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異世界召喚された直後に求婚されました  作者: 時継
番外編

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目からビームのドラゴン 2

かつて、黒ヒョウの毛皮が貴族の間で大流行し、野生の黒ヒョウが乱獲されていた時代があった。


大陸の南東にある森で暮らしていた黒ヒョウたちもその標的となり、最後に残ったのは若いオス1頭だけ。

そのオスの黒ヒョウは、捕まりそうになるたびに激しく抵抗して体中に傷を負っていたため、毛皮にする価値がないという人間たちの判断で、瀕死の状態で捨て置かれていた。


そこを偶然通りかかった魔女は、何の気まぐれかその黒ヒョウを助け、大きな姿のままでは暮らしにくいだろうからと、魔法で黒ヒョウを黒猫の姿に変えた。

そして魔女は、その黒猫にシャールという名前を与えて主従関係を結んだ。


魔女と黒猫は、住まいを転々としながら長い年月をともに暮らしていたが、ルデルリー王国で暮らしていたある日『ローリンエッジ王国の王子が留学中』という噂を耳にしてしまった。

ローリンエッジ王国といえば、かつて魔女たちを迫害した国で、王子ということは、その憎き首謀者の子孫だ。

魔女はそのことを黒猫に語って聞かせた。

「どうしてそんなに詳しいのかって?だってわたしは、あの魔女の森の火災から逃げ延びた魔女のひとり、張本人なんだから」


魔女と黒猫は、試しにその留学中の王子の様子を見物しにルデルリーの王都を訪れ、その顔を見た魔女は

「お姉さまを守ることすらできなかったあのバカ王子に面影が似てるじゃないか……復讐してやる」

と、握りこぶしを震わせながらつぶやいた――。



「あとは、あんたも知っての通り、プリシラの復讐は失敗して王子さまは助かったってわけだな」

シャールはあっけらかんと言った。

「あのとき、オレは間もなく黒ヒョウに戻ってプリシラを追いかけて死ぬはずだったのに、お節介なあんたと契約を結びなおしたから、今も黒猫のままこうして生きているんだ」


「シャールぅぅ!わたしと契約してくれてありがとう。大好きよ」

思わずシャールをぎゅーっと抱きしめると

「やめろっ!苦しい!」

と言ってジタバタ暴れて、わたしの腕からすり抜けた。


そして、ベッドの上であらたまっておすわりすると、琥珀の目でじーっとわたしを見ながら真面目な声でこう言ったのだ。

「あのな、もしかしてプリシラに対して『自分だけ幸せになっていいのか』とかいう後ろめたさがあったりするんじゃないのか?」


「………」

わたしは黙ったままコクコク頷く。


エリオットの婚約と結婚式の日取りが正式に決まった後、わたしたちは再び魔女の森を訪れた。

集落跡の、大きな木の根元に置いたプリシラの灰を入れた木箱の周りにだけ、たくさんの花が咲いていて、わたしたちはまたそこに赤いバラの花束を置いて、この国の魔女の迫害政策がなくなったことと、わたしとエリオットの婚約を報告したのだ。


あの森を訪れるたびに複雑な気持ちになって泣きそうになる。

ありがとう、ごめんなさい、見守っていてね、もっと頑張るから……。


「『自分だけ幸せに』なんてプリシラに対して失礼だからな。それに、大きな勘違いだってこと、覚えておけよな」

魔女の森に思いを馳せていた心が引き戻された。

「え?勘違いって?」


「プリシラは300年間ずっと復讐だけを考えて生きていたかわいそうな魔女の生き残りってわけじゃないってことだよ。オレが知ってるだけで、あいつ2回も結婚してるんだぜ?」

「えー!?」

わたしは驚いてベッドから転げ落ちそうになった。


そうか、そうだったんだ。

わたし勝手に『復讐に全てをかけた孤高の魔女プリシラ』っていうイメージを持っていたのかもしれない。本当に失礼な話だ。


「あいつ、結婚式のときにドラゴンになって目から光線なんて出してなかったから、あんたも大丈夫だって。それでもまだ心配なら、正直にあの王子に言えばいいじゃねーか」

シャールのその言葉に、わたしはムキになって少し大きな声で言い返した。


「両目から光線を出しながら大暴れして、最後にはあなたを踏み潰すような嫁と結婚式を挙げる覚悟はあるかって聞けってこと?」


「そうだよ、聞いてみろよ」

「そんなこと言えるわけないでしょう、シャールのばかっ」


「あーめんどくせえぇぇぇ……花嫁衣裳を着るのが怖いなら、普段着で結婚式するか、いっそ式なんて挙げずに結婚すりゃいいとオレは思うんだが」


「嫌よ、結婚するんならドレスは着たいし、式も挙げたいの!でも怖いの……自分でもわかってるわよ、おかしなこと言ってるって。ほんとにわたし、どうしちゃったんだろう…エリオットにもきっと呆れられちゃったよね。目が覚めたらわたし、独りぼっちだったし」


そこまで言ったところで、エリオットの部屋へと続く扉がノックされ、わたしが返事をする前にエリオットが扉を開けて入ってきた。

「アリィ、ただいま。一人にしてすまなかった。ぐっすり眠ってると思ったからその隙に王宮に休暇の申し出をしてきたんだ。アリィが元気になるまでそばにいるから安心して。……アリィ?抱きしめてもいい?」


エリオットは困ったような顔で微笑みながらわたしを見つめていて、それがいたたまれなくて、わたしのほうからエリオットに抱きついた。

エリオットのぬくもりに触れるとまた涙があふれてくる。


「困らせてばっかりでごめんなさい」

「いいんだよ、これぐらいのことで呆れたりなんてしないよ。いつも言ってるだろう?もっと僕に頼ってほしいって」

エリオットはわたしの背中に手を回してやさしく抱きしめてくれた。


黒猫は、「あとは任せた」とでも言いたげな視線をエリオットに送った後、トンと窓辺に飛んでひなたぼっこを始めた。



********



昨晩は寝る前に温かいミルクティーを飲んで、エリオットに甘えて、わたしがぐっすり眠るまで多分エリオットは寝ずに様子を見ていてくれたんじゃないかと思う。

そのおかげかヘンな夢を見ることなくすっきりとした朝を迎えることができて、わたしは昨日はどうしても話せなかったあの夢のことを、ようやくエリオットに話してみた。


「仮にアリィが大きなドラゴンになるとしたら、きっと黒くて大きな目をしているんだろう?花嫁衣裳まで着てるんだろう?……かわいいと思う」


「かっ、かわいいわけないじゃない!ドラゴンだよ?目から光線出すんだよ?」

少し赤くなりながら言い返すと、エリオットはわたしの目をのぞきこむようにジーっと見つめた。


「ドラゴンにならないと光線は出ないの?それは光るだけ?それとも殺傷能力があるのか?」


「光線で建物を破壊していたから殺傷能力はあると思う。この姿だと光線は出ない……かどうかは知らないけど、試したくない」


「焼きいもかおにぎりでおとなしくなるんじゃないかな。きっと僕が立ちはだかって止めようとするよりも、はるかに効果がありそうな気がする」


「ちょ、ちょっと待って。光線の殺傷能力とか、焼きいもとか、わたしたち一体何の話をしているのかわかんなくなってきたんだけど」


「そもそもの論点がずれているのはアリィのほうだろう?僕は大真面目にそれに乗っかって解決方法を探っているところだよ」


向かい合って座るエリオットは、にっこり笑ってわたしのほうに手を伸ばし、両手を握ってきた。

「ねえアリィ、これからは大事な話をするときは必ずお互いの手を握るようにしないか。嬉しいときも、悲しいときも、怒っているときも、喧嘩するときもね。そうしたら、アリィの魔力が暴走せずに済むんじゃないかな」


いい提案だとは思う。

でも、引っかかることがある。

「喧嘩するときに手をつないでるっておかしくない?喧嘩にならなさそう」

そう言うと、エリオットはおかしそうに笑いながら

「それならそれで、いいじゃないか」

と言ったのだ。


ああ、この人にはかなわない。


そう思いながら、今朝、料理人のニコラスから聞いた話を思い出した。

奥さんに「結婚直前に突然結婚をやめたくなる病気があるらしい」という話をしたら、なんと

「あら、わたしもそう思ったことがあったわよ。あれって病気だったの?」

と言われたらしい。


ニコラスが驚いて

「ちっとも気づいてなかった」

と言うと、奥さんは笑いながら

「だって、私が思い悩みながら小さな声で『結婚どうしようかな』って言ったらあなた『ん?何か言ったか?結婚式楽しみだな、ガハハ』って言ったのよ。なんかもうそれで、悩みが吹っ飛んだっていうか、この人にはかなわないなって思って、あなたについていくことにしたの」

と語ったらしい。


いかにもニコラスらしい話だと思った。

そしていま、わたしのワケワカラナイ話に真面目に向き合いながら優しく笑ってくれるエリオットもまた、とってもエリオットらしい。

わたしの大好きな王子さま。



「……ねえ、エリオット、結婚式のあいだもずっと手をつないでいてくれる?」

わがままな提案をしてみると、エリオットはふわりと笑って

「もちろん」

と嬉しそうに頷いた。




結局エリオットはその後も丸二日間、休暇を満喫し、ドレスが完成した今日、試着のためにわたしとともに王宮を訪れて、そこで出勤再開となったのだった。


「おかげんが悪いという噂を小耳にはさんだのですが、大丈夫ですか?」

仕立屋の女主人に小声で心配そうに尋ねられたわたしは、笑顔で

「はい、軽症だったみたいです」

とだけ答えた。


ドレスに着替えて隣の部屋で待つエリオットの元へ行くと、エリオットはイスから立ち上がり、いきなりわたしのことを抱きしめた。


「アリィ、どうしよう。かわいすぎて誰にも見せたくない」


そんなわたしたちを見て、助手の若い針子さんたちがきゃーきゃー騒いでいるのを気にも留めず、エリオットはしばらくわたしのことを放してくれずに抱きしめ続けたのだった。




fin.


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