↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百ニャン一首 ―まこと継ぎし猫たち―  作者: くろのぼっち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/54

第四章 第七話:朝焼けに託すもの

――5:00

数時間前の一悶着がなかったかのように、

東雲建設寮は静けさに包まれている。

そんな中、朝から威勢よく寮の廊下を闊歩(かっぽ)していく閃花の姿があった。


『ドンドンドン!』


「おらーッ!!!お前らッ!!!

早く起きやがれってんだ!朝のトレーニングに行くぞ!」


朝からハイテンションな閃花は、みこととリンを起こしに来たが、

二人は全く反応せずに眠り続けていた。


「ちッ……いい度胸じゃねぇか。どれ、そんじゃ実力行使といくか」


閃花は二人の掛け布団を一気に引きはがしにかかり、

ベッドから強制的に引きずり落とした。

床に崩れ落ちたみこととリンは、未だに寝ぼけており、

意識はもうろうとしている。


「……な、何ですの?……こ、ここはいったい?」


「……う~む。で、殿下はどこに……」


埒が明かない状況に閃花は苛立ち、強制的に二人を両肩に担ぎあげた。

みこともリンも寝ぼけているので、

担ぎ上げられたことにすら気づいていない。


「ん?……そういやぁ、もう一匹いたっけか?

おい!ろあん!隠れてねぇで出てきやがれ!

お前も一緒に行くぞ!」


ろあんは昨晩の騒動から、ベッドの下に潜り込んでいたが、

閃花の叫び声に反応し、しぶしぶ姿を現した。


「朝からうるさいわね~。私は行かないわよ。

何で付き合わなきゃいけないのよ」


閃花はろあんの姿を確認すると、ズカズカと近寄り、

首根っこを掴んで、強制的に連れていくのであった。


「ちょっとー!!!放しなさいってばー!

あーもう!何であたしがこんな目に!」


ろあんは手足をばたつかせ抵抗を試みるも、

閃花の馬鹿力に抗うことは出来なかった。


――屋外に連れ出された二人と一匹は、

閃花によって地面に放り投げられる。


『ドスンッ!』


「痛ッ!……もう、何なんですの?……ここは?」


「ん~……いつの間に外におるのじゃ」


「シャーッ!ちょっとあんた!少しは丁寧に扱いなさいよね!」


閃花は仁王立ちし、鬼の形相で全員を睨みつける。


「お前ら!さっさと朝のルーティーンをこなすぞ!

おふくろから言い渡された課題があんだろうが!

まったく、お前らの不甲斐なさのせいで、

俺が付き合わされる羽目になったんだからな!

オラッ!とっとと反復トレーニングとやらをおっぱじめんぞ!」


みことはようやく頭が回り始め、状況を理解できた。


「はッ!……ちょっと!寝巻のままじゃないですの!

リン!あなたも寝巻のままなんて。

こんな格好で表に出るなんてはしたない!

閃花さん!一度着替えに戻りますわ」


一方、リンは気にすることもなく、ろあんと話をしている。


「おねえちゃん……おはよう」


「まったく!おはようじゃないわよ。ブツブツ……」


三者三様のまとまりのない様子に、閃花はキレはじめる。


「お~ま~え~らーッ!時間通りに起床もできないくせして、

勝手なこと言ってんじゃねー!

このままだと、俺まで朝飯抜きになるじゃねぇか!

今日はもうこのまま始めんぞ!

……それとも、おふくろに喝を入れてもらうか?」


――連帯責任。

京花は、まだ体力がない状態でのトレーニングで、

一週間ほどは疲労が抜けきらないと予測していた。

しかも、慣れていない早朝トレーニングなど、

開始もままならないであろうことも。


そこで、体力が有り余っている閃花に、

当面の間、起床係と付き添いを任せた。

そして、ここは東雲建設である。

専務の命令は絶対であり、

もし遂行できないということになれば……。

閃花は、自身の朝飯を賭け、

みこと、リン、ろあんに容赦なく発破をかけるのであった。


――京花の話が出てきた瞬間、みことは一気に正気に戻り、

慌ててリンとろあんを促す。


「リン!ろあんさん!何を言っても無駄ですわ!

とりあえず、早くノルマをこなしていきましょう」


みことは地べたに座り込んでいたリンを立たせ、

愚痴るろあんを促し、ウォーキングを開始した。


「うぉっしゃー!これから二時間、みっちりやんぞ!」


閃花の号令の下、みこと、リン、ろあんは、

悲壮な面持ちで朝のルーティーンを開始するのであった。

閃花を先頭に、リンとろあんが続き、

みことがリンの後ろからいつでもサポートできるようにと、

最後尾に位置取りし、

隊列を組んでウォーキングとジョギングを繰り返していく。


――そんな慌ただしい風景を、東雲建設寮の三階から眺めている人物がいた。


「……みこ。それがあなた自身が望んだものであるのならば、

わたくしは何も言いません。

ふふ、でも、良い縁に恵まれたようですわね……」


意味深な表情で、みことたちの様子を傍観しているまいあ。


「んん……ッ!こ、ここは?」


「目を覚まして?めい」


めいあはベッドに寝かされており、

ようやく目を覚ました。


「……ここは?……ま、まいちゃん?あ、あれ?あれれ?」


「ここは東雲建設の寮ですわ。専務さんがあなたを運んでくれましたの」


「み~ちゃんの先輩のお母さん……。

そうか……負けちゃったんだよね。……強かったね。まいちゃん」


めいあはおぼろげな記憶をたどり、現実を受け入れ始める。

いつもの明るいめいあの姿はそこにはなく、

目に涙をいっぱいに溜めて、今にも溢れ出しそうな感情をグッと堪えていた。


「……ええ、この上なく。

たとえわたくしたちの得意とする薙刀術をもってしても、

結果は変わらなかったでしょうね」


まいあは、痛めた手首に巻かれた包帯をさすりながら、

己の未熟さを痛感していた。


「戦闘だけではありませんわ。

わたくし達をものの見事に誘導した巧みな戦術と、

落としどころへと導くネゴシエーション能力。

そして……罪を犯したにも関わらず、

お父様への筋を通し、こうやってわたくしたちを労わってくださる心遣い。

全てにおいて……完敗ですわ。

めい、貴方でしたら痛いほど理解しているのではなくて?」


完敗……。

まいあの放ったその言葉は、めいあの心に深く刺さった。

天才ゆえの、座学では収まりきらないバイタリティと、

底抜けに明るい性格との相乗効果で、

あらゆる困難を、奇想天外な方法で乗り越えてきたという自負があった。

しかし――

その道のプロには全く歯が立たなかった。

模擬戦で手も足も出なかったことだけでなく、

終始、京花の掌で転がされていたという屈辱。

めいあは掛布団で顔を覆い、咽び泣くことしかできなかった。


「う~……。こんなに完膚なきまでに打ちのめされたのは、

生まれて初めてですのー。

ひッㇰ……くやしいよ~まいちゃん……まいちゃ~ん!」


まいあは、めいあの頭をやさしく撫でた。


「ふふ……よしよし。

これでやっと、めいも謙虚さというものを学べたのではないかしら?

かく言うわたくしも……ですが」


「ぶぅー……めいちゃんはお姉ちゃんですのに~」


「はいはい。……めい。

みこのことは、こちらの方々にお任せしましょう。

むしろ、あれほどの人物の傍で学べることの方が、

彼女にとって、得難き無二の価値になりますわ……違いまして?」


「……うん」


掛布団で顔を隠しているめいあは、静かに返事をした。


「あとは……お父様ですわね。

まあ、今回は完敗しましたが、次はこうはいきませんわよ。

戦いはまだ始まったばかり。

めい。今度はもっとお母様も巻き込んで、連携を強化していきますわよ。

いいですこと?」


「うん……。

めいちゃんからみ~ちゃんを離そうなんて、絶対にダメなんですから」


「めい。わたくしのみこです」


「ぶぅ~めいちゃんの」


「わたくしの……」


京花の躾も虚しく、

拗らせていることへの反省は……していないようだ。


――めいあとまいあは、しばらくして東雲建設を後にするが、

特にまいあは、夜のうちに撤収しなかったことを死ぬほど悔やむ。

夜間と違い身を潜める術などない。

周りは通勤、通学の人込み。その中で――東雲建設潜入時の格好……。

そう、黒のレオタード姿のまま、歩いて帰宅しなければならないという、

人生最大の恥辱を味わうこととなるのである。


「もう!めい!だから爺に連絡すると言いましたのに!」


「ふふ……たまにはこういうのもよろしくてよ!

まいちゃん!手を繋いで帰るとしますかー!」


「ど、どんな罰ゲームなんですの?それは……」


「だってー、まだ足が痛いんですものー。

いいでしょ~まいちゃ~ん」


「まったく。これだからめいは……ブツブツ」


まいあはめいあの手を取り、なんとか目立たないように、

挙動不審者のように周囲の様子をしきりにうかがう。

しかし、その怪しい挙動と、さすがにアイマスクははずしているものの、

異様な出で立ちが逆に目立ち、

人とすれ違うたびに二度見、三度見されては視線を集めてしまう。

一方、めいあは既に吹っ切れており、人の目など全く気にしないどころか、

むしろ注目してくる通行人に対して、

時折ファンサするかのように手を振って笑顔で応えている。


「あれ?今日ってなんかコスプレのイベントあったっけ?」

「ん?ドラマか何かの撮影か?」

「な!?朝からなんちゅう格好してんだ?」


すれ違うたびに聞こえてくる大衆の声に、

まいあは生まれて初めて、羞恥心というものをトラウマ級に味わうとともに、

もう二度と、めいあが勧めてくる衣装は着まいと……心に誓う。

――二人は十二分に注目を浴びながら、帰宅の途に就くのであった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


次回――「飽くなき探求の証」


毎週火曜日19時更新。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。