桜の日記に残る記憶 前編
私が、ポーラ、ステラ姉妹そしてフェリスに出会ったのは15歳の時だった。
島を納める、島首一族の娘だった私は、薬草学の勉強をしたいと両親や親族に願い出て
『島の医療に貢献するのであれば…』とどうにか承諾をもらってアカデミーに入学したの。
ステラは既にアリオト王太子の婚約者、ポーラはファウト王子の婚約者に内定していた。同じ家から二人の娘が王家に嫁ぐのは非常に異例だ。
周りの貴族からも反感を買っていた。
しかし、その頃 年若き宰相補佐であり希代の天才と称されたスチュワート・ライズ小公爵の言った一言
「好きだと言っているもの、好きにさせればいいではないですか。
問題のある令嬢ならともかくお二方とも文句のつけようのない令嬢だ。
きっと、この国ごと支えてくださるだろう
このお二方は、見目麗しく利発だ。
それに付け加え奥ゆかしいときている
お二方以上のご令嬢をご紹介できる自信があるとでも? 」
確かに・・・自分の家の娘を王家にとも願ってはいるが…とてもじゃないが彼女たちには太刀打ちができないほどコーレリア公爵家の姉妹は申し分ないほどの令嬢であった。
貴族たちはそのあと何も言えなくなってしまった。
「アリオトと、ファウトはこれで一生私に頭が上がるまい 」
とスチュワートは言っていた。
ポーラと私はステラ達より一学年下だった。
ポーラも、私と同じ薬草学の勉強をしていた。
アリオトとファウトそして王太子婚約者の姉ステラはいつも死と隣り合わせ。
そんな、彼等を救える万能薬を作りたい…というのが彼女の願いだった。
そんな彼女は、人一倍努力家でそして優しかった。
私は、島からの留学生という事もあり、一部の生徒から見下されいじめられていた。
そんな時、いつも彼女は私の盾になり守ってくれた。
本当は、怖がりな彼女なのにいつも手を震わせながら
「あなた達にロリアを見下す権利なんてない!恥を知りなさい!」
と立ち向かってくれていた。
そんな彼女と歩んだ4年間はあっという間だった。
私は卒業後、島に帰り島の人たちの薬師兼医療士として暮らしていた。
数年後…夢にも思わない形でポーラと再会した。
「ここからは、ポーラの日記を読んでもらえるかしら… 」
そういってロリアがステファンの前に
置いたのは桜の刺繍が施されたカバーがついた古い日記帳だった。
ステファンが、ゴクリと紅茶を飲み干した後、
緊張した面持ちで日記帳をめくっていく。
少しずつ読んでいくとそこには学生時代の父と母の姿が書き留められていた。
そして、あるページでステファンの手がとまった。
新緑の月 二十八日
やっと自分で文字が書けるようになってきた
忘れもしない霞初月 十八日あの日の出来事からのことを書き留めておこう。
もしも・・・私がこの世の中から消えてしまったとしても
伝えたい・・・あの子に
私達が出逢ったのは、意味があったという事を…
霞初月 十八日、王宮に呼ばれ国王陛下にファウト様との婚約破棄を言い渡された。
ファウトはチャウナ公国第二王女シンリーとの婚約が決まった。
と告げられた…
国王陛下の隣にシンリーが微笑みながら立っていた。
しかしファウトはどこにもいない
問いただそうと言葉に出そうとした瞬間
シンリーと目が合った
チリーン という鈴の音が頭のなかで響いた。
その瞬間、金縛りのようになり言いたいこと聞きたい事何も言えないまま操り人形のように気がつけば自室のベッドに横たわっていた。
それ以降、誰とも会っていない… 姉にすら会っていない
そもそも、ここは本当に自分の部屋なのであろうか
部屋には、何か煙たいお香の匂いが充満してる
一体、私の身に何が起こっているのか
ファウトは、今どうしているのだろう
お父様、お母様も そして、お兄様も心配されているはず・・・
そんな不安に押しつぶされそうになる。
ただ、笑う事も泣くことも誰かと話すこともできない
苦しい・・苦しいのに声も上げられない。
あれから、一体何日過ぎたのだろう
毎日を、捨てられた人形のように過ごしていた。
そんなある日、シンリーがわたしの名前を呼ぶ声が聞こえた。
「目覚めなさい、ポーラ 今日からあなたは私の侍女よ 」
ソファに表情もなく座る私の前に、
腕を組んで立ちはだかった彼女は、私にそう言った。
その時、頭の中の霧が晴れたように世界が変わった。




