お節介なお友達
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おにいちゃんへ。
げんきですか。
ちなはげんきです。
こんど、ちなにもあたらしいおとうさんとおかあさんができました。
おかあさんになるひとはせがちっちゃくて、ちょっとふとってて、げんきであかるいおんなのひとです。
おとうさんになるひともせがちっちゃくて、おかあさんとはぎゃくに、ほそくてにこにこしててやさしそうなひとです。
きょう、ふたりとしせつのみんなでおにごっこをしました。
あたらしいおとうさんはじゃんけんがよわくて、ずっとおにでした。
あたらしいおかあさんはあしがはやくて、すぐみんなつかまりました。
すごくたのしかったです。
あたらしいおうちは、おにわはせまいけどちかくにおおきなこうえんがあるそうです。
おひっこししたら、おやすみのひはいつもそこであそうぼうね、ってあたらしいおかあさんとやくそくしました。
あたらしいおとうさんとおかあさんはとってもやさしいです。
しせつのみんなとわかれるのはさびしいけど、ちなはふたりとかぞくになれて、うれしいです。
おにいちゃん、おにいちゃんのあたらしいおとうさんとおかあさんはどんなひとですか。
いつかあいたいです。
おおきくなったら、おにいちゃんのあたらしいおとうさんとおかあさん、ちなのあたらしいおかあさんとおとうさん、みんなでおおきないえにいっしょにすみたいです。
それまでげんきでいてね。
しあわせでいてね。
おにいちゃんがいないいえはやっぱりさびしいけど、ちなはもうだいじょうぶです。
おにいちゃんはやさしいから、きっとちなのことしんぱいしてくれてたよね。
はやくだいじょうぶだよ、っていいたかったけど、おそくなってごめんね。
おにいちゃん、ずっとだいすきだよ。
いつかきっと、またあおうね。
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新月堂店内は、つい二日前までの喧騒など嘘のように、穏やかな時間が流れていた。
「……この前は有難うねぇ、新月堂さん。お届けの仕事じゃないのにわざわざ」
「いえ、依頼のない時は暇なので」
白髪も皺も随分深くなった女性が、温かい緑茶を片手に今日幾度目かの御礼の言葉を口にする。
傍らには杖も立て掛けられている。
相変わらず、元探偵という肩書と桃馬自身の人柄に惹かれて、本業の依頼人以外の人間がちょくちょくやって来る。
この老婦人とは、一年前、彼女が店先で転んだ場面に出くわしのが始まりだった。
その頃から杖を突いて歩いていたが、買い物帰りに躓いてしまったらしい。
足を挫いてしまって、そのまま桃馬が病院まで連れて行き、ついでに家まで送り届けた。
夫に先立たれて独り静かに暮らす彼女は、それ以来、時々こうして店を訪ねて来ては、差し入れを持って来てくれたり、互いに話し相手になったり、はたまた老婦人からのちょっとした頼み事を引き受けてあげたり、友人関係のような間柄が成立している。
ちなみに、先程彼女が言った“この前”というのは、智菜と出逢う二日前の事である。
桃馬のスマホに電話が掛かって来て、家の電球が一つ切れてしまったので取り替えて貰えないか、と相談されて、二つ返事で了承して彼女の家にお邪魔した。
「ところで、ねえ、東雲さん」
「はい?」
「東雲さんは、お付き合いしてらっしゃる方とか居ないの?」
「……へ?」
言って、彼女はスマホを取り出して画面を操作し、桃馬の目の前に身を乗り出すようにして見せる。
「知り合いのお嬢さんなんだけどね、如何かしら?」
「い、如何って……?」
「名前は美夜さんと仰って、歳は二十五歳。病院で受付事務をやってらっしゃる方なんだけど」
「いや、あの、ちょっと待って下さい」
何だか今日はいつにも増してうきうきしているなぁ、とは思ったが、こういう事か。
畳み掛けるように捲し立てる彼女を、桃馬は困ったような笑みを浮かべながら両手を上げて宥めた。
「可愛らしいお嬢さんだとは思いますけど、突然どうしたんですか? この方が何か?」
「何って、お見合いよお見合い。東雲さんも良いお年頃でしょう?」
確かに“良いお年頃”ではあるが、そんな唐突に見合いをと言われても。
「あー……でも俺、もうすぐ三十ですし」
「何言ってるの。そんなに差はないじゃない。寧ろ今は、それくらいが適齢期なんでしょ?」
「いやしかし、こんなあまり繁盛しない店を、個人経営でやってる男で、貯金もあまりないし、結婚相手としては些か頼りないというか、何の保証もないというか」
自分で言っててちょっと悲しくなったが、現実的な経営状態としては、まあ、お世辞にも裕福とは言えない状況には違いないので、恥を承知でそう言う。
しかし老婦人は引き下がらない。
「こんな世の中だもの。お金の事で多少苦労するのは仕方ないわ。寧ろ、だったら尚更身を固めて互いに補い合って助け合うパートナーが必要だと思うの!」
益々身を乗り出す彼女に、桃馬は一瞬思わず怯んだ。
杖を突いて日々を静かに暮らす穏やかな老人、というイメージは何処へやら。
世間話をする時以上に生き生きしている。
眼光は半ば必死さを通り越して鬼気迫るものさえあった。
その知り合いとやらとどんな繋がりがあるのかは知らないが、余程縁の深い相手なのか……はたまた、単に若い男女を世話する事に一種の楽しみと活力みたいなものを見出しているのか。
彼女の言っていることも一理あるとは思う、けれど。
「――折角ですが、俺にはそんな気はありませんので……お受け出来ません。すみません」
「どうして? 良い話だと思うのに……。やっぱり、お付き合いしてる方がいらっしゃるの?」
どうにも諦め切れないのか、彼女は尚も食い下がる。
心底残念な表情と声音を前に、内心申し訳なさを感じない訳ではなかったけれど。
――桃馬は、彼女の言葉に、何だかとても淋しそうな小さな笑みを浮かべて。
「……いえ。そういう人は居ません」
そう、答えた。
「……でも、俺の心は、ずっと……――」
目を伏せて、口の中だけで呟いた言葉は、彼女の耳には届かなかった。
そんな桃馬を見つめて、それでも尚も老婦人が口を開き掛けた、その時。
不意に、店のドアが開かれ、釣鐘の音が室内に響いた。
静かな店内に突如響いた音は、小さくても二人を驚かせるには十分だった。
僅かに肩をびくりとさせたものの、桃馬はいつものスマイルを装備して立ち上がる。
「いらっしゃいま……」
だが、言い掛けた歓迎の言葉は残り一文字のところで喉元で止まる。
来店した客は、二日前の深夜会ったばかりの……手紙の受取人だった。




