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百ニャン一首 ―まこと継ぎし猫たち―  作者: くろのぼっち


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第四章 第二話:期待を胸に――踏み入る地獄

――「リンを閃花さんのところに?」


彩音家を訪れた日から数日後、

紫呉の手紙の内容を気にするも、連絡待ち状態であったみことのところに、

閃花より連絡が入った。


「ああそうだ、紫呉から渡された手紙をおふくろが読んだんだが、

何やらあるみて~でな。

いつも一緒にいるお前が、うちに連れてきてくんねぇか?」


「構いませんが、日にちはいつがよろしいのでしょう」


「なるべく早くだとよ」


「では、明日にでもリンと一緒に参りますわ。

紫呉さんにはお伝えしてありますの?」


「ああ、お前はリンを連れてきてくれりゃあいい。

それと、ろあんも一緒にな。頼んだぜ」


「承知しました。それでは明日」


みことは通話を切ると、思考を巡らせた。


(あの手紙にそんなことが書かれていたのですね。

でもなぜ閃花さんのお母様なのでしょう……。

紫呉さんとの関係は……。

――いけませんね。あまり立ち入るのもよろしくありませんわ。


ふふッ……でも、明日はリンと放課後も一緒にいられるのですね。

まるで、デート……みたいな♡

うッうんッ!……わたくしとしたことが、浮かれてはいけませんわ!)


何も知らないみことは、放課後もリンと一緒にいることができ、

楽しい時間を共に過ごせるのではないかと、

拗れた妄想を掻き立てるのであった。


――翌日、東雲建設・地下一階・修練スペース


「な!ななな、何ですの!この状況は!」


みことはリンを連れて、閃花の言った通り東雲建設を訪れるも、

着くや否や、言われるがままに学園のジャージに着替えさせられ、

いつの間にか、社員らしき人間十数名と一緒に整列させられていた。

列の正面の壇上には京花が仁王立ちしており、

隣にいる閃花はみことに向かってニヤついている。


「これより育成プログラム第四班による、強化修練を実施する。

学園招待生を残し、全員!指定プログラムの開始位置に付け!

位置につき次第、各自スタートさせろ!開始!」


京花の号令で、一斉に散っていく社員たち。

みこと、リン、ろあんは何も理解できないまま、

茫然と立ち尽くす以外になかった。

そんな状況を楽しむかのように、

閃花はしたり顔で隊列に混ざり、二人を冷やかし始めた。


「おう!よく来たな!お?ろあん、お前もジャージ着せられてんのかよ。

似合ってんじゃねぇかw」


なぜか、ろあんもジャージを着せられており、

明らかに不満そうな表情を浮かべていた。

猫用のジャージなど、市販されているはずがない。

胸元には「ろあん」と、丁寧な刺繍が入っており、尻尾を通す穴まで空いている。

きめ細やかに配慮されたつくりに、逆にろあんはイラッとしていた。

“誰かが”用意周到に準備していたということだ。


「ちょっと!一体何なのよこの状況は!

何であたしまでこんなの着なくちゃなんないのよ!」


ろあんだけでなく、みことも黙ってはいられない。


「閃花さん!これは一体どういうことか、

きちんと説明していただけませんこと!」


閃花に食って掛かるみこととろあんだが、

リンはそんな二人を不思議そうに見つめていた。


「静粛に!」


壇上で仁王立ちしていた京花の一喝で、一気に空気が引き締まり、

みこととろあんは、その気迫に圧倒され黙り込む。


「閃花……あなた、何をやるかちゃんと説明していなかったの?」


「いやぁ~、小うるせぇ奴がいるもんだからさぁ、勘ぐられたら面倒だしな。

でもちゃんと連れて来ただろ?結果オーライだ」


……頭を抱え込む京花。


「あなたときたら……まあ、いいでしょう。あなたに頼んだ私のミスです。

みことさん、リンさん、ろあんさん……

今日から連休までの間、

私が付きっ切りで体力向上のための強化ブートキャンプを執り行います。

……これは紫呉閣下たっての希望です。

心を鬼にして当たらせてもらいますので、そのつもりで。

それから閃花、日ごろの甘ったれた態度を叩き直す意味で、

徹底的に鍛え直していくので、覚悟なさい」


京花の眼鏡がきらりと光り、三人と一匹をジロリと睨みつける。


「わ、わかったから、そんなに高ぶるんじゃねぇっつうの!」


いきなりの話に、みこととろあんは納得できずに閃花に食って掛かる。


「閃花さん!いい加減にしてくださいまし!

なんでわたくしまで巻き込まれなければならないんですの!」


「そうよ!そんな人間のやることに、

なんでこの守猫が付き合わなきゃならないのよ!」


一人と一匹に詰め寄られた閃花は、なぜか急に不穏な表情を浮かべ始めた。


「おい!お前ら!……もう始まってんだぞ、

無駄口はそのくらいにしとけや。でないと……」


その時、いきなり耳をつんざく怒声が響き渡った。


「口を閉じろッー!!!余計な話をさえずるなッ!

次の注意でペナルティを加える!

日をまたごうが何だろうが、ノルマ達成まで居残りさせるぞ!」


「ひぃッ!!!」×2+1、「……?」×1


あまりの強烈な京花の一喝に、みな一斉に姿勢を正し口を閉じるのであった。

この瞬間、みことは思い出した。

閃花の母親が元国防隊の少佐であったことを。

そして、置かれた状況を把握すると、

額から冷や汗が止まらなくなっていた。


「これから名前を呼ぶので、大声で返事をするように……東雲閃花ッ!」


「お?おう」


「声が小さいッ!その場で腕立て50回!」


「な!ま、まじかよ!ちょっと……」


「口答えするなッ!50回追加!」


「はッはい!」


閃花は慌てふためき、その場で腕立て伏せを開始する。

京花とのやりとりを横目で見ていたみこととろあんは、

完全に血の気が引いていた。


「次!葵生みことッ!」


「は、はいッ!」


みことは手を握りしめ、精一杯の返事を絞り出す。


「次!彩音リン」


「はい……なのじゃ」


「……」


京花は少々、リンの顔を眺めた。


(……この子が、彩音リン。見た目は聞いていた以上に幼いな。

……いや、まさかな)


――閃花は必死にペナルティの腕立てをこなしている。


「葵生みこと、一歩前へ出ろ」


「ひぃッ!……」


みことの顔は引きつり、恐るおそる一歩前に出た。


「は、はい。何でございましょう……」


「ブートキャンプの期間中、彩音リンは会社の寮に寝泊まりするので、

学園もそこから通うことになる。

いきなりではあるが、貴様も彩音と同じ寮で寝泊まりするよう段取りするように。

彼女の面倒を見るのは、閃花では心許ないのでな」


京花からのいきなりの申し出に、呆気にとられるみこと。


「は?はい……」


(え?どういうことですの……リンと同居しろということなのかしら?

ま、まぁ……リンとでしたら全く問題ない……というより、

願ってもないことですわ!)


「え……えっと、いきなりのことですので、

家の方にはまだ何も伝えておりませんが……。

リンと同居をするのでしたら、全く問題ございませんわ」


むしろご褒美……そんな邪(よこしま)な思考がみことの脳裏をかすめた。


「家のことなら心配するな。既にわたしが話を付けてある。

ただ、念のため、貴様からも後で連絡しておくように。

彩音もそういうことでいいな?」


「?……う、うむ。っ!は、はい、なのじゃ」


リンは一瞬、何を言われたか理解できていなさそうであったが、

怒らすと怖い存在……そう認識したので、返事だけ返したのであった。


「まったく、用意周到なことね。ま、どうせ紫呉が手を回したんだろうけど」


ろあんは一瞬、気が抜けてしまい、横たわるように寝そべった。


「……そして、ろあん!とやら」


京花がいきなり、ろあんに向けて言葉を投げかける。


「シャーッ!!!」


ろあんは一気に起き上がり、警戒態勢を取って、

本能のままに威嚇声を発してしまう。


「貴様は言葉を理解していると聞いているが……。

まあいい、理解できるか知らんが、彩音の後を付いていくように」


「ニャー!」

(まったく冗談じゃないわよ!こんな面倒なこと。紫呉ぇー!覚えてなさいよ!)


ちょうどその頃、閃花はペナルティ含めた腕立てを終えようとしていた。


「99、100!……ぜぇぜぇ、お、終わったぜ!」


京花は顔色一つ変えずに、次の指示を閃花に与える。


「あら、さすがに早いじゃない。

閃花はこの後、Aグループと同じメニューをこなすこと。

体力バカの集まりだから、油断しないように」


「そういえば、燈はどうしたんだよ?あいつは来ないのか?」


「彼女は自身の修行があるようなので、合流しません。

人の心配してないで、己の弱い心と向き合いなさい」


「チッ……しゃあねぇ!そんじゃ、とっととおっぱじめるとするか!

Aグループだろうがなんだろうが、ねじ伏せてやんよッ!」


「その意気や良し。お手並み拝見といこうじゃないの」


閃花は意気揚々と、Aグループの方へ合流していった。

京花は二人と一匹の前に仁王立ちし、厳しい視線を向ける。

リンは未だにいまいち理解していなさそうで、

みことは京花の視線に耐えながら顔を上げ、

蛇に睨まれた蛙状態で、必死に耐えていた。


――「それでは初めに、貴様たちの基礎体力の測定から始める」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


次回――「怪盗、にゃのめ!見参!」


毎週火曜日19時更新。

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