポーラもみんな…みんな憎らしい 」

「それならいっそ魔王を復活させ気に入らないやつは始末し、

 全てを手にいれるがよい 」

「それならどうすればいいの? 」

 鏡の悪魔はニヤリと笑った。

「龍の契約者を取り込め、そうだな…

 そのためには一番厄介な銀龍の契約者と青龍の御子をまず始末しろ 」

「そんなのどこにいるの? 」

「まだ、この世には現れていない 気配がないのだ 」

「ただ、どこの家門に現れてくるかはわかる・・

 あいつらは、螺旋の運命をもっているからな 」

「螺旋? 」シンリーがそう尋ねると

「まあ、お前には関係ない話だ 」

「なに、それ!腹が立つ 」

「大切なことを忘れておった… 黒龍の契約者

 このものを魔王復活の器にするのじゃ 

 黒龍は闇の龍・・・あいつの魔力は膨大だからの

 うってつけじゃ

 気配を感じたら教えてやろう 」

「わかったわ、わたしはそれまでチャウナ公国とユングラン王国をすべて私の者にする為動いていく 」


 二人はまだ話を続けていたけれど、これ以上ここにいたら船の時間に間に合わない。

 この話だけでも十分だと港に向かうことにした。

 悪魔は、シンリーのことを魔王の娘だと言っていたけど私には

 彼女の思い込みの強い性格を利用して魔王の復活の為の道具にしているように感じた。

 途中先程気になった扉の前に来た。

「う・・・・」

 中からかすかにうめき声が聞こえた。

 時間はないけれど、どうしても気になる 

 誰かが私を呼んでいる気がする。

 そっと扉をあけて覗いてみるとそこには

 驚いたことにファウト様が閉じ込められていた。

 ファウト様は苦しそうな声を漏らしているが 意識がないのか私には気づいていない。

 そして、禍々しい鎖が巻き付いた鳥かごがあった。

 鳥かごの中には弱った妖精が囚われていた。

 妖精は私に気づいたようだ

「君…ポーラだよね… 」

「あなたその声は私の頭の中で聞こえた声 」

「そうだよ…ちゃんと助けられなくてごめん…ファウト様も 」

「いいのよ、それより話すと苦しそうよ… 」

「大丈夫だよ・・ やっぱり君は優しいね 」


 すると廊下の向こう側から足音が聞こえた

 私はとっさにファウト様の寝るベッドの下に隠れた

 バン!っと乱暴に扉を開ける音がした

 シンリーがファウト様に

「どう? そろそろ私に従ったほうが楽だと思うけど! 」

 命令するかのようにファウト様に声をかけている。


 ベッドの下にいるので詳しい様子がわからない

 バシッとたたく音が何回も聞こえる

 様子がわからないけれどもシンリーが

 ファウト様を殴っている事くらい想像ができた。

 そして、シンリーが激しく扉を閉めて出ていった。


 ファウト様と妖精を連れて逃げよう…

「一緒に逃げましょう 」

 そう妖精に話しかけると悲しげな表情を浮かべながら首を横に振った。

「僕はここから、出られない…それにもう消えてしまう

 だから僕の最期の力をすべて君たちにあげるよ 」

「そんな、あなたを置いていけない」

「大丈夫。僕は君たちに生きてほしいんだ」

 妖精は小さく微笑んだ。

「だから、僕の最期の力を…君たちにあげる 」

「待って、せめて名前を…まだお礼も言えていないのに 」

「ぼ…くの…なまえは…クロウ…」

「クロウ!!」

 名前を呼ぶ声が届く前にクロウは柔らかい光になり私とファウト様を包んだ

 クロウの光が身体を包んだ瞬間、ずっと私を縛りつけていた

 何かがふっと消えた気がした。

 気がつけば、私とファウト様の身体が透けていた…

 妖精の隠蔽の魔法だ・・

 そしてファウト様は、ゆっくりと瞼を開いた

「ポーラ!!一体どうして夢だろうか 」

 私の姿を見た途端、大きな赤い瞳が見開かれた。

「ポーラ、本当に君なのか 」

 そういって抱きしめた。

「夢じゃないよな、ちゃんと抱きしめられている・・」

ファウト様の力強い手…クロウのおかげでファウト様の体力も戻ったようだ。

「夢じゃないの…でも今は時間がないの

 船が出てしまう…

 そしてこの魔法が消える前に 一緒に逃げましょう ふたりで」

 そういって彼を見つめた


「ああ、わかった 」

 そういってお互いの手をぎゅっと握りしめて港へと向かった

 港には騎士が沢山いたが、透明な私達はすんなりと船に乗り込んだ。


 遠ざかっていく港を、私達はジッと見つめていた。

 まだ、何も終わっていない。

 シンリーが私達を諦めるとも思わなかった。

 シンリーや悪魔がどのように動くかもわからない。

 それでも、私の隣にはファウト様がいる

 つないだ手のぬくもりが夢ではないことを教えてくれた。

 私たちはようやく、自分たちの未来へ向かって歩き始めたのだ。










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