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百ニャン一首 ―まこと継ぎし猫たち―  作者: くろのぼっち


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第二章 第一話:届かぬ善意

しのぶれど いろにいでにけり わがこひは

ものやおもふと ひとのとふまで


――入学式から一週間がたった。


朝の恒例となっていた、校門前でのリンとの待ち合わせ。

今日は意図的に、先に到着して車で待機するみこと。

昨晩の、葵生家当主・葵生総鳴あおいそうめい

とのやり取りを思い返していた。


『コンコンコン……』


「お父様、いきなり申し訳ございません。

お話したいことがあるのですが、よろしいでしょうか」


父の書斎を訪ねるその瞳は、堅い決意に満ちていた。


「みことか?……入りなさい」


既に23時を過ぎているというのに、

端末を前に淡々と仕事をこなす姿は、当主としての風格を漂わせていた。


「なんだ?こんな夜中に、学園生活で何かあったか?」


仕事の手を止め、みことに向き合う父。


「はい、そのことで少々お伺いしたくて参りました。

実は彩音家息女、彩音リンについてお話したいことがありますの」


「……ふむ」


父は視線をそらし、何かを確信したかのように立ち上がり、

背を向け窓の外を眺める。


「お父様だったのですね……偶然を装って、

あの子をわたくしに近づけたのは」


みことには違和感があった。

リンの言動や様子の変化に囚われず俯瞰してみると、

入学式当日の朝、財閥の娘同士であるにもかかわらず、

自分にはリンの存在を知らされておらず、

その場でいきなり“派手”に紹介されたこと。

そしてそのまま同じクラスになり、

座席も隣同士になるという、傍から見れば出来過ぎている。


「そのことについて、どうこう申し上げるつもりはありません。

そしてあの子についても……お父様に伺うこともいたしませんわ」


父は振り返り、みことの目を見つめた。

感情的にならないよう、あくまで冷静に話を進めるみこと。


「ただ……あの子を任された者として、

あのような不可思議なこと、黙って見過ごすなど、

わたくしには絶対にできませんわ!

明日にでも、わたくし自ら“あの執事”に問いただしたく考えております。

そのことを、ご了承していただきたく参りました」


父は暖かな表情でニコリと笑った。


「ふふ……なかなかいい状況判断だ、みこと。

そのことについて、私から何か言う事はないが、

……その道が、姉たちとは全く違う成長を、

もたらしてくれることだけは、断言しておこう。

お前の気のすむ道を進みなさい」


――時間は戻り、みことが待機中の車内。


(お父様は、あのような事を仰っていましたが、

リンの内情を勝手に詮索してもいいものか……。

葛藤……ですわね)


「みこと様、リン様がお見えになりました」


「そう……爺、一つ頼めるかしら……」


そう言うと、みことは何やら側仕えの爺に頼みごとをして、

リンと登校すべく、車を降りた。

そしていつもと変わりなく、手をつないで登校していくのであった。

爺はみことを見送った後、ばあやに話しかける。


「少々よろしいですかな?みこと様からの伝言でございます。

本日の夕刻、リン様に関しまして、お聞きしたい事がございますので、

ご訪問させていただきたいとの事でございます」


ばあやは、それを聞くと逆に質問で返した。


「……総鳴様はこの事をご存じでしょうか?」


「はい、当主様からのご了承はいただいております」


ばあやは、ほんの少しだけ“口元を緩め”、


「では、何も問題ございません。

本日、18時でよろしいでしょうか。お待ちしております」


そう告げると、一礼して車に乗り込んだ。

ばあやを見送る爺は、不安を感じながらも、

どこか心の中で、誇りを噛みしめていた。


(みこと様……その推眼、感服いたしました。

この爺、命果てるまで、お仕えさせていただく所存ですぞ!)


……その頃、みことは相変わらずリンの可愛さにデレが収まらず、

締まりのない顔で笑っているのであった。


――時は進み、18:00、彩音家


案内されたのは“母屋”ではなく“離れ”であったので、

正門より入り、車で敷地内を移動する。

和風の庭園が美しく広がり、派手さはないものの、

風流で趣があり、歴史を感じさせる。


「ここで……リンが暮らしているのね……

はッ!!もしかして、プライベートではお着物姿で過ごしてらっしゃるとか!」


瞬時に想像してしまい、ニヤケが止まらなくなるみこと。

ほどなくして、古めかしい木造の門前にて停車し、

みことは車を降り、そこからは一人で向かった。

玄関前には“ばあや”が立っており、みことを出迎えた。


「お待ちしておりました、みこと様。どうぞ中へお入りください」


案内されたのは、中庭を望むことができる客間であった。


――鹿威しの音が鳴り響く……。


みことが椅子に腰を落とすと、


「粗茶でございます」


客人を待たせることなく、もてなすばあや。

みことが一息ついたのを見計らい、ばあやが口を開いた。


「わざわざご足労いただきありがとうございます。

まことに申し訳ございませんが、現在リン様はお取り込み中でございますので、

みこと様へよろしくお伝えするようにとの、伝言を承っております」


頭を深々と下げるばあや。

みことは眉一つ動かさず、全て想定内と言った態度で話を進めた。


「ちょうどよろしいですわ。

 “紫呉”……さん、あなたに直接聞かせていただきます」


「……私でよろしければ、何なりと」


みことは一度、大きな深呼吸をしたのち、話し始めた。


「わたくしとリンを引き合わせたのは、

あなた……いえ、葵生家と彩音家の指示によるもの。

そして同じクラス、さらに担任を使って席まで隣同士にするという工作。

全てあなたの仕業……ではないかしら。違いまして?」


「さすがのご慧眼……感服いたします。……はい、全て事実でございます」


みことに一礼し、そのまま話を続ける紫呉。


「当家主より、リン様の素行がご心配な旨を受け、

同じ時期に学園にご入学されるみこと様と、ご一緒させていただけないかと、

総鳴様にご連絡させていただいた次第になります。

また総鳴様からは、みこと様の城蘭学園入学の条件として、

担任を国府田様にとの旨を賜り、

私がまとめ、学園理事長に申し出いたしました。

ご不快に感じられましたら、心より謝罪申し上げます」


紫呉は深々と頭を下げた。


(お父様?……そんな条件を……いえ、今は置きましょう)


自身の条件以外は想定内の話。

みことは何事もなかったように振る舞い、

問い質したいと思っている、核心部分へと切り込む。


「その事について謝罪は必要ありませんわ。

新たな環境で戸惑うのもわたくしとて同じ、

感謝こそすれ責めることなどいたしません」


背筋を伸ばし、真っすぐ紫呉の目を見て話をするみこと。

純粋で凛とした気迫に当てられた紫呉は、

自分自身が気が付かずに、やさしく微笑んでいた。


「それとは別に、リン……、あの子は一体何なんですの?

突然、魂が抜けたように虚ろになったり、言葉遣いが変わってしまったり。

そして、妙に好物への執着が激しい……。

そう……幼子が駄々をこねるような感じで。

わたくしにとって、既にリンはかけがえのない存在なのです。

このような状況を放っておくことなど、わたくしにはできません。

……一体、あの子の身に何があるというのです!」


みことは、冷静に振る舞うと心に決めていたが、

リンへの想いが溢れ出るばかりに、

言葉が進むにつれ感情的になってしまい、

思わず紫呉に全てをぶちまけてしまった。


微笑んでいた紫呉は表情を一変し、

無……いや、“冷徹”な表情へと変わり、“異様な気配”を漂わせ始めた。


――その変容に、みことは一気に萎縮してしまう。


「リン様におかれましては、こちらから申し上げることは何もございません。

わざわざお越しくださいましたのに、

何のおもてなしも出来ず、大変申し訳ございませんが、

これ以上のお答えは差し控えさせていただきますので、ご了承くださいませ」


紫呉はそう言うと、出口に向け案内を始めた。


「お出口までご案内申し上げます。本日はありがとうございました」


――圧倒的な気配の暴力。

お嬢さまが生まれて初めて感じた“本物”は、あまりにも刺激が強すぎた。

みことは震えが止まらず、立つこともままならなかった。

しかし、これ以上の進展は望めないと、何とか体を奮い立たせた。


屋敷から出ると、爺が迎えに立っていたが、

みことの変わり果てた様子を見た途端、慌てふためき駆け寄る。


「みこと様!いかがなされましたか!

……紫呉殿!これは……一体、どういう事でありますかな?」


いつも温和な爺の表情が一変し、鋭い視線で紫呉を睨み付ける。


紫呉「……」


「爺……良いのです。帰りますわよ」


一触即発になりかけるも、みことが爺をなだめ、車へ向かう。


「み、みこと様……」


ふらつくみことを支え、何とか溜飲を下げた爺。


送迎車へ乗り込もうとした瞬間、みことは急に振り返り、

紫呉に向かって一言伝えた。


「紫呉さん……わたくし、あきらめませんから、そのおつもりで!」


何とかふり絞った末の一言……だった。

そのまま送迎車は彩音家を後にした。


――みことを乗せた車を見送る紫呉。


すると、何処からともなく声が聞こえてくる……


「ちょっと冷たすぎたんじゃないの?

あの子……割と“適応”あるわよ。

“妹”も結構なついてるし、嫌いじゃないんだけどね~」


「そう……ですか。だとしても、基準値に至らず、要観察に変更ありません。

そろそろ頃合いかもしれません。……“適応者の試し”、始めましょうか……」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


単身、彩音家へ突撃するも返り討ちにあい、傷心するみこと。

そんなみことに“超”強力な援軍が……。


次回――「めいあとまいあ」


第二章開始より、週一投稿とさせていただきます。

毎週火曜日:19時になりますので、

ご了承くださいませ。

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