前世の記憶
「ルナティア 荷物の準備はもうできた? 」
食後のデザートに手を伸ばそうとした時、母が尋ねてきた。
「うん、勿論完璧よ」
「マリアが完璧にしてくれたんだよね」と8歳の3男ジュリアスがいたずらっぽく笑いながらデザートのケーキをパクッと口にいれもぐもぐとほおばった
「ジュリアス~ もう! いつも一言多い!」とほおを膨らましながらルナティアがプンプンと怒っている
みんながニヤニヤと笑いながらあたたかい目でそんなやり取りをする二人を見守る
可愛いお二人のこういうお姿がしばらく見られないなんて…とメイドたちが本当に残念そうに話をしている。
コホンと咳払いをして当主であり彼らの父親のスチュワート・ライズ公爵が
「ルナティア 食事の後私の執務室に来るように」と席を立った。
「はい お父様」と答えるとルナティアはお茶を飲みほし席を立ち父の執務室にすぐに向かった
スチュワートの部屋に入ると彼は既にソファに座り
「お掛けなさい」とルナティアに向かい側のソファに座るように促した。
少しの沈黙のあと緩やかにスチュワートは話を始めた
「明日からアカデミーへ入学するわけだが…公爵家での娘であること そして君の体のことできっと君の ことを興味深く見るもの 悪く言うものもいるだろう 」
10歳のあの事件以降成長しない私 今まで社交にもでずライズ公爵家の呪われた令嬢と噂されているのも知っている
「お父様…ご心配おかけして申し訳ございません
私、やはり今になってもあの時のこと思い出せないのです」
呪いなのか何なのかもわからない…
でも、いつまでもライズ領の中で閉じこもっていてはだめだ
今この体で前に進んでいかないと・・・・
「今は、小さな体だけどきっと本当の私の体になれる日がくるって信じているんです」
「ルナティア… ただ君に傷ついてほしくない・・
誰が何と言おうとも君は愛すべき私の自慢の娘だ
ライズ公爵家のたった一人の令嬢であることを忘れずアカデミーでも胸を張ってルナティアらしく学園生活を楽しんでくれればそれでいい」
「お父様… ありがとうございます」
「ああ…それと他の公爵家の者や王家の者が何か言ってきても適当に放っておくとよい 」
お父様はそういうとにっこり笑って私の頭にそっと手を置いた
適当に・・・ってお父様・・・
狩猟祭の日 私は何者かに誘拐された
狩猟祭当日お兄様にハンカチを渡そうと探していた時に誰かが後ろから羽交い絞めにし薬をかがされ意識を失った。
森のあの大きな木の下で見つかった時には3日間もたち意識が戻るのに1週間も眠り続いていた
目が覚めた時にはお父様 お母さまお兄様たちまでみんな焦燥した様子で私の顔を覗き込んでいた
眠っていた間、私は長い長い夢の中で五十嵐瑠那であった前世ことを思い出したのだった
五十嵐瑠那17歳高校2年生の時バイトからの帰宅中バス停でバスを待っていた時バス停にトラックがバス停に飛び込んできた
その瞬間誰かが「瑠那 危ない!」と叫びながら覆いかぶさってきた
最期に目に映ったのは濃紺のブレザー同じ高校の制服の胸元 彼に抱きしめられた感覚
瑠那は誰かに、かばわれながら逝ってしまったんだ
でも、瑠那の家族は私が先に逝ってしまっても悲しんでくれたのだろうか…
瑠那は家では空気のような存在だった両親の目には優秀な姉しか映っていなかった
幼い頃から話かけてもろくに返事もしてくれない
暴力を振るわれるわけでもなく罵倒されるわけでもないのだが、ただ興味がない
瑠那の存在が家族の中ではない存在 まさに空気のような扱いだった
興味がない いないものとして扱われるほどつらいものはない
お小遣い等はもちろんなくバイトをして賄っていた
そのバイトの帰りに事故は起こったのだ
最期に誰かが自分の名前を呼び抱きしめて守ってくれた
私なんかを誰かが名前を呼んで守ってくれたのだ
顔は見られなかったけれど低音の聞き覚えのある声だった
きっと彼は命懸けで私を助けようとかばってくれたのかもしれない
その事実だけで五十嵐瑠那の前世の瑠那の気持ちは救われた気持ちと、もし私をかばわなければ
彼には被害がなかったかもしれないという申し訳ない気持ちとで心がギュッと締め付けられた
もう一つ後悔することがあれば、彼にありがとう・・・と一言でも伝えたかった
彼もあれからどうなったのだろう?
彼も異世界に転生していたりして・・とほんの少しそんなことを思ってみたりした
あの日前世の記憶を呼び起こしただけで、何があったのかはわからない
ただ、あの日から成長が止まりなぜか精霊たちの姿が見えるようになったのだ
精霊たちのことはまだ誰にも話していないが、精霊たちのせいで時々私が挙動不審な行動をとるのでお兄様達には不思議そうな目で見られる事がある
「ルナティアどうした? 大丈夫か? 」
ついつい前世の記憶を思い出してぼんやりしている私の顔を心配そうにお父様がのぞき込む
「お父様、ごめんなさい 大丈夫 沢山お手紙を書く! きっと学園での楽しい話で埋めつくされるわ
だから、心配しないで」
そう笑顔でいうルナティアを、父はギュッと抱きしめた。
抱きしめられた手が緩むとお父様の頬にキスをし
「おやすみなさい」とルナティアは執務室をあとにした。
お読みいただきありがとうございます 1日1回21時から21時30分頃の緩いぺースの投稿になるかと存じますが お読みいただければ幸いです
本日もありがとうございます




