第一章 第九話:いざ!決戦!
「ねえねえ……なんか燈、朝から様子がおかしくない?」
「一時限目の休憩が終わってから、ず~っと瞑想してんだけど?」
「寝てんじゃね?」
「いや、何か急に手が動く時があるぞ」(ヒソヒソ……)
燈は授業も上の空で、
午後からの部活オリエンテーションでの閃花との対戦を前に、
脳内シミュレーションを繰り返していた。
――燈が城蘭学園入学時、本人としては、“剣道部”か、
個人修練として“居合術”を希望していた。
しかし父・定宗の勧めで、学園生活では見聞を広げる意味でも、
剣とは違うジャンルを選択するという約束をした。
壁にぶち当たった時、必ずその経験が助けになるとの説得を受け、
考え抜いた末に選んだのは、
本家の年下の従妹“神楽坂ひろみ”と子供の頃から親しんでいた、
“競技かるた”だった。
精神統一、判断力、記憶力、洞察力、俊敏性、戦術・戦略、
特に「静」から「動」への刹那を感じる感覚が、
居合術と似ていて、心地よく感じていた。
ちなみに、城蘭学園の競技かるた部は、全国大会の常連で強豪校である。
二年生になった燈は今年、大会レギュラーの座は確定という位置につけており、
次期主将候補と呼ばれるほどの実力を持っている。
対して閃花と言えば、今年の正月、神楽坂家に遊びに行った際に、
燈とひろみの対戦を見たのだが、
対戦前は、「かるたぁ~?んなガキの遊びやんのかよ~。まっ正月だしなぁ~」
と、なめ切った態度を見せていたが、
対戦が始まるや否や、二人の鬼気迫るオーラと、
札を取り合う凄まじい攻防を見せつけられ、
野生本能スキル『強ぇ奴にゃあ血が滾る』が発動!
それにより、理性が吹き飛び、自我が崩壊寸前にまで追い込まれてしまう。
「うぉーッ!!!やべぇ~……かるたやべぇーッ!!俺も!俺もやる!」
……ということで、休み明けにすぐに入部してきたのだった。
競技かるたの経験はまだ三か月弱とあって、燈との差は歴然である。
だが、閃花には人智及ばぬ“何か”があることを肌で感じてきた燈は、
油断なく、最大限に警戒し、準備を怠らないのであった。
――「キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン」
「……では、日直」「はい、起立……礼」
昼休みに突入した直後、いつもであれば周りの友人を誘い、
昼食を食べるために場所を移動する。
しかし今日の燈は、いきなり机の上にお弁当を広げ、ガツガツ食べ始めたのだ。
これには友人たちもあっけにとられ……
「だめだ!今日はそっとしとこう!」
「ま……まじか」
「あ~こうなった燈は……もう止まんないね~」
食べながらも何やらブツブツ言葉を発し、また食べる……。
周りを一切気にする様子もなく、五分もかからず完食してしまう。
「うおッしゃーッ!!!気合入ってきたわよ~!!」
教室で昼食を食べている数名の生徒は、急な叫び声に唖然としてしまう。
だが燈は全く気にせずに、部室へ走り去っていくのであった……。
――「失礼しまぁ~すッ!!」(ガラガラ~)
気合十分な燈は、部室の扉を勢いよく開け、挨拶した。
中では樫木部長と数名の部員が昼食をとっていた。
「ッ!!!……か、神楽坂君?早いね~。
い、いきなり開けるからびっくりしたよ」
「あ!すいません!ちょ~っと気合が入っちゃって~。
あっ、部長!今日は最初に東雲と対戦してもいいですか?
今日こそは奴の性根を叩き直しますんで!!!」
ガッツポーズする燈の並々ならぬ気迫に部長はたじろぐ。
「は?……あははは……な、なにを言ってるんだい……
……ぜひッ!!是非とも頼むよ~、もう君しかいないんだよ~
あの子とまともに対戦できるのはー!!!
こ、これは部長命令です!
とにかくコテンパンにやっちゃってください!
これは部の存続にかかわる、最重要試合です!」
すがるような、悲痛な叫びで燈に懇願する樫木部長。
燈はちょっと引きつつも、自信満々の笑みを浮かべ、
「了解ですッ!!!ま~かせてくださいッ!」
そう言うと燈は札を取り、早速並べ始め、練習を開始した。
そして数分後、閃花も意識してか、いつもよりかなり早めに部室に現れた。
「ちぃ~ッす!」
閃花が部室に入ると、樫木部長の顔が引きつった。
「お、おはよう東雲君。き、今日は早いじゃないか。
まだみんな来てないから、“静かに”練習しててね」
「あぁ~ん?……なんか引っかかる言い方しやがんなぁ……」
「ひッ!……ま、まぁ、よろしくたのむよ」
閃花は周りを眺め、燈が既に自主練していることに気づく。
「はッ!燈!やってんなぁ~!今日こそお前を倒してやるぜッ!!!」
閃花はまだ、競技かるたを始めて三か月弱である。
未だ全ての句を覚えたわけではない。
しかし、今現在の彼女の持ち味である、
天性の決断力と反応速度を最大限に活かすため、
シンプルで効果的な策を独自に編み出していた。
すなわち、“一字決まり”“二字決まり”に全振り、
“三字決まり”は半分程度で、四字決まり以降は全無視。
といった彼女らしい大胆な作戦で、
燈以外との対戦では、勝率二割程度は叩き出していた。
(ただし、この二割というのは拳で取るなど、
威圧で相手をビビらせての勝利である。……実は数名、病院送りにしている)
また、取られにくくする配置などの戦術面は、まったく考えていない。
本人曰く「守りは性に合わねえ」という理由で、
攻め“だけ”に超特化した戦法である。
相手より先に取る=優越感に浸れるという安直な理由だけで、
競技かるたを続けられている。
閃花が挑発するも、燈は意に介さずというより、
存在自体に気づいていないほど集中しており、
まるで大会決勝前のような様子であった。
燈「…………」
無言の様子がかえって閃花の闘志を掻き立てる。
「いいねぇ……こっちもウォーミングアップするか」
――「キーンコーンカーンコーン」
チャイムが鳴り、かるた部の部員が続々と部室に入ってくると、
樫木が部長らしく説明を始める。
「オッホン!……はい注目~!今日は新入生の部活オリエンテーションです。
途中から新入生が見学に来るかもしれないので、そのつもりでいてください。
また各自、終了後にリクエストがあれば、新入生への対応をお願いします。
それでは、対戦表を見て各自準備を始めてください」
説明が終わると、部員がそれぞれの配置に散らばる。
対戦は予定通り燈VS閃花となり、二人は対面して準備を始める。
「よう燈ぃ~、めっちゃ気合入ってんじゃねぇ~かよ。
そんなに俺に負けるのが嫌か?
来週一週間、朝めしのパン、何にすっかなぁ~……」
燈「…………」
燈は何の返答もせず、黙々と準備を始めるが、
今までの対戦とは全く違う雰囲気に、
閃花の“野生の勘”も、少々想定外だと訴えてきている。
(へぇ……こりゃこっちも、相応の本気を出す必要がありそうだなぁ)
閃花の札の配置は、“相手からの視点”を全く考えておらず、
単に自分がわかりやすく取りやすいように、
右側に一字決まり、左側に二字決まり、
憶えている三字決まりは中央手前、その他は中央前方に配置している。
自分が苦手な、もしくは憶えていない札は、
勝手に取っていけとの意思表示である。
閃花の場合、自分にとって取りやすい配置は、相手にとっても狙いやすい、
という小難しい駆け引きまでは、考えに至っていないだけであった。
「十五分間の暗記時間に入ります」
閃花は相手陣の配置を確認し、暗記し始める。
燈の様子に変化がないことに気が付き、ふと顔を見上げると、
目をつむったまま、微動だにしていなかった。
前述のとおり、閃花の札配置はいつも同じ傾向で、
確認する必要があまりないのだ。
しかし、閃花はそれに気づいていないので、勝手な誤解を脳内再生していた。
(ほぅ……俺程度が相手じゃ、確認すら必要ねぇ~ッてか!
上等だぁ~!!!その舐め腐った態度!後悔させてやらぁ~!!!)
野生本能スキル『なめられたら三倍返し!』が発動!
勝手にいろいろ自己完結した上で、攻撃力アップらしきバフがかかった。
――その時、全員が集中していて誰も気づいていないが、
新入生の二人組が部室に入ってきていた。
「それでは始めます」
相手に礼。そして読手に礼。――開始となる。
読手は樫木部長である。
「難波津に 咲くやこの花 冬ごもり いまを春べと 咲くやこの花」
序歌が読み上げられ、それぞれが体勢を整えていく。
燈は静かに目を開き、構えはじめる。
一瞬、静まりかえる部室。
樫木部長が札を手に取り、上の句を読み始めた。
「むらさめの つゆもまだひぬ まきのはに」
最初の一音が発せられたその刹那、
閃花の野生本能スキル『一点突破』が発動!
『どォーン!!!!』
一切の防御を捨て“渾身”の一撃を叩き込む――
とても競技かるたをしているとは思えないほどの“爆音”が部室内に鳴り響いた。
「うぉッしゃ~~!!!」
閃花は立ち上がり、勝ち誇るようにガッツポーズをした。
そしてその“爆音”が運命の合図の如く、
別の二人を引き寄せ、交わらせ、未来を動かそうとしていた――
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
次回――「尊き燈 凛なる花ぞ 果てにつぐ」
次のお話で第一章は終了となります。
とっくにお気づきの方もおられると思いますが、
ええ、その通りでございます。
使いまわし?……違います。
スルメは味わってこそなんぼなのです。
毎週、火・金曜日の19時に投稿していきます。




