小さくなった俺と変わらない君
チュン・・チュン・・
鳥のさえずる声がする・・瞼の向こう側にも、うっすらと柔らかい光を感じる。
ああ・・あの真っ黒な暗闇から解放されたのかな?
じゃあ・・ここは天国か?
アリシアが悲しげに俺の名前を呼ぶ声が頭から離れない
ああ、最後の最期まで・・後悔ばかりだよ
君はいつでもこんな俺のすべてを受け入れて傍にいてくれたのに
その時、最後の瞬間の手の感触を思い出した
俺は・・・なんという事を・・・
あの時・・魔物に囚われた意識の片隅に、
ほんの一瞬現れた自我が彼女の声を辿って彼女を抱きしめた
あの時、俺の手はこともあろうことか彼女の身体を貫いてしまった・・・
彼女を俺はこの手で殺してしまったのか…
涙が溢れて止まらない・・・両手で思わず顔を覆った・・
その時、違和感を感じた
え?・・もしかして生きている?ちゃんと息ができている
マナに流れる魔力も感じる…
しかし…しかし…だ…
なんだ?この丸っこい指は?
顔に覆った手を、見つめると
「細長かった指が短くて丸い・・・
しかも剣をもつたこのある手がぷよぷよした手のひらに・」
な・・なにがどうなってる思わず起き上がった。
身体が、どこも痛くない・・・
周りを見渡すと俺が寝ているのは大きなベッド。
真っ白なコットンのシーツからはほんのりと石鹸のかおり
アイボリーホワイトの壁紙 上品な木目の家具・・
窓からは木漏れ日がさしてレースのカーテンが揺れている
ふと横を見るとベビーベッドに黒い何かがいる
俺はベッドから降りて確認しようとした・・・
な・・・なんという事だ・・おれの長い脚が・・・短くなっている!!!!
ショックを受けながらもベッドから降りた
ベビーベッドを覗くにも、背が届かない
俺の身体は今一体どうなっている?
傍にあった椅子をひきずりながらもってきて椅子にのりベビーベッドを覗くと
小さくなってぬいぐるみのようになったオニキスが、すやすやと眠っている
え?という事は・・・俺も・・・?
薄々感じていたが、俺は違和感の答え合わせをする為、
部屋の隅にあった姿見の鏡の前に立った。
なんてことだ…
鏡に映っているのは5歳ごろの自分の姿だ。
もしかして、死んで過去に戻ったのか?
いや・・でもじゃあここはどこだ 大公家の屋敷にこんな部屋はなかったはずだ。
過去に戻って、シンリーに誘拐されたとか?
いや、まちがってもシンリーにこのような穏やかで落ち着く部屋を用意するなんて発想はないはずだ。
そんなことを考えていると、扉の向こう側から話声と階段を上ってくるような足音がした。
複数人いるな! どこかに隠れるか・・オニキスはどうする?
とにかくあの近くのクローゼットに隠れよう!と走ろうとした瞬間、
シーツに体が絡まり、こともあろう事か俺は芋虫のように扉の前で
転んでしまい、近くのテーブルに足をかけてテーブルの上の花瓶を落としてしまった。
ガッシャーン と盛大な音を立てて花瓶が割れた
「え?どうした!」と扉が開きフェドリックとエドガーを先頭にルナティアとアリシアが入ってきた
「アリシア!!」思わず声が出たが・・・声が高い・・・
アリシアが俺の方に駆け寄ろうとした時、フェドリックが制止した
「アリシア、危ないから待って!花瓶を片付けるから・・」
一瞬のうちにフェドリックは部屋を元に戻した
流石、大魔法士だ・・
「ステファン」アリシアは泣きながら芋虫のように転がった俺を抱きしめる
アリシアの名前を呼びたいが・・・この声では・・・
そっと手を回した時、アリシアがやっと気がついた
「ええ!!!ステファン、あなたもしかして小さくなってる?」
アリシアは凄く驚いている・・それはそうだ・・驚かない方がおかしい
(そう・・みたい・・・)
と返事したいけど・・声が高くて・・何も言えなかった。
「でも、生きててよかった」そう言いながらアリシアはまた俺を抱きしめた
俺もアリシアの背中を小さく丸くなった手で抱きしめた。
どうやらここはアカデミー内のフェドリックの隠された森の家
フェドリック曰く、「ここが帝国内で一番安全 」らしく俺たちはここに保護されているらしい。
ひとしきり二人で泣いて落ち着いてから一階のソファに座りエドガー達の説明を聞くことになった
アリシアはなぜか俺を膝に置いて後ろから抱きしめて離さない・・・
その気持ちは凄くうれしい・・
しかし・・体は小さくなっても中身は18歳のままなんだ
中身まで五歳になったわけじゃないんだぞ!
そんな風に大事そうに抱えられるとどうしていいかわからなくなる
ライズ兄弟がそんな俺たちを嬉しそうな顔で見ている
隣に座っているルナティアは心から良かったと思っているようだが・・・
前に座っているあの二人ライズ兄弟・・あれは完全に面白がっている~!
俺はもう恥ずかしくて死にそうだ・・
「アリシア・・離してくれないか・・ちゃんと一人で座れるから・・」
「嫌よ!あなたまさかおぼえてない?私に傍にいて・・っていったのに・・」
半べそかいて大きな瞳でみつめるなよ・・
「アリシア気持ちはわかるけど、
君・・わかってる?わからないと思うけど
いまステファン困っているみたいだよ」
そう、フェドリックがそう言うと
「そうなんですか…」
さみしそうな声でアリシアが腕の力を緩めてくれた。
ホッとした…
ごめんよ、アリシア
フェドリックが笑いをこらえながらもアリシアを説得してくれたおかげで解放された。
横でエドガーは大笑いしている・・
クッソ・・ライズ兄弟め・・・でも助かった・・・
俺は、エドガーとフェドリックの間に座りなおすと、
さっきまで笑っていた二人の表情から笑みが消えた
真剣な瞳で俺たちを見つめる
「じゃあ、今までの事とこれからの事を話すからよく聞いてくれ」
エドガーの低く真剣な声が静かな部屋に響いた。




