第四章 第六話:狩りの流儀
潜入に気付かれ、京花の圧倒的な存在感を目の当たりにするも、
何とか抵抗を試みようとする姉二人。
「まいちゃん!めいちゃんが囮になるから、
み~ちゃんを連れて脱出しますわよ!」
「了解よ!めい」
まいあがみことを抱え上げようと、
めいあが京花へ立ち向かおうとした、その時。
「動くなッ!!!」
京花は二人へタクティカルライトを向け、怒鳴り声を上げる。
強烈な光に視界を潰され、動けなくなるめいあ。
まいあも京花の威圧に怯んでしまい、動きを止める。
「……しかし何なんだ?お前らのその格好は?
何をどうしたらそうなる……」
京花は呆れた様子で二人の姿をライトで確認する。
めいあは堂々としているが、まいあは恥ずかしそうに縮こまっていた。
「まあいい、警察に突き出せば、少なくとも建造物侵入、器物損壊、誘拐未遂。
財閥のご令嬢にしては、なかなか派手な罪状だな。
おまえら葵生みことの姉だろ。家から連絡が来ているぞ」
京花の言葉に動揺を隠せない二人。
「しまった……パパに気づかれてたみたい」
「もしかして、これもお父様のシナリオ通りということかしら?
まんまと誘導されていたみたいね」
京花はライトを消し、腕組みをし始める。
「さて……そちらの都合がどうであれ、これだけのことをやらかしたんだ、
警察に突き出せばどうなるか、理解できない歳でもあるまい。
ただ……妹に拗らせ、道を外した子供を矯正するのも大人の役目だ。
一つ、お前たちに選択肢をやろう」
そう言うと、京花はニヤリとした。
「こ、拗らせてなんかないもん!余裕ぶってんのも今の内なんだからね!」
「めい!これ以上、荒立ててはいけませんわ。大人しく従いましょう」
「ほう……性格は真逆のようだな。
このまま大人しく警察に引き渡されるか、二人がかりで私と模擬戦を行うか。
……選べ。
戦いを選択した場合、父親に免じて見逃してやる。
ただし……まあこれも“躾”の一環なんでな。半殺しにされても文句は言うなよ」
真っ暗闇の部屋であったが、京花の放つ不穏なオーラがにじみ出ているのを、
姉二人は十二分に感じ取っていた。
追い詰められためいあは表情が変わる。
「い、言わせておけば!……でも、こ、こいつ……ただ者じゃない。
まいあ!やってやるわよ!」
「ふぅ……仕方ありませんわね。
こちらの警備担当の方かしら?そちらの挑戦、受けて立ちましてよ!」
まいあは京花へ向けて啖呵をきった。
「ふふっ、若いうちはそうでなくてはなぁ。場所を変えるぞ、付いて来い」
そう言うと、京花は姉二人と共に修練場へと移動した。
静けさが戻った部屋では、あれだけの大騒動が起こった中でも、
トレーニングの疲労のせいか、二人の少女は何も気づかず安眠を貪っていた。
「……リ、リン……い、いけませんわ~」
「……オ、オ、オ、オム、オムライス……」
ろあんはというと、猫ならではの察知能力で、
侵入時の異音に瞬時に気づき、即座にベッドの下に潜り込み、
誰にも気づかれずにやり過ごしていた。
「ちょ……ちょっと!今のはいったい?何だったのよ!
まったく、うるさくて目が覚めちゃったじゃないの。
面倒ごとに巻き込まれないように隠れてよかったわ~」
――東雲建設、地下修練場
「待たせてしまってごめんなさい大尉」
三人が修練場に到着すると、白井大尉が一人で待っていた。
「しょ、少佐……これはいったい?」
白井大尉は少々たじろぐ。
それもそのはず、深夜の2:30過ぎ。
東雲京花と現れたのは、黒のレオタードにアイマスクをした、
怪しさ全開の女性二人。
意味が分からないのは当然である。
「白井大尉、今からこの二人と模擬戦を行います。
貴殿には立会人として見届けてもらってもいいかしら?」
「そ、それは構いませんが。こちらの方々は?」
一人は恥ずかしそうにソワソワしており、
もう一人は堂々とした態度で仁王立ちしている。
「あなたたち、身バレしてるんだから、
いい加減そのおかしな物を外しなさい」
京花に促されると、二人はしぶしぶアイマスクを外した。
「ふふ、思った通りやっぱりまだ若いわね。
ああ、ちなみに私はこの東雲建設の専務、東雲京花と言います。
私の娘があなたたちの妹の通ってる城蘭学園の先輩で……
まあ、色々あって当分の間、強化合宿をすることになったのよ」
二人は黙って京花の話を聞いていたが、
先輩の母親と知り、警戒していた態度が一気に軟化した。
「み~ちゃんの先輩のお母さん!?」
「ッ!……みこの先輩のお母様……だったのですね。
そ、そうとも知らず、大変なご迷惑をおかけしまして、申し訳ございません。
あ、あの……一つ質問なのですが。
今回の件、みこ……みこと自身の意志で、
そちらのお世話になったのでしょうか?」
まいあは心配そうに京花へ尋ねた。
「ま、まぁ……ちょっと行き違いはあったにせよ、
最終的には、みことさん自身で判断した結果になります」
珍しく京花の目が若干泳ぐも、毅然とした態度でまいあの質問に答えた。
「そ、そうですのね。わたくしたちはてっきり、お父様の策略によるものかと。
めい、あなたもちゃんと謝りなさいな」
めいあはバツが悪そうにしていたが、しっかり頭を下げた。
「ご、ごめんなさいなのです~」
京花は二人の態度を見て少し微笑むも、
腕を組み直すと、凛とした態度で話し始めた。
「状況は理解しました。ただ、あなたたちが行った行為は、
どのような理由であれ、れっきとした犯罪です。
その動機が、みことさんへの拗れた想いだということ。
同年代の娘を持つ母親として、余計なお世話かも知れませんが、
きっちり躾させてもらいます」
京花はそう言うと、表情が変わり二人を睨みつけた。
「こ、拗らせてなんかないもん!やったことはちゃんと謝るけど、
うちの家庭事情に、勝手に立ち入らないでもらいましょうか!」
「めいの言う通りですわ!いくら先輩のお母様と言えども、
立ち入っていいことではありません」
京花はため息を一つ吐くと同時に、二人を睨みつけ一喝。
「本質を見失い、反省できないのであれば是非もなしッ!」
いきなりの京花の喝に圧倒される二人。
「先ほど言ったように、これから模擬戦を行う。
言って理解できないのであれば、体に刻みこんでやる!
貴様らの得物は何だ?素手か?有利になるものを選ばせてやるから言ってみろ」
めいあはすぐに反応した。
「上等ッ!やってやんよ!薙刀なんてないでしょうから、
杖でいいわ!あるんだったら準備してちょうだい!いいよね?まいちゃん!」
「仕方ありませんわね……わたくしもそれでかまいませんわ」
「ふん!杖か。少し待て」
そう言うと、京花はアクセで部下に連絡を取り、至急準備させた。
「先に説明しておくが、貴様たち二人がかりでかかってくるがいい。
彼は立会人なので、手出しはしない」
白井大尉は黙って状況を見守っている。
そうこうしていると、部下が二本の杖を持参してきた。
めいあとまいあは、杖を受け取り、軽くウォーミングアップを試みる。
普段使用している薙刀とは使い勝手が違うので、間合いなどを確認しあった。
「まあ、いつもと少し違うけど……なんとかなるっしょ!」
「めい……相手は尋常ではありませんわ。気づいていますでしょう?」
「うん。でも大丈夫。向こうは素手だよ?こちらの間合いが有利過ぎるんだから、
同時に上下で揺さぶって、合わせ技で終了~♪」
二人はしばらくの間、作戦を立てるべく話し込んでいる。
一方、京花は既に近接戦闘用装備一式を身にまとっており、準備万端であった。
話し合う二人の様子を睨み付けながら、グローブをはめた指をポキポキ鳴らす。
実は昨晩、葵生家へ連絡した際に葵生総鳴と話を付けており、
姉二人が迷惑をかける可能性がある事を既に聞いていた。
東雲建設の勇名……悪名?は、総鳴も知っており、京花の身辺調査も行っていた。
それらを踏まえた上で、何とか姉たちの、
みことへ対する依存を取り除くことができないかと、
親として悩んでいた時に今回の一件を聞き、渡りに船であった。
なるべくなら警察沙汰にしないでほしい。
しかし、穏便に済ますことができないのであれば、以降は京花に全て一任する。
そういったやり取りを交わしていたのである。
そう……まいあの言う“父の策略”とは、みことへの依存をやめさせる事であった。
そして京花は、事前に話を聞いていたこともあり、
侵入経路を屋上だけに絞らせ、窓からの侵入に対しても、
みことの部屋だけ警報を切るなど、準備万端で待ち構えていたのだ。
――「さて、準備はいいか?」
めいあとまいあは、お互い気合を入れるように相槌すると、
京花へ向け杖を構えた。
「いつでもいいわッ!」
「よろしくてよ!」
「白井大尉、開始の合図を頼めるか」
そう言うと、京花は首を鳴らし、独特のリズムを刻みながら構え始める。
片足を少し上げ気味にした、ムエタイに近いスタイルで、
開始の合図を待った。
白井大尉は両者の間に立ち、それぞれ確認する。
「了解しました。……それでは――始めッ!!」
――先に動いたのは、まいあだった。
京花の背後へ一気に駆け抜け、位置取りをする。
めいあはそのままの位置で、杖を揺らし京花の気を引き付ける。
京花は華麗なステップを踏みながら、背後をとられまいと、
二人を左右に捉えるように体を向け、
どちらも確認できるポジションに身を置く。
「さあ!まいちゃん!いくよー!」
「了解よ!めい!」
事前の作戦通り、二人がかりでの一番有利な攻撃方法。
対象を挟み込んでの、挟撃からの上下同時攻撃。
めいあは上半身を狙った突き、まいあは下半身を狙った払い。
「うおーッ!!!」
「やぁーッ!!!」
『ドゴォッ!!!』
『バギィッ!!!』
二つの鈍い音が修練場に鳴り響いた――次の瞬間。
めいあは気づくと仰向けに倒れ込んで天井を見上げており、
すぐさま足首に激痛が走る。
まいあは何か硬いものに弾かれたと思った直後、
杖はへし折れ、握っていた手には激痛が走ると同時に、
後方へ吹き飛ばされて体勢を大きく崩してしまう。
――この一瞬で京花は、まいあの“払い”が遅いことに気づき、
先に来るめいあの突きを、寸前でしゃがみ込んで回避し、
低い体勢のまま回転しながら、めいあの足首を刈った。
そしてその勢いのまま、まいあが放った杖を、
後ろ回し蹴りにて吹き飛ばしていたのだ。
ちなみに、京花は“実戦用”のコンバットブーツを履いていた。
ブーツ各所に安全靴のような鉄板が仕込まれており、
そのブーツによる蹴りのダメージは尋常ではない。
京花は準備の段階から、一切の甘さを排し、“本物”を見せつけていた。
――戦闘態勢を崩さず、軽いステップを踏み続けている京花。
「ふん!期待外れだな。二人がかりで、得物を持たせて尚この程度。
みことを叩き起こして参戦させるか?三人相手でもかまわんぞ?」
足首に強烈なダメージを負っためいあは、
杖に寄りかからないと立てなくなるほどであったが、
みことの名を耳にして逆上し、目の色が変わる。
「上等だぁー!!!まいあ!ヒヨってないで畳みかけんぞ!」
まいあは杖をへし折られたことで、直接的な打撃は受けなかったが、
インパクトの瞬間に手首を負傷してしまい、
手が痙攣して力が入らなくなっていた。
「……ま、参りましたわ。この手の状態では継続は不可能です」
そう言うと、折られた杖を置き、両手を上げ降参の意を示す。
そんなまいあの早々の降参宣言に、めいあは我を失ってしまう。
怒りのままに、無防備にも杖を大きく振り上げ、京花へ向かって突進してしまう。
「うあぁーーーッ!!!」
京花はステップを止め、冷静にめいあの動きを見極める。
「ふんッ!青いな……」
『ボコッ!』
タクティカルグローブをはめた京花の拳が、めいあのみぞおちに食い込む。
そのまま倒れ込み意識を失うめいあ。
「それまでッ!!!」
白井大尉の声が修練場に鳴り響いた。
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次回――「朝焼けに託すもの」
毎週火曜日19時更新。




