目覚めた先は神殿だった
「ユリアス……ユリアス……」
呼びかけても返事がない。
私を抱きしめる腕には力がこもったままなのにユリアスは目を覚まさない。
「大丈夫? ユリアス……」
祈るような想いで、すぐそばにある彼の顔を覗き込んだ。
するとユリアスの瞼がゆっくりと開いた。
いつもより熱を帯びた、美しい瞳が私を見つめる。
「……ルナ」
えっ?
今、ルナって……?
いつもは「ティア」と呼ぶのに。
ユリアスは私を抱きしめて離さないままでジッと部屋の中を探っている
「ユリアス・・・私達、森の湖にいたよね・・」
「ああ・・急にあたりが真っ暗になって・・・それから夢を見ていた・・」
そう言うとユリアスは、私の顔を見つめるとぎゅっと強く抱きしめた
「今度はちゃんと・・・守るから・・」
小声でぽそりと呟いた言葉は私には届かなかった
「ユリアス・・ごめんなさい聞こえなかったもう一度」
「うん・・またちゃんと話すよ
それより、ここはどうやら神殿のどこかの部屋のようだ」
薄暗い小さな部屋にはロゼリアブラウ教の小さな女神像が棚にいっぱい並べられている
ユリアスは、私から体を離して部屋の隅にある小さなクローゼットの中から神官服を2着見つけてきた
「ねえ、ルナ、君のピアス確かエドガー様と通信できたよね」
「はい」そう返事すると噂をすれば影とばかりエドガーお兄様の声が聞こえた
「ティア!!今どこにいる」
「え…っと神殿のどこかの部屋のようです」
「そうか・・・屋敷に帰ってきたらレスから連絡を受けて 今は森の湖にいる
そこには、ユリアスも当然いるんだろうな!」
「エドガー様、傍にいますから安心してください 」
「当たり前だ!すぐにそこに行く!!」
「お兄様・・派手ではなく・・・できるだけこっそりと・・・お願いします・・・」
「わかっている」
今にも飛び込んできそうな勢いだったからつい言ってしまった
その時、
「お香?なんだか・・嗅いだこともないきつい香り・・」
どこからか煙たい匂いがする
するとユリアスが自分のシャツの袖を破ってマスクのように顔を覆った
「この煙・・・嗅いでは駄目だ・・ここにいてはだめだ
ほらわるいけどこれにすぐ着替えて」
ユリアスは私に神官服を手渡すと、こちらを見ないように背を向け、自分も着替えようとした。
けれど、彼は背が高く、神官服のサイズが合わなかった。
「・・・俺はこのままでいく大丈夫だからついてきて」
そういって手をしっかりとつなぐと
ユリアスは扉を少しだけ開け、そっと廊下をのぞいた。
誰もいないことを確認すると、私の手を引いて歩き出した。
そして、できるだけ煙を避けながら、身をかがめて廊下を進んだ。
コツコツと真っ白な廊下に靴音が近づいてきた。
ユリアスは私を引き寄せると、明かりのついていない部屋へ素早く入り、身を隠した。
「ふぅ~」と思わずため息をついてしまった
「ん? なんか言ったか?」
「いや、何にも……」
扉の向こうで、神官たちがそんな会話を交わしている。
しまった! 今のため息、聞こえてしまった?
思わず手で口を押さえると、ユリアスが耳元で小さく囁いた。
「大丈夫だよ」
私は、ユリアスの優しく落ち着いた声にホッとした。
扉の向こうでは、神官達が話を続けていた。
「それより・・あの不気味な声最近あんまり聞こえなくなったよな・・」
「しっ・・誰かに聞かれたらどうする」
「早くこのマカロンをステファンにもっていかないとな・・」
マカロン・・?
ふと以前アリシアの話していたローズの作った苦味のあるマカロンのことを、思い出した。
「おまえ・・大公殿下を呼び捨てなんかにしたらダメだろう・・」
と、もう一人の神官が笑いながら注意した。
「聞かれてもわかんねーよ もう廃人同然だろう・・目の焦点あってねえし」
「まあな・・特にどういう訳かわからないけど、今日みたいな月の夜は、あいつ何してもわかんねーだろう」
ハハハと言いながら神官と思われる二人の足音が遠のいた
「グ・・・」ユリアスが見たことないような苦しそうな顔で服のすそを握りしめている
ユリアス・・・そうだよね・・あんなこと聞いたら・・ステファン様のことあんな風に言われたら
何も言わず怒りと悲しみで溢れているユリアスの気持ちが痛いほど伝わった・・
思わず私はユリアスを抱きしめた
「ユリアス・・早く行きましょう ステファン様お迎えに行きましょう 今すぐに」
ユリアスは、大きく息を吐き頭をぶるっと振ると自分の頬を両手でパチンとたたいた
「すまない。ルナ・・君を巻き込むがつきあってくれ・・必ず守るから」
「ご一緒します」
私たちはもう一度、人がいないことを確認してから、神官たちが向かった方向へ進んだ。
「多分この方向だと洗礼式ホールだろう」
「わかりました。一度お兄様に連絡いたしますね」
ユリアスは、黙って頷いた
「お兄さま 聞こえますか?
エドガーお兄様 今から、ステファンをお迎えに洗礼式ホールに行きます」
「ティア! お前、じっとしてろと言って……」
エドガーお兄様の声を遮るように、フェドリックお兄様の声が割り込んできた。
「ティア、一度そこで止まって! 今行くから」
「フェドリックお兄様、今行くって……」
その言葉を最後まで口にする前に、目の前に人影が現れた。
「フェ……!」
驚いて名前を呼びそうになった私に、フェドリックお兄様は口元に指を当てた。
「しーっ」
そう言うと、すぐに私たちに隠蔽の魔法をかけた。
「これで、俺達の姿は、周りから見えないからね じゃあ、静かにいくよ」
「ああ・・その前に・・」とお兄様はパチンと指を鳴らすと私が着ている服を鍛錬服に変えた
「もう神官服でいる必要ないでしょ
でもナイス判断だよ ユリアス」
ユリアスは無言でフェドリックに会釈した
その時少しだけつないだ手に、ぎゅっと力が入った
「あとからすぐエドガー兄上たちも来るさ」
「でも、場所が・・」
「ああ、ティアのピアスには追跡魔法がついてて神殿につながらなかったはずなのになぜか今急につながっていてね・・だから大丈夫さ」
「エドガーお兄様ったら・・ピアスに追跡魔法もつけていたの?・・」
「あっ・・しまった・・内緒だった・・まあ仕方ないね」とフェドリックお兄様が、てへっと笑う
はーっとため息が溢れた。
すると、ユリアスがつないだ手をもっとぎゅっと、離れないようにつなぎなおした。




