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百ニャン一首 ―まこと継ぎし猫たち―  作者: くろのぼっち


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第二章 第五話:静寂は澱みて

「爺や、中には私たち二人で向かいます。

車を回して、爺やと執事はここにて待機しててください」


「それでは~!警護二班・警備部・特別哨戒第二、第三班は全て撤収!以上!

おつかれさま~気を付けてお帰りになってねぇ~!」


めいあが指示を出すと、一斉に黒スーツたちは引き上げていった。


「めいあ様、まいあ様、くれぐれもお気を付けくださいませ」


爺と執事は深々と一礼する。


「めい、行きますわよ」


「合点承知!爺や~、執事ん~、行ってきま~す!」


――紫呉の案内のもと、二人が通されたのは、中庭に面する客間であった。


「お茶の準備をしてまいりますので、少々お待ちください」


そういうと紫呉は一度、奥へ下がった。

二人ともに椅子に腰かけ、周りを見渡す。


――広く奥ゆかしい、手入れの行き届いた美しい和庭。

しかし、決定的なものが足りていない。

二人の予想は直ぐに判明する。


「……まいちゃん」


「ふぅ~、そうですわね」


「お待たせいたしました、粗茶でございます。どうぞ召し上がりください」


二人が色々と会話をする前に、紫呉はお茶だしを始める。


「紫呉さん、先ずはお座りになっていただけますか。

お聞きしたいことがございますので」


「それでは、失礼いたします」


紫呉は、二人を前にして座った。

そして、めいあが口火を切りはじめる。


「ずいぶん“静か”なのですねぇ~このお屋敷は。

まるで“誰もいない”みたいね~w」


「事ここに至りましては、何も隠す必要はございません。

ご想像通り、今現在このお屋敷のお世話は、わたくし一人で行っております」


まいあは、予想通りであると表情を全く変えず、紫呉の眼を直視する。


「それは……ご当主様にお目にかかれない事と、関係がありまして?

こちらの面子としましても、ご当主様に直接お話を伺いたいのですけれど?」


「はい、ただ……“お会い”していただく事はできますので、

一息つかれましたら、ご案内させていただきます」


意味深な言い方に、二人は顔を見合わせ軽く首を傾げる。


「……それは、昨日の妹の件とも関係があるのかしら?

リンさんでしたか?その子の話になったとたん、

態度が豹変したと聞き及びましたけれど」


リンの名を出したことで、また“豹変”するかもしれない。

まいあは少しばかり警戒し、身構える。


「……豹変ですか。先ほども申しました通り、

そのことにつきましては、わたくしの不徳の致すところでございます。

ただ、“それ”も含めまして、この後、斎恩様とお話いただければと存じます」


紫呉の回答に、少しだけ拍子抜けするまいあであった。

しかし、めいあは少々納得がいかない様子である。

彼女は気が昂ると、直ちに言葉遣いが変わり、

いわゆる“お嬢様”ではなくなるという、少々、二重人格的なきらいがある。


「あ~れ~?めいの可愛いみ~ちゃんを、あんなに憔悴させておいて~

不徳、不徳言って、それも含めて自分以外に聞けって~?

本人は逃げんのかよッ!マジで喧嘩売ってんのかなー!!」


「おだまりなさい!!!めいッ!

全てはこの後、当主に聞いてからです!

この程度のことで取り乱すなど、葵生家の娘として失格ですわ!

あまり度が過ぎると、帰らせますわよ!」


まいあの一喝で、めいあは我を取り戻したが、

若干ふてくされ気味に、まいあに背を向け何やらブツクサ呟いていた。


「ぶぅ~……めいちゃんの方がお姉ちゃんですのに~…み~ちゃ~ん~ブツブツ」


「ふふ……。仲が大変よろしく、羨ましい限りでございます」


二人のやり取りを、じっと眺めていた紫呉の眼は、

表情には出さないものの、どこか“悲し気”で、

儚げに遠くを望む……そんな眼差しをしていた。

まいあは一瞬であったが、それを見逃さなかった。


「めいあ様、みこと様へのお気持ち、十分に伝わってございます。

詳しくお話しできず、お気持ちを害されてしまいましたこと、

本当に申し訳ございませんでした」


紫呉は、心痛な面持ちで深々と頭を下げる。


「ほら、めい、もうよろしくて?気が済みましたでしょ。

ちゃんとこちらをお向きなさいな」


まいあに諭され、紫呉を見つめて照れ笑いするめいあ。


「ちゃんと~……ちゃんと謝ってくれれば良かっただけの、

めいちゃんなのでした~」


「めいあ様、ありがとうございます。

それでは、当主様の所へご案内いたします。よろしいでしょうか」


「さぁ、行きますわよ、めい」


「了解、なのでした~」


紫呉の案内で屋敷内の奥へと向かう。

豪華さはないものの、和の趣きあふれる美しい造りになっており、

格式を感じさせるには充分であった。

しかし、誰一人いないその静寂が、かえって不穏さを際立たせていた。


――少し長い渡り廊下を越えると、行き止まりに差し掛かる。

紫呉は立ち止まると、二人へ振り返った。


「紫呉さん?どうかなさいましたの?

なにも……ないようですが?」


「ん?行き止まりだけど……何かあるのかなぁ?」


廊下の行き止まりには何もなく、

まいあは少しいぶかしげに眉をひそめ、

めいあはキョロキョロと周りを見回す。


――紫呉は真剣な様相で話し始めた。


「これより先は機密事項になりますゆえ、

くれぐれも他言無用に願いますが、よろしいでしょうか」


二人は視線を合わせ、軽くうなづく。


「隠し扉?と、言ったところかしら?

問題ございませんわ、紫呉さん、お願いします」


「承知いたしました」


そう言うと、紫呉は行き止まりの壁にある、隠れたボタンを押す。


――すると、ただの壁は下側へ移動し、中からエレベーターの

入口が出現した。


「このエレベーターにて、地下へ参ります。どうぞお入りください」


「……セキュリティ対策は万全といったところですわね」


「うぉおお!めいちゃん!何だか高ぶってきたんですけれどもー!」


エレベーター内に入り、紫呉は階層ボタンを押す。


「え!?……そ、そんなに降りるんですの?」


まいあは階層ボタンを見るや否や目を疑い、

めいあも、通常では見たことのない階層に驚愕する。


「ま、まいちゃん、ち、地下32階って~……何?」


「驚かせてしまいましたね。

この事に関しましても、後ほどご説明申し上げますので」


エレベーターの正面扉は、ガラス製で透明になっており、

過ぎ行く階層の各フロアを確認することができた。

フロアを眺めていると、途中からまるで別世界へと入り込むような、

屋敷とは全く異なったものが目に飛び込み、二人は目を疑う。


「なッ!!!なんですの!!……研究施設?フロアには研究員がいますわ!」


「え?お屋敷は紫呉さん一人で、地下にいっぱい人がいるってこと?」


――エレベーターの向こうに広がるのは、

古い屋敷とは似ても似つかない無機質な白さだった。

白衣の人間が行き交い、数多の機材が稼働している。

二人はガラス越しにそれを見ながら、言葉を失った。


「ま、まいちゃん……多分さぁ、100m位潜ってるんだけどさぁ~

うちら帰れるのかな~」


「しゃきっとしなさいな、めい!だ、大丈夫ですわよ……多分」


「到着いたしました。こちらでございます」


ドアが開き、薄暗い通路をまっすぐ進む。

そこはもう、和の趣などといった世界ではなく、

怪しげな地下研究施設という言葉がぴったりな空間が広がっていた。


――最奥と思しき場所にある扉までたどり着くと、

紫呉がセキュリティカードを通し、青いランプに変わりドアが開いた。


「中へお入りください。当主様がお待ちです」


紫呉に促され、二人は部屋の中に入り周りを見回す。

何やら見たこともない装置が数多く設置されており、

小・中サイズのディスプレイも多数あり、

何らかのコードが映し出されていたが、二人には理解できなかった。

一回りしても彩音斎恩とみられる人物は見受けられない。

奥中央に、大型ディスプレイが何かを映し出ていたので、そこまで移動した。


「ちょ……ちょっと待って!一体なんのコードなのこれ?

大学でもこんなの見たことないんですけど!」


めいあは大学において、世間一般の学問レベルで“天才”と言われ続けてきた。

そんな彼女にとって、異次元の空間に放り込まれた感覚に近く、

すでにかなり狼狽していた。


まいあは、科学技術関連においては、めいあ程ではないので、

何とか自分を保てていた。


「し、紫呉さん?ご当主様はどちらに?」


紫呉は、大型ディスプレイの横に立ち、置いてあったマイクを持ち話しかけた。


「当主様、葵生家のご息女、葵生めいあ様と葵生まいあ様がお越しになりました」


紫呉が話しかけると、大型ディスプレイの映像に走査線が一瞬だけ乱れ、

いきなり彩音斎恩と思われる人物が映し出された。

ディスプレイに映る斎恩は、

まるでこちらの顔を正確に認識しているかのように、わずかに頷く。


「あー、あー……聞こえるかね……。

このような所にわざわざ来てもらってすまない。

めいあ君とまいあ君だね。

小さい頃に会ったことがあるんだが、覚えていないだろうな。

私が彩音家当主、彩音斎恩だ」――

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


――地下32階。

予想だにしなかった状況が、姉二人を待ち受ける。


次回――「深淵に触れし双姫」


毎週火曜日:19時に投稿中。

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