もう一組の救出者
「えっと…本当によかったんですかね」と私はルーカス先輩にたずねた
「大丈夫だよアリシア予備の神官服なんだしまた返せばいいよ・・まあ、返せるかはわかんないけど・・」
ルーカス先輩は、事前にこっそりと神官服を用意してくれていた。
◇◇◇◇◇
「ルーカス、すごいな どうやって手に入れたの?」
とジェシア先輩が感心しながら尋ねると
「うーん・・・内緒です!」といつものにっこり笑顔ではぐらかされた。
「本当にあんたってつかみどころない人ね!」とジェシア先輩も笑っていた
◇◇◇◇◇
そんなことを思い出していたら
「みんな・・静かに前から神官が来るよ うつむき加減で静かにそのままいくよ」
ジェシア先輩が小声で注意してくれた。
私とルーカス先輩、ジェシア先輩、クリス、そしてチャールズの五人は今神官の振りをして神殿に忍び込んでいる。
そもそも、どうして私達が神殿に忍び込んでいるかというと実は数日前のこと・・
放課後寮に帰る廊下でチャールズに呼び止められた。
「ねえ、アリシア相談があるんだけど・・・」
「なに?どうしたの?チャールズすごく深刻な顔をして・・?」
「いや・・ここではちょっと・・・」
「あ・・・そうね図書館の中庭に行きましょう あそこならこの時間なら人も少ないし・・」
「ああ、そういえばルナティアは今日は一緒じゃないの」
「うん、私が今日は弓術部の練習があったから別行動だったのよ」
「そういえば、そういってたな」
私は前世でも弓道部だった。
あの事故があった夏には、次年度の主将にも選ばれていたんだけどな・・
この世界では、ばあやには女の子が弓を引くなんて・・って嫌な顔されたけど
この間の合宿中に、弓術部の主将をしているルーカス先輩に
『女の子が弓を引くもんじゃないって?
そんなこと気にしなくていいよ うちの部は歓迎するよ おいでよ』
って誘ってもらった。
図書館の中庭に行くと誰もおらず、噴水の水音と薄いピンクの薔薇の花が風に揺れていた
「このピンクの薔薇以外に何か違う花を栽培したりしないのかな」
何気ない事を尋ねるチャールズの声は、少し緊張しているような感じがした
「さあ、わからないけど・・・私は好きよ この中庭」
チャールズの様子が違うのが気になったけどそう言いながらベンチにふたりで腰かけた
「それで、どうしたの?チャールズ・・・」
「う・・・うん・・・」
チャールズの顔色が真っ青になり組んでいる手が大きく震えだした
「ハー!!ハー!!」とどんどん息も凄く荒くなっていく
「琥珀!!誰か呼んできて!!」
私はチャールズの傍にしゃがみこみ、できるだけ落ち着いた声で話しかけた。
「チャールズ、私はここにいるわ 大丈夫話さなくてもいいから・・安心して」
チャールズの呼吸が落ち着くまで彼の背中に手をおいた。
少しずつチャールズの息が落ち着いてきた
「アリシア!どうしたの?」
「どうしたんだ?アリシア」
「ジェシア先輩! ルーカス先輩 クリスも・・チャールズが、急に・・」
「チャールズ大丈夫か? ほら少し水飲めるか?」
ルーカス先輩はチャールズの体を支えながら水筒の水を少しずつ飲ませた
「もう大丈夫だ、呼吸も落ち着いてきた」
「アリシア、知ってる奴連れてきた」
「ありがとう、琥珀」
そういうと琥珀は嬉しそうに私の肩に止まった。
「それで、どうしたのチャールズ・・大丈夫話せる?」
「うん・・・できればみんなにも協力してほしいんだ・・・」
「じゃあ、ルナティアとユリアス先輩にも来てもらった方がいいじゃないか」
とルーカス先輩がクリスに声をかけた。
「そうだな。ルーカス 一緒に探しに行こうか」
「あー!待って・・・今日は・・ちょっと・・・二人は無理かも・・・
用事があるみたい・・・」
ジェシア先輩がすごく言いにくそうに、少し困った顔をした。
「はーん・・なるほど・・『無自覚』な先輩が『自覚』しちゃったってわけね」
「ん・・まあ・・そういう事かな?」とジェシア先輩が頭をコテンとした。
「ふーっ仕方ないですね どうせあなたが一役買ったんでしょう
言ったでしょ『無自覚』なままにしてって・・
まあ・・いいですよ 入る隙間なんてなかったしね
それにしても、あなたって人は・・」
と笑いながらルーカス先輩がジェシア先輩の頭をクシャッとなでた。
「もう、ルーカス・・」
「ハハハ、本当に面白いなあなたは・・」
とジェシア先輩とルーカス先輩が笑いあっている。
私には二人の話の内容が理解できなかったけど・・
なんだか二人いい感じ・・・と思った。
そのあと、ルーカス先輩に防音結界の魔道具を使ってもらい
体調が落ち着いたチャールズから衝撃的な話を聞いた。
「実は・・この前の休みに、忘れ物を取りにユーリア公爵家の領地に帰った時
偶然兄上の部屋の扉が少しだけ開いていて聞いてしまったんだ
兄上が誰かと通信機で話していてこう言ったんだ
『お前はマカロンだけ作っていればいいんだよ。
今はそれぐらいしかできないだろう
ああ、家宝の「龍知の盾」を探すために来てるんだ・・
わかった 一度神殿に行くから、それで・・ステファンはもう堕ちたのか?
あと少し・・あいつもしぶといな・・じゃあマカロンにかける呪いを増やせ
クッソ・・苦くなりすぎるってか・・
じゃまくさいな・・わかった
じゃあな・・ローズ わかってる愛してるよ』
私は、チャールズの話に言葉を失った・・
涙を流しながら悔しさの中にも悲しみがこもった震える声でチャールズが話し続けた
「叫びそうになったけど両手で口を押さえて兄上に見つからないように急いでその場を立ち去る事しかできなかったんだ!!」
「頼む、ステファン先輩を一緒に助けてくれないか
兄上が何を考えているかはわからない・・
でも先輩を放っておくわけにはいかない。
それに・・ユーリア公爵家の人間にこれ以上罪を重ねさせるわけには行けないんだ!」
チャールズはそう叫んだ・・
「誰か大人に・・・」クリスがそういうと
「チャールズはすぐにでもステファン先輩を助けたいんだな・・・
大人に頼んでも時間がかかる。
下手すればうやむやにされる・・いや、もう・・うやむやにされているんだろう」
ルーカスがチャールズを真剣な表情で見つめた。
チャールズは、涙が溜まった瞳でルーカス先輩を見つめてうなずいた。
「よーし、心配するな 俺も行くよ」
そういいながらルーカス先輩はチャールズの頭を両手でわしゃわしゃと笑いながらなでた。
「もちろん、僕も行くから心配するな チャールズ」
「ありがとう、ルーカス先輩・・・クリス・・・」
「私も・・私も行きます! ステファンを迎えに行かないと・・・!」
怒りと悲しみで、溢れる涙が止まらなかった
「でも、危険だよアリシア・・」クリスが心配そうに言った。
「クリス・・ありがとう
でも、私は絶対に彼を迎えに行くの
私が行かないとダメなの」
「アリシアには俺がついてるから大丈夫」と私の肩で琥珀が自信満々に言う
「アリシア、チャールズ、私も行くわ
そうと決まれば計画を練りましょう
ルナティアとユリアスにはあとで話しましょう」
「皆さん・・・本当にありがとうございます」チャールズが泣きながら礼をした
ふと気がつくと、夕暮れを迎えていた。
空を包む光は次第に柔らかくなり、赤みや金色に輝きながら、周りの景色を魔法のように美しく染めていった。
◇◇◇◇
「結局・・ルナティアとユリアスには話ができなかったんだよね」
チャールズがこそこそと話すと
「出かける前にも二人の所を訪ねたけどいなかったし・・」
クリスもこそこそと返す
「でも、これ以上多くても目立つしな」
とルーカスがこそこそ話を収めた
前からくる神官が何かをもって話している
「それより・・あの不気味な声最近あんまり聞こえなくなったよな・・」
「しっ・・誰かに聞かれたらどうする」
「早くこのマカロンをステファンにもっていかないとな・・」
マカロン・・?
もしかしてローズの作った苦味のあるマカロンのこと?
「おまえ・・大公殿下を呼び捨てなんかにしたらダメだろう・・」
と、もう一人の神官が笑いながら注意した。
「聞かれてもわかんねーよ もう廃人同然だろう・・目の焦点あってねえし」
「まあな・・特にどういう訳かわからないけど、今日みたいな月の夜は、あいつ何してもわかんねーだろう」
神官達の会話に、涙が出そうになる・・
だめ・・今は絶対に泣かない・・
怒りがこみあげて手の震えがとまらない
すると、ジェシア先輩が私の震える手を、あたたかい手で包み込むように、握りしめてくれた。
「あっちの方だと多分洗礼式ホールだ。このまま静かに通り過ぎてこの角右に曲がっていこう」
みんな、ルーカス先輩の指示に黙ってうなずいた
ステファン・・・ステファンお願い・・無事でいて・・今迎えに行くから・・




