第四章 第一話:生徒会発足
朝ぼらけ 宇治の川霧 たえだえに
あらはれわたる 瀬々の網代木
――城蘭学園生徒会室
「前年度の問題点を踏まえ、
改善項目をレポートにまとめた点の概要は以上になります」
新しい年度になり、新役員と各執行部との顔合わせが行われており、
静まりかえった生徒会室では、二十名ほどが顔を揃える会議が開かれていた。
広報委員からの報告が終わると、一人の男子生徒が口を開く。
「よろしい、次は……と行きたいところだが、そろそろ時間だ。
みな、事前報告ご苦労だった。
若干数、期限ギリギリでの提出がみられたが……」
厳格な口調の生徒が鋭い視線で周りを見渡すと、
あからさまに視線を外し、萎縮する生徒が数名。
「ま、今回は年度初という事もあり、大目に見てやる。
だが次は必ず期限の前日には提出するように。
守れなければ予算削減を検討するので、肝に銘じるように」
張りのある厳しい声が生徒会室に響き渡り、各委員に緊張が走る。
「そろそろだな……」
その男子生徒が部屋の外へ視線を向けた、その時――
扉が開き、華やかな風貌の男子生徒が姿を現した。
「全員!起立ッ!」
男子生徒は率先して立ち上がり、声を張り上げた。
軽やかにして艶やか。
光り輝くというより、妖艶なる輝きをまとった不思議な存在感で、
人を魅了していくような人物が中央の座席に腰かけた。
「やあ!みんな、遅れてすまない。座ってくれたまえ」
優しい口調で語り掛け、笑顔で周りを見渡した。
その生徒こそ、五大財閥の次席格である、
藤之宮家の御曹司――藤之宮亜蘭であった。
生徒会室に入ってくるや、直ちに感じ取れる育ちの良さだけでなく、
カリスマ性も併せ持った風貌に、その場にいた委員は息をのむ。
張り詰めた緊張の中、彼はやさしくそっと口を開く。
「初めましてになる子もいるのかな。
会長の藤之宮亜蘭だ。よろしくね。
先ずは東時副会長、今年度の生徒会運営方針を皆に説明してくれたまえ」
高圧的でもなく、人任せにするようなタイプでもない。
自然と注目を浴びるような存在感だけでなく、
彼の言葉には、まるで「魔力」が込められているかのようであった。
「はい、かしこまりました」
先ほどまで、厳しい態度で場を仕切っていた男子生徒が立ち上がる。
「副会長の東時永斗だ。今年一年、よろしく頼む。
私は会長と違い、甘えや妥協は許さんので、そのつもりで」
副会長のその言葉に少々憮然とするも、
すぐに朗らかな笑顔で語り掛ける会長。
「おいおい……永斗。いきなり脅しをかけるもんじゃないよ。
みんな顔が引きつってるじゃないか。もう少し肩の力を抜いたらどうだい?」
「会長、お言葉ですが何事も始めが肝心です。
そもそも、遅刻してきた者を咎めていない時点で、
既に寛容を示していると思いますが?」
「ハハ、これは一本取られてしまったね。
大里理事長の話が長引いてしまったのだが、
これでも何とか切り上げて来たんだよ?」
「承知しております。何事にも“例外”はつきものですので」
「君も随分物分かりが良くなったね。
……すまない話の腰を折ってしまったね。続けてくれたまえ」
「はっ。それではこれより、今年度の運営方針を伝える……」
東時副会長の説明に皆、真剣に聞き入り、彼の正確無比な語り口調もあってか、
生徒会室には緊張の糸が張り詰めていた。
副会長の彼は、藤之宮グループ内での、
比較的本家に近しい系列企業の社長の息子であり、
幼い頃より亜蘭の側近として、あるいは友人として接していた。
生真面目で頑固な性格が故、掴みどころのない亜蘭には何かと悩まされている。
――今年度の生徒会役員は去年に引きつづき、
三役(会長、副会長、書記)がそのまま引き継ぐこととなっていた。
通常は三月に一、二年生にて会長選をするのだが、
学園始まって以来、異例中の異例となる、一年生からの二年続けての三役。
この背景には、みこととリンの例の如く、
三年間の三役独占という藤之宮家から理事長へのオーダーがあり、
その見返りとして、大里理事長は次席格からの後ろ盾を得る、
ということであった。
二年目の生徒会は藤之宮家による、まさに帝政といった様相を呈していた。
「以上。各担当は新任となるので、猶予期間を一週間設ける。
その間に、自身の年間行事に携わる事柄を明確にし、全て把握しておくように。
直前になってわかりませんでしたは通用しない。
各執行委員や補佐達はよく頭に叩き込んでおくことだ」
東時副会長の圧に、生徒会室の空気が凍り付く。
発言が終わり着席すると、再び藤之宮会長が場を仕切る。
「副会長からは以上かな。
では次、書記兼会計の御頭君から事務手続きの件をお願いできるかな」
「え?……あ、はいっす……ども。
書記と会計を任されてる御頭海莉っす」
机の上で寝ているような体勢から顔だけ起こし、気怠そうに挨拶を始めた。
影の薄い、今の今まで誰からも認知されていなかったような、
新しい委員の何人かには、荷物か何かだと思われていたほど。
薄い……とても薄い存在感であった。
「まぁ……なんすかねぇ。書類の提出期限守れなかったら……
こ〇すんで、そこんとこよろしくっす」(ニヤリ)
御頭の不気味な微笑で、生徒会室の空気が凍り付く。
東時の圧は、真正面から射貫かれるような圧だが、
御頭のそれは、気づけば背後に立たれ、
刃物で威嚇してくるような、陰湿な圧だった。
ちなみに御頭は、東時と違い、藤之宮家との縁はなかった。
亜蘭が偶然、情報処理室でオンラインゲームをしている御頭を目撃し、
その驚異的な腕前を目の当たりにして、スカウトしてきたのが経緯だ。
当初、その薄い存在感と、締まりのない性格に、
東時は猛烈に反発したが、亜蘭のごり押しで役員に引き入れた。
案の定、未だに東時は御頭に対して厳しい姿勢を見せている。
「おい!御頭。貴様という奴は、もっとシャキッとせんか!
まったく陰湿な雰囲気を漂わせおって」
「まあまあ、そう怖い顔をするなよ永斗。
人間SDTと呼ばれるほどの、彼の能力は高く買ってるんだからさ」
「会長、仰ってることは理解しますが、下の者に示しがつきません」
「そこはほら、僕と君がフォローすればいいんじゃない?何事も助け合いだよ」
「……まったくこれだから……ブツブツ」
明らかに不機嫌そうに、顔を背け文句を小声で垂れている副会長。
周りの委員たちは「何を見せられているんだ……」と、
言わんばかりにドン引きしている。
「さてと、膨れてしまった永斗はそっとしておいて、
……それでは各委員会の代表者紹介と今年度の抱負を述べてもらおうか」
藤之宮会長がサラリと場を切り替え、
集まっていた委員たちが緊張感の中、順に挨拶と抱負を述べていった。
――会議は二時間以上続き、既に夕焼け空に染まっていた。
「ではこれにて、全体会議を終了します。みんな、お疲れさまでした」
生徒会室に残る三役――。
夕日を望む校庭を背に、藤之宮会長が物思いにふけつつ語りだす。
「ねぇ……永斗。今年は面白い子が二人ほど入ってきたみたいじゃないか。
“三と四”……か。ふふ、どんな子なんだろうねぇ」
「会長、衝突るとすれば来年です。この一年は盤石を期すべきだと進言します」
「ふぅ……相変わらずユーモアのかけらもないなぁ。そんなことは分かってるさ。
海莉も何か永斗に言ってやってくれないか」
相変わらずうつ伏せ状態で、寝ているのか起きているのかわからない状態であったが、
会長に話題を振られ、思い出したかのように急に起き上がる御頭。
「……腹減ったんで、帰っていいっすか?」
その一言に、副会長は震える拳を握り上げ、会長は頭を抱える。
「き、貴様と言う奴は……」
「ああ!なんと嘆かわしい……僕は呪われているんじゃないだろうか?
こんなことで三年間の“生徒会役員独占計画”は成就するのであろうか……。
でもまっ……これから刺激的になることは間違いなさそうだね」
夕日に染まった校庭を眺めながら、妖しげに微笑む会長であった。
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次回――「期待を胸に――踏み入る地獄」
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