表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百ニャン一首 ―まこと継ぎし猫たち―  作者: くろのぼっち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/31

第二章 第七話:剣呑への誘い

――小鳥の声が響き、朝もやも晴れぬ早朝、

ひときわ威勢のいい声が、ある一角よりこだましている。


「せいッ!」「やぁー!」「ふんッ」


それを横目に、意気揚々と朝の日課をこなしている女性がいた。


「ふふ~ん♪みんな朝から元気にやってるわね~

よ~し!!!ママも負けてられないわよ~!!お洗濯、お洗濯ッとぉ~」


『ピンポ~ン』


「あら?あらあら……こんな朝早くから誰かしら~、は~い!今行きますね~!」


『ガチャ』


「は~い!どちらさ……まッ!?!?!!!」


ドアの前には、城蘭学園の制服を着た、彩音リンが佇んでいた……。


「きゃ~!!!な、何?何なの?天使?天使ちゃんなのね!

はッ!ま、さ、か……うちに4人目の!」


早朝からテンションMAXな神楽坂ママに圧倒され、

顔を赤らめ、もじもじしているリンだった。


「あの……あの、か、神楽坂……燈はおるか……のう」


「あらやだ!え?……燈のお友達ちゃん?

え?ど~しましょ!ちょ、ちょっと!ま、待っててね!

燈ちゃ~ん!お姉~ちゃん!天使のお友達ちゃんが来てるわよ~!」


燈は急遽、稽古を切り上げ玄関に駆けつける。

すると……既に母親がリンにちょっかいを出し始めており、

されるがままな状態であった。


「なッ!!!ストッ~プ!!ちょっと母さん!可愛い後輩に何してんのよ!

抱き着くの止めい!……ごめんね~怖かったでしょ?」


「あ、燈ちゃん!て、天使ちゃんよ!うちの4人目の……」


心遥ママの目は若干血走っており、心の内が漏れ出ていた。


「……母さん(怒)……GOハウス!!!」


燈は家の中を指さし、母を睨みつける。


「はっ!そ、そうよね~、ママ勘違いしちゃった!てへッ。

どうぞ中に入って二人でお話してね~」


「てへッ……じゃねぇわ!……まったくもう。

リンちゃんだよね?とりあえず中入ろうか?」


リンは首を振り、中に入ろうとする燈の袖を引き留めながら、

必殺の上目づかいで、燈を見上げる。


「い、いいのじゃ、今日は“お誘い”に来ただけじゃ」


「え?……!?ななな!なんて破壊力!

そんな可愛いおめめで直視しないで~……ん?お誘い?あたしに?」


リンはモジモジしながら言いにくそうにしている。


「み、みことちゃんの気持ちがわかるわ~!」


燈はしゃがみ込み、リンの頭を撫で始める。


「大丈夫、落ち着いて、ゆっくりでいいから、お誘いってなあに?」


「う、うむ。……今日の放課後、学園裏の広場に来てほしい……のじゃ」


その声音はいつものおどおどした響きとはどこか違っていた。

頼みごとをしているというより、何かに追い立てられているような切迫が、

わずかに滲んでいた。


「えッ?……そ、それって……なんなのかな?」


「つ、伝えたのじゃ。……ではのう」


リンはそう言うと燈に一礼して、

家の前に止めてあった送迎車に乗り込み、走り去って行った。

あまりの予想外な出来事に、茫然としてしまう燈……。


リンと交わした言葉はまだ多くない。

それでも、早朝という時間帯、少しだけ切迫感のあった口調、

どれもが不安を掻き立てるに足るものであった。

そんな神妙な状況を、一撃で破壊してくる存在がいた。


「きゃ~!!!燈ちゃん!!!

い、今のは!?今のは『告白』なんじゃないのーー!」


やはり聞き耳を立てていて、ここぞとばかりに出張ってくる母。

顔を赤らめ、心ここにあらずな燈の両肩に手を当て、

グラグラ揺すり始める。


「燈ちゃん!!!天使ちゃんをぜ~ッたいゲットするのよッ!!!

ママも応援に行くからね!ねッ!!」


母の不穏な言葉で、一気に冷める燈。

――燈は知っているのだ。

こういった状況での、心遥の尋常ならざる行動力を。

そして……一度走り出してしまうと、制御するのは難しい。

燈の思考は一気に整理された。


「ちょっとまったぁーー!!そんなわけないでしょうがーー!!

ってか、絶対に来るなッ!!!

父さんに言って、縄で縛りつけておいてもらうわ!」


実力行使も辞さない覚悟で、止めに入る燈。


「燈ちゃんひどい!“ママとの約束”もう忘れたの?

パパ~!パパ~!燈ちゃんがひどいの~」


再び、嵐は去って行った……。


燈は落ち着きを取り戻すも、先ほどのリンからの誘いに、

心に引っかかるものを感じていた。


(……何だろ?この胸騒ぎは。

あんな可愛い子に誘われたのに、全然うれしく感じない?

一体なんだっていうのよ……)


心の中の雑音が、確実に増していく事に不安を感じ始めていたその時。


――《ソナ……ナサイ》


「ッ!!!……え?」


燈は一瞬、誰かに見透かされたような気がして、周りを見渡した。

耳元で囁かれたような、頭の奥に直接落ちてきたような、

不気味に曖昧な声だった。

反射的に息を呑み、胸の奥がひやりと冷えるのを感じた。


「白い影?……」


幻覚のような、実際にいたような、そして……どこかで見たような。


「いけないッ!まだ稽古の途中だった。気合、入れ直さなくっちゃ」


何かに飲まれそうになる自分に気づき、

喝を入れるため、ふたたび稽古に戻るのであった。


――稽古で喝を入れ直したものの、

学園に来ても、いまいちモヤが晴れない。

午前中の授業も上の空になってしまい、そのまま午後の部活に向かった。


「おっす!!!燈!……何だ?何か湿気た面してんじゃねぇか?」


「あ、閃花か……」


「おいおいおい!何か珍しく、しおらしいじゃねぇかよ。

な、何かあったのかよ?」


時が経つにつれて、心のモヤが気になるというだけでなく、

気力がなくなっていく燈。

閃花が盛り上げようとするが、失敗に終わる。


「よし!そんな湿気た面してんなら、俺と一発!熱い勝負といこうぜ!」


「……んーー今日は止めとく、また今度」


「……ッ!」


閃花の知っている燈は、落ち込んでいたとしても“口だけは”明るく達者で、

言葉数が少なくなるという事は、今まで一度もなかった。


(ちッ!……生気のねぇ眼しやがって!

まッ、今日はしょうがねぇ、めったにあるもんじゃねえし、逆にレアだな!

……ッたく、帰りにたい焼きでも食わせてやるかぁ、少しは元気出んだろ……)


一方、同じ部室でみこととリンが、対戦しようとしていた。


「さぁ!リン。もう一度、確認していきますわよ」


「う、うむ」


リンは競技かるた自体は初めてであるが、

何と初日の説明から約20分程度で、

100首の上の句、下の句、全てを暗記してしまった。


しかし、競技かるたをやる上で、致命的なある事が露呈された。

“目”では反応しているみたいだが、“手”が出てこないのだ。

見学から1週間がたち、みことは手取り足取り教えており、

リンがどのような反応をしているか、

『XXCIA』を駆使して、ありとあらゆる解析をしていた。


――その結果

毎戦変わる自陣、敵陣の札配置は、記憶時間15分で全て把握できている。

リンは読手の声が聞こえると、必ず先に視線を送る。

そしてその“目”で実際の札を認識する速度は、

常人よりも異常に早い事がわかった。

おそらく、『札に視線を合わせるだけ』であれば、

燈ですら勝てない可能性が高い。

しかし、いつもその3秒後に“手”が出てくるため……

みことを悩ませていた。


――悪戦苦闘し続け、気が付くと下校時間になり、

みこととリンは、一足先に部室を後にした。


「リン、今日の成果は自陣の札を払う時間が、約0.12秒短縮できましたわ!

ま、まぁまだ3秒を切れませんが……大丈夫ですわよ!

これからもわたくしが、みっちり付き合って差し上げますから!

さぁ一緒に校門までいきましょ!」


みことは意気揚々リンを誘うが……


「みこと、今日はこれから行かなければいけない所があるのじゃ。

なので、ここでバイバイなのじゃ」


「ッ!!!え?」


リンはそう言うと、学園の裏手の方へ歩いて行ってしまった。

みことはあまりの予想外な反応に、立ちすくんでしまう。


「ど、どうしたんですの、いきなり……そ、そちらに何かありまして?

確かめなければッ!!」


――競技かるた部、部室


「おい!燈!もう終わんだろ?ちょっと帰り、付き合えや!」


「……あぁ、ごめん。寄るとこあるから、先に帰るわね」


相変わらず気が抜けた状態でいる燈は、

閃花の誘いを断り、早々に退室して行った。


「なんだ……あいつ。家で何かあったか?

せっかく、この閃花様がたい焼きでも奢ってやろうと……

ん?……彩音か?……どこ行こうとしてんだあいつ。

向こうに何かあったか?」


閃花は窓際から、リンが一人で校門とは逆方向に向かっているのを確認した。


「いつもの“うるせぇ相棒”がいないようだが……どうした?」


――城蘭学園裏の空き地


すでに夕日が差し込み、

人気のない空き地に吹き抜ける風が、妙に冷たく感じられた。


燈はリンに指示された通りの場所に着くと、

そこには既にリン一人が待っていた。


「リンちゃん?……言われた通り来たわよ?一体こんなところでどうしたの?」


「先輩……凌いでください」――

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


まさかのリンに呼び出された燈。

誰もいない空き地に、ただ一人佇む彩音リン。

不穏な気配は増していく――。


次回――「凌ぎの結界」


毎週火曜日:19時に投稿中。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ