第四章 第四話:湯に溶けし疲労、浮かぶ違和感
東雲建設――社員食堂
20:00を回り、食堂には数名の社員が食事をとっているのが見受けられた。
残業で遅くなった者、夜勤前の腹ごしらえ、
中には仕事の打ち合わせをしていると思われる社員もいた。
そんな中、リンを右わきに抱え、ろあんを左肩に担ぎながら、
閃花が食堂へと入ってきた。
「お嬢じゃないっすか!珍しいっすね!」
いの一番に声を掛けてきたのは、食堂副主任の井戸松だった。
その掛け声に、食堂内にいた社員全員が立ち上がり、
「お疲れ様ですッ!お嬢!」
と、一斉に声を掛けてくる。
「おう!わりぃ!気にせず飯食っててくれや」
閃花がそう言うと、社員たちはそのまま座り、食事を続けた。
リンは閃花の腕の中で、ろあんは左肩の上でぐったりとしており、
気絶でもしているかのようであった。
「こんな時間にどうしたんで?何かつくりやしょうか?」
井戸松は心配そうに閃花に声を掛ける。
「すまねぇが滅茶苦茶腹減ってんだ。俺とこいつらの分……
ああ、あともう一人これから来るんで、何か作ってくれねぇか?」
「へいッ!かしこまりやしたッ……て~……」
井戸松は閃花の肩を凝視すると、目を凝らして驚いた。
「お、お嬢?か、肩に居るの……ね、猫!?じゃないっすか!」
「んぁ?ああ、こいつのことは気にすんな」
「き……気にすんなといわれましても……お、お飼いになられたんですかい?」
「う~ン……ま、まあ、そんなとこだ。
おい!ろあん!いい加減起きろや。飯だ飯!お前は何食うんだよ!」
ろあんは閃花の呼び声に反応するも、
あまりの疲労に肩にもたれかかるので精一杯であった。
しかし“飯”という言葉に本能が反応し、何とか声を振り絞る。
「ミ、ミミミ……水!プリーズ!」
定番の答えに、閃花はニヤリとする。
「ははッ!何かまんまじゃねぇかよ。で!彩音!おめぇは何食うんだ?」
リンもろあん同様にぐったりしていたが、意識は戻っていたため、
何とかリクエストすることができた。
「オ、オオオ……オムライス!オムライスじゃ!」
「はんッ!しゃあねぇなぁ。
そんじゃすまねえが、オムライスと……俺はかつ丼大盛りで!
あと……水をどんぶりか何かに入れてやってくんねえか?」
ろあんはピクッと反応する。
「あ、あんたねぇ……どんぶりって、そ、そんなに飲めないわよ。
あぁ……あと、少し温めてちょうだい。
あぁ……あと、ささみとかないかしら……
あぁ……あと、マグロの切り身も……」
「だぁーッ!うっせえなぁ!てめぇん家じゃねぇんだから少しは我慢しろ!」
閃花はめんどくさがり、そのままオーダーを入れる。
「わりぃが早めに頼むわ!」
「へ、へい!承知しやした!」
(お、お嬢……な、なにを独り言言ってたんだ?誰かと話してる?)
ろあんはぐったりしていたので、閃花と話していたことはバレていない。
――二人と一匹が席へ移動したところに、みことも合流し三人と一匹が揃った。
「おう!みこと、家への連絡はすんだのかよ?」
なぜか閃花はニヤニヤしている。
「閃花さん……ふぅ、もうよろしいですわ。
これ以上、“無駄!”……に体力を削られたくありません」
「ガハハ!まぁそう邪険にすんなって。
こうやってみんなで飯食ってっと、合宿みたいで楽しいじゃねぇか。
で?お前は何にしたんだよ?」
みことはうつむき、イラッとしたが、何とか気持ちを抑え込む。
(楽しい?……楽しんでるのは、あ・な・た・だけですわ!)
何もなかったように表情を整え、引きつり笑顔で閃花を睨むみこと。
「オホホ……ジェノベーゼパスタにしましてよ……」
「め、目が笑ってねぇぞ。しかし、あんだけ動いてパスタだぁ?
そんなんじゃ、いつまでたっても成長しねぇぞ?
もっとドカンッと、腹に溜まるもん食えやぁ~」
みことは一言も返さず表情を変えず、引きつり笑顔のまま閃花を睨み続けた。
「い、いや……お、俺が悪かった……」
そうこうしていると、全員分のメニューが揃い、
倒れ込んでいたリンとろあんも息を吹き返し、貪るように食べ始めたのであった。
――「あ~食った食った~!あぁ、そうだお前ら。
うちの寮、部屋にシャワー付いてんだが、
大浴場もあるからせっかくだし入ってくか?
温泉効能付きだかんな~、疲れもとれるぜ」
「え!?……。み、みんなで入るんですの?
そ、それは……ちょ、ちょっと遠慮させていただこうかしら……」
(せ、閃花さんと一緒に入るなんて、
な、何されるかわかったものではありませんわ!
リ、リンとでしたら……はっ!い、いけませんわ!
よからぬ妄想が……あ、頭をよぎりますわ)
みことは急に顔を赤らめ、下を向いてしまう。
「おいおい!なんだ?お前。なんか急にウブになって気持ち悪ぃぞ。
まさか、今まで大勢で入ったことないとか、ぬかすんじゃねぇだろうな」
「まさか!デ、デリカシーのない閃花さんには、理解できない問題でしてよ」
閃花は頭をかきながら、めんどくさそうに言い返す。
「ごちゃごちゃうっせぇなぁ。今日は疲れてんだ、
めんどくせぇから彩音!ろあん!
こいつは放っておいて一緒に風呂入りに行くぞ」
「あ、あたしは入らないわよ。
リン?せっかくだしみんなと一緒に入ってきたら?」
リンはキョトンとした表情で、ろあんにうなづく。
「わかった。……おねえちゃん、行ってくるね」
「いってらっしゃい」
ろあんは食後のグルーミングをしている。
みことはリンの返事に即座に反応し、
頭の中でありとあらゆる思考を高速で巡らせた。
「!?……リ、リン?」
(ま、まずいですわ!このままではリンが閃花さんに……お、おか……おか!)
閃花とリンは、モジモジしているみことに構わず、大浴場へと向かう。
「ま!待ってくださいまし!わ、わた、わたくしも……行きますわよー!」
――大浴場にて
「閃花……これ、どうすればよいのだ?」
リンは服を脱ぐことができず、戸惑っていた。
「あぁ?何してんだお前?……なぁ~ッ!
まさか、一人で風呂に入ったことねぇとか言わねぇだろうな!」
リンは、シャツのボタンを外していないにもかかわらず、
無理やり脱ごうとして、頭に引っかかってしまっていた。
「た、助けてたもー」
「かぁ~ッ!マジかよ。財閥のお嬢様ってのはこんなこともできねぇのか!
しゃあねぇなぁ……ほら、ボタン外してやるからじっとしてろや」
閃花がリンの服を脱がせるのに悪戦苦闘するなか、
みことは未だに大浴場の入り口でウロウロしていた。
(リ、リンと一緒なら是非もありませんが……閃花さんと一緒だなんて……)
挙動不審者のごとく、入ろうとしては立ち止まり……を繰り返すこと十分程度。
――ようやく覚悟が決まり、大浴場の中へ入るみこと。
「おう!おせぇな~。先に入ってんぞ!お前も早く入ってこいや」
既に閃花とリンは湯に浸かっていた。
「わわわ、わかっていますわ!
せ、閃花さん、あまりこちらをみないでくれますこと?」
「けッ!減るもんじゃあるめぇし、同じ女の体見たところで何だってんだ」
ようやくみことも湯船につかり、
三人揃って、まったりと時間が過ぎていくのを感じた。
「そう言やぁ彩音。お前のその変な言葉遣い、誰かのマネなのか?
まさか、方言じゃねぇだろ?」
リンは湯にとろけそうな表情をしていたが、
“その話”を振られると、急に目を輝かせ始めた。
「違うのじゃ!閃花は“ごじゃる殿下”を知らんのか?
今大人気でテレビでやってるから、絶対に見た方がいいのじゃ」
みことは、急に滑舌が良くなったリンを見て少々驚くも、
無邪気に一生懸命語る姿をみて微笑んだ。
(まぁ、リンったらあんなに嬉しそうに喋って。
なんて愛らしいのかしら……でも、あら?)
“その疑問”に閃花が瞬時に反応した。
「ん?“ごじゃる殿下”?……随分“なつかしい”アニメ見てんだなぁ。
俺がガキの頃やってたやつじゃねか。
今大人気って……再放送かなんかで、また人気が出だしたのか?」
リンは首をかしげ、閃花の言葉の意味がいまいち理解できない様子だ。
みことも自身の記憶をたどりはじめ、幼い頃に少しだけ見ていたことを思い出す。
(あれは……何年前だったかしら?ずいぶん懐かしいアニメですこと。
でも、それに感化されて言葉遣いをマネるなんて。
……ああ!リンッ!愛おしすぎますわ!)
そうこうして三人で話している内に、
体も温まり湯船から上がろうとした時であった。
――リンが無自覚爆弾を投下する。
閃花のある一点をジ~ッと見つめるリン。
「お……大きいのじゃ。閃花のはなんでそんなに大きいのじゃ?」
リンの純粋無垢な発言に、のぼせ気味で赤くなった顔を、さらに赤らめるみこと。
「リ、リン!はしたないですわよ。およしなさい!」
「んぁ?なんだおめぇ。お前もデカくなりてぇのかよ?
俺にとっちゃぁ邪魔なだけなんだがよ。」
リンの視線は一点集中したまま釘付けになっている。
「リンッたら!もう上がりますわよ!ほらッ」
みことはリンの腕を掴み、無理やり上がらせようとした。
「み、みこと~。も、もう少しだけ見ていたいのじゃー」
「い・き・ま・す・わよ!」
みことは立ち上がり、リンと一緒に湯船から出ようとするも、
バスタオルをしていないのを忘れており、
閃花に“全て”をバッチリ見られてしまう。
「お!みこと!お前の発育はまだまだだなぁ~。
お前もリンも、俺みたいになりたけりゃ、
もっと食べて、動いて、よく寝るこった。ガハハハッ!」
みことは我に返ったように自身の体を見下ろし、
“何も纏っていない”ことに気が付く。
「え?……きゃ、きゃーーーッ!!!」
慌てふためき、リンを取り残したままその場から脱衣所へ駆けだした。
「湯冷めする前に早く寝ろよー!」
ニヤつきながら、みことに声を掛ける閃花。
――ほどなくして、取り残されたリンとともに、
湯船からあがり、閃花はリンの着替えを手伝い、
二人は寮に戻るのであった。
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次回――「Enemy Invasion!」
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