第二章 第六話:深淵に触れし双姫
「めいあ様、まいあ様。本日はお越しいただきありがとうございました。
くれぐれも、みこと様へはご内密にお願いいたします」
紫呉は何事もなかったかのように、深く一礼し二人の車を見送る。
意気揚々と彩音家に乗り込んだ今朝方と違い、
めいあとまいあは混乱しており、車内ではしばらく無言が続く。
いつもなら賑やかな二人が黙り込んでいる事実が、
先ほどまでの重さをそのまま物語っていた。
「え~とッ……な、何から話せばいいの~かしら……ねぇ!まいちゃん!」
「す、少し整理する時間が必要ですわ……。
まあ、無駄かもしれませんが少々、お父様には付き合っていただきませんと」
「み~ちゃんに適応があるって言ってたけど、
何か肝心な事ははぐらかされた感じだったね~」
――彩音家当主との謁見。
「あー聞こえるかね……。このような所にわざわざ来てもらってすまない。
めいあ君とまいあ君だね。
小さい頃に会ったことがあるんだが、覚えていないだろうな。
私が彩音斎恩だ」
「ご、ごきげんよう………葵生まいあですわ」
「めいあ……です」
「紫呉君から話は聞いているよ、
みこと君がうちの娘を心配してくれてたみたいで、
わざわざ来てくれたんだってな?
ろくなおもてなしもできずに、早々と切り上げてしまったとか。
すまないね、わたしからも謝罪させてくれ」
二人は狐につままれたように、戸惑いを隠せずにいる。
先ほどの紫呉と、開口一番に彩音家当主からの直接的な謝罪。
葵生家としての体裁も、姉としてのケジメもとっくに付いていたが、
あまりの予想外の展開に、二人の思考は現状の把握だけで精一杯になっていた。
まいあが何とか冷静さを保ち、口を開く。
「おじさま、その……こちらにはいらっしゃらないのですか?」
「うむ、すまない。これは極秘事項なのだが、
葵生家の者であれば知られても問題ない。
実はこの画面に映っているのは、わたしを模した自立型AIなのだよ。
本人は現在、少々“込み入った所”に行っていてね。
知られる訳にはいかないのでな、申し訳ないがこのような形になってしまった」
「そ、それは……かまわないのですが――」
まいあは頭をフル回転させ、何とか質問の取っ掛かりを見つけようとしていた。
「そ、それでは、この研究施設は何ですの?
なぜ、地下にこのような物が必要なんですか?」
「うむ……それに関しては、紫呉君から説明させよう」
「承りました……」
紫呉は、大型ディスプレイのコントローラーを操作し、
映像を切り替えて説明を始めた。
――紫呉が説明した概要は、
・彩音家は古来より伝わる“とある伝承”の研究を続けてきた。
・その一環としての“地下研究所”である。
・研究内容は極秘なので明かすことはできない。
そして……その研究内容の延長線上に、
“みこと”が関わってくる可能性があるという。
「適応率?とは、何ですの?」
「はい、詳しくは申し上げられませんが、
“疑似SDT”による、予測バースト演算の結果でございます。
ただ、みこと様におかれましては、45%と少々低く、
現状では“要観察対象”になっております。
将来において、数値が上がる等の傾向が見られた場合、
適応者への段階を踏んでいただきます」
「ちょっ~と待った~ァ!!!」
ここに来てから、借りてきた猫のように大人しかっためいあだが、
みことに関わる事に黙ってはいられない様子だ。
「え?何?……何でみ~ちゃんをそんな訳わからん事に巻き込んでんの?
まいあッ!飲まれてんじゃねぇーぞッ!!!
訳わからんことばかり並べて、何が観察対象だっつ~の!
めいのみ~ちゃんに勝手な真似してみな……覚悟、出来てんだろうなぁ!」
「めい!“わたくしのみこ”です。
紫呉さん……ご自分で仰っていて矛盾を感じませんこと?
“核心”を隠して、意味深な事ばかり仰っていて……
わたくし達にそこまで話したという事は、ディールをご所望ではなくて?
で、あるならば、第一に信用をベットしていただきませんと、話になりません。」
「……」
紫呉は黙り込んでしまう。
「あーあー……。紫呉君。
君はちょっと“堅物”すぎるなぁ、まぁ、それが長所でもあるんだが」
画面が切り替わり、斎恩が再び映し出された。
「めいあ君、まいあ君、すまないね、気分を害したのなら謝罪しよう。
ただね、この事に関しては不確定要素が多くてね。
何も、みこと君に危害を加えたりなんてことは絶対にないから、
安心してくれたまえ。
その証拠として君たちの御父上、総鳴殿の協力も取り付けている。
というか、この研究施設に関しても、葵生家と資本提携されている。
そして……もう一つ大事な事があるのだが――」
――再び車内にて
「“行動規定”……“事”が起こる場合に備えた、事前の取り決め。
彩音家に代々伝わる、警告とされる伝承があり、
“疑似SDT”の予測演算によると、現在はB判定とされている。
第一段階として“適応者の確保”……みこが、その適応者の可能性がある。
このような陰謀論……しかし、あの研究施設は尋常ではありませんでした」
まいあは先ほど受けた説明を克明に思い出しながら、
何とか自分なりに咀嚼するので精一杯であった。
「しかも“疑似SDT”ですって?
“SDT”(シンギュラリティー・ディメンション・トライアングル)
自体は現在、国家プロジェクトの中枢であるはず……
“疑似”ということは、それと同等のシステムがこの施設にあるということ?
それに葵生家も出資していて、この事をやはりお父様もご存じだった……」
神妙に分析を続けるまいあをよそに、
めいあはなぜか満面の笑みで、まいあを諭し始める。
「まいちゃん!お姉ちゃんは思うのです!
きっとみ~ちゃんが、選ばれし存在になって、
数多の敵を蹴散らしていくという、そんな~チートな物語が待っていると!
人はそれを――“勇者”と呼ぶ!!!」
まいあを指さし、ドヤ顔するめいあ。
「はぁ……めい、あなたのその切り替えの早すぎる性格
――いえ、もはやユニークスキルですわね……まったく、羨ましい限りですわ」
「めいちゃんは~常にポジティブなのでした~w」
「はいはい……でも、めい!みこにはこの事を言わないように気をつけなさいな。
そして、みこの身に何かありましたら……直ぐにわたくしたちが動きますわよ!
いいですわね!」
「了解~w」
――彩音家、地下32階
「当主様、それではリン様をお迎えに行って参ります」
「ああ、頼むよ。リンは……変わりないかね」
「はい、最近ではみこと様に大変良くしていただいておりますので、
心なしか少し明るくなられたかと……ッ!失礼いたしました」
「紫呉君……リンを……“わが娘”を!……どうか、よろしく頼んだよ。
わたしはまた、少し休ませてもらうとしよう。
適応者の試しも、よろしく頼む」
「……かしこまりました、何のご心配もなさらず、お休みくださいませ」
紫呉の後ろから、黒い影が音もなく近寄る。
「あ~ぁ……また寝ちゃったの?全く、どんだけ背負い込んでるのよ~。
まっいいけどさ……で?明日、いよいよやるのよね?」
「はい、全て予定通りに執り行いますので、そのおつもりでお願いします」
――その後、帰宅しためいあとまいあは、
父の書斎へ直行し、父をガン詰める。
「お父様ッ!!」「パパ~ッ!!」
「これは一体どういう事でしょうか!!!」
「これは~一体何なのかしら~w」
書斎の扉を開けた瞬間、総鳴は二人の顔を見て全てを察したようだった。
「ま、待て待て!……一旦落ち着こうじゃないか、ちゃんと話せばわかる!」
そこへ騒ぎを聞きつけた母親が扉から顔を出し、
状況を一瞬で把握するや否や参戦してきた。
「あなたッ!!」
「お父様ッ!! 」
「パパ~w」
――結局、解放されたのは深夜だったとか……。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
次々と明るみになる彩音家の秘密。
次に画策するは“適応者の試し”。
いったい何が起ころうとしているのか。
次回――「剣呑への誘い」
毎週火曜日:19時に投稿中。




