女神の微笑みと黒き鎖
「じゃあ、ティア、ユリアスこのまま洗礼ホールまで行くよ」
「はい、お兄様」私が返事すると、隣にいるユリアスが無言でうなずいた。
フェドリックお兄様が無詠唱で転移魔法を放つと、光の柱が目の前に現れ、私達はその光に覆われた。
洗礼ホールの隅に転移した。
そこは、見渡す限り白い大理石で造られた、広大な空間だった。
ホールの中央には、巨大な円形の台座が設けられていた。
その上に祀られた女神像は、慈愛に満ちた表情で微笑んでいる。
台座を取り囲む水路には、澄み切った水が静かに流れ、白い大理石の床に淡い光の模様を描いていた
「ここじゃないのかしら・・」
「いや・・ここじゃ!間違いない」
赤いハムスターの姿のエカルラートがそう言いながら
フェドリックお兄様のマントのフードから顔をだした
「ねずみ?」
「ちがうわい!!ハムスターじゃ!!」
エカルラートは、思わず大声を出しかけ、慌てて両手で自分の口をおさえた。
するとユリアス先輩の耳元まで行き小声で
「こんなに、可愛いのにおぬしねずみとハムスターの区別もつかんのか!!
いや・・・ちょっとまて我は龍じゃ! 赤龍!あとで我の本来の勇姿見せてやるから待っておれ」
と言ってエカルラートはユリアスの耳をひっぱった。
「いてて・・申し訳ございません赤龍様」とユリアスが申し訳なさそうに謝っていると
ギギギ・・と少し音をたてながら扉が開いた
五人の神官がホールに入ってきた
「ごめん・・音たてちゃった・・」
「アリシア大丈夫よ・・誰もいない」
え?アリシア? ジェシア先輩? どうして??
思わず驚いてユリアスと顔を見合わせた
「誰もいないよルーカス」
「クリス黙って 地下の入り口はわかってるから」
「あなたどうしてそんなこと知ってるのよ」
「・・・言ったでしょナイショです
また今度食事でもしたときに教えてあげますよ。ジェシア先輩」
「あなたって人は・・・」
「大体、こんなところ何も調べずに侵入する馬鹿いないでしょう」
ああ・・ルーカス先輩・・
思いがけなかった事とはいえ侵入した馬鹿がここに・・・
ユリアスとフェドリックお兄様は何とも言えない気まずそうな顔をしている
ちょっと待って・・どうしてここに?みんないるの?
私達はそうっとみんなに近づいて小声で呼びかけた
「ねえ、アリシア・・」
「ん? 今ルナティアの声が・・」
「アリシア驚かないでね・・」
私がそういうとフェドリックお兄様が、隠蔽の魔法を解いた
「え?」5人はそろえて声を出しそうになった
「シー!!」
「あなたたち、どうしてライズ教授まで!」とジェシア先輩が驚くと
「ん? ライズ教授??ああ、そうだ俺教授だったわ 」
とフェドリックお兄様がハハハと笑う
「お兄様!小声で・・・」とキッとにらむと
「ごめん、ごめん本当にティアは怒っても可愛いな
と抱きしめる
その時、ふっと私の手をちらっとみた
「ねえ、ユリアス・・いつまでティアの手握ってるの」と不機嫌そうにユリアスをにらむ
「はぐれては、いけないので」そう言いながらユリアスが手をもう一度握りしめる
「はぐ・・・」お兄様が何とも言えない顔してる
他のみんながあきれた顔してるじゃない!!もうふたりともやめて
恥ずかしい気持ちを抑えて私はお兄様の袖をひっぱった
「はい、お兄様行きましょう ルーカス先輩がご存じみたいです
後についていきましょう 話は後で・・ね」
とルーカス先輩についていく
ホールの側面にある蝋燭立てどれも女神の姿絵を施している
そのうちの右から4つ目の蝋燭立てを前に引き寄せた
ギギギ・・・壁の大理石が開いた。
地下に続く階段がある
中は薄暗く壁にかかってある蝋燭の灯りのみが頼りだ
「みんな・・静かに・・」先頭に行くルーカス先輩についていく
静かで不気味な階段を降りながら進んでいくと
「ほらああああ!さっさと食えよ!」
「ぐ・・・」
「ほら、腹減ってんだろう・・・」
下から先程の神官の罵倒する声がする
「ステファン」
私の前にいるアリシアが思わず駆け下りようとする
「ダメ我慢して、アリシア・・そっと行きましょう」
ユリアスも、辛そうな顔をしている
彼の耳元で
「ごめん…ユリアス手を離すね
アリシアと一緒に言ってあげたいの」
ユリアスは、笑顔でそっと手をはなした
「アリシア、一緒に行きましょう」
そう言いながら彼女の震える手を握った
「ルナティア・・・」アリシアは私を涙を溜めた瞳で見つめながらうなずいた。
階段を降りきった私たちは、あまりにもひどい光景に目を疑った。
そこには巨大な黒龍が禍々しい鎖に巻き付かれ横たわっていた。
その翼は力なく伏せられている
けれど、前脚だけは何か守ろうとするかのように震えながらも必死に動いていた。
その前脚の先に視線を向けると一人の青年が横たわり神官が彼に罵声を浴びせながらまたがって押さえつけている。
「ステファン・・・」
アリシアが声を震わせて彼の名前を呼んだ。
私の手を握るアリシアの手が強くなり声を殺して泣いている・・・
私は、何も言えずアリシアを抱きしめた。
二人の神官はマカロンを無理やり口に詰め込んでいた
神官の一人が私たちに気づいた。
「なんだ! おま――」
驚いた拍子に、手にしていたマカロンが床に散らばる。
その言葉が終わるより早く、私の後ろにいたはずのユリアスが飛び出し
ふたりの神官をあっという間に殴り飛ばした。
「ステファン」
ユリアスがステファンに駆け寄り手を伸ばした。
バチバチッ!!
黒い鎖が不気味な光を放ち、ユリアスの身体を弾き飛ばした。
「ユリアス!!」
私は思わず叫んだ
「そいつは、完全無欠の優等生のユリアスでも無理っしょ」
聞き覚えのある声が響いた。
ギギギ…。地下室の奥にある扉が開いていく。
私たちは、一斉に、その扉を振り返った。




