表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界召喚された直後に求婚されました  作者: 時継
番外編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/72

こたつとミカンとかつお出汁 2

朝食は村長一家とともに食べた。

白いごはん、トウフのミソシル、タクアン、卵焼き、川魚の塩焼き、というメニューだった。

アリサによると、これが故郷の朝食の定番で、ここにさらに「ナットウ」というおかずがあればパーフェクトらしい。


自分の席にだけフォークとスプーンが置いてあるのを、エリオットは「オハシを使いますので」と言って取り換えてもらった。


ルデルリーにいた頃、アリサに「オハシを作ってほしい」と頼まれて、職人に特注で作ってもらった。

料理や食事のときにその二本の木の棒を器用に扱っている様子に興味を持って、自分のオハシも作らせて使い方を習い、普段からよく使っていてよかった。


村長一家とアリサはミソシルを一口すすると、一様に「ほうっ」と息をついた。

アリサが「懐かしい!美味しい!」と言うと、村長の奥様は何度も頷いてついには泣き出してしまい、それを見たアリサもまた涙ぐんでいた。


ニボシは川魚で代用していたようだが、シャルダント共和国は内陸で海が遠いため、カツオブシの代用品はなかったらしい。


朝食に使ってもらったカツオブシはもちろん、昨日我々が持ってきた試作品だ。

この様子を見ると、アリサが以前言っていた「彼らはお金にはなびかなくても、カツオブシとニボシにはなびくかもしれない」という言葉は大当たりだったかもしれない。


確かに香り豊かで美味しいとは思ったが、「カツオ出汁」というものが、泣いて喜ぶほどにこの人たちの心を鷲掴みにするのだなあ…と、朝食の様子をどこか第三者的に眺めながら思ったエリオットだった。


圧倒的なアウェー感に居心地の悪さを感じつつも、ふと普段のアリサの様子に思いを馳せる。

自分も留学経験が長かっただけに、そういう寂しさはわかっているつもりだったが、たった一人でこの世界に突然やって来て、何もわからないまま頑張っていたアリサの居心地の悪さは、どれほどのものだったのだろうか。

同郷の人たちに出会えて、ともに懐かしい味の食事をとる喜びは、どれほどのものなのだろうか。


おかわりまでして満足げに食事をする幸せそうな新妻を、エリオットはただただ見つめ続けていた。



その後に始まった村長と我々の会談では、まずアリサへのコメの提供に対するお礼と結婚の報告を改めてしたあと、苗の提供と稲作全般および品種改良に関する知識と技術を貸してもらいたい、こちらはその対価としてカツオブシやニボシをはじめとする海産物を提供する用意がある、という交渉に入った。


交渉が白熱してくると、アリサと村長のやりとりが何を言っているのかわからなくなってきた。

どうやら母国語で話しているらしい。

アリサの言語は魔法による自動翻訳だと聞いているから、おそらく無意識のうちに母国語を話し、村長もそれに合わせているのだろう。


状況がよくわからないが、困ったことになったらアリサが助けを求めてくるだろうと思いながら営業スマイルだけは維持し続けた。

しばらくして、交渉が終了したらしく二人が立ち上がって握手をしたのを見て、エリオットも立ち上がり笑顔で村長と握手をした。


「無理にとは言わないから、こっちは何年でも待つから、みなさんでよく話し合ってゆっくり考えてほしいって言ったんだけど、どうなるかな」

昨日の到着が夕方遅くだったために見ることができなかった集落の外の様子を眺めながら二人で歩いた。

「いや、すごいよ。何を言っても頑なに断られることも覚悟していたから。引き続き交渉の余地があるってことだよね?さすがだね」

信頼関係をしっかり築くことが先決で、それが強固なものになればいずれは期待できる日が来るかもしれない。


「前にここに来たときはまだ雪が積もっていたんでしょう?」

「そうだよ。このあたりは雪で一面真っ白だった」

エリオットは、すでに収穫を終えている稲の畑(「タンボ」と言うらしい)をぐるっと指さしながら答えた。

「ここまで来る道にも雪が積もっていて迂回しながら来たから、たどり着くまでに二日近くかかったんだよ。あれは大変だった」


苦笑しながらアリサを見ると、アリサは不思議そうな顔をして

「わたしたちが初めてデートした後のことでしょう?たしかあのとき五日後に祝福の石(アクアマリン)のペンダントを受け取りにエリオットのお屋敷に行ったはずだけど、よく間に合ったわね」

と言うから、あのときのことを正直に話すことにした。


「実はあの家に戻ったのはあの日の早朝で、ぎりぎりだったんだ。アリィが来る時間までそのまま起きているつもりだったのに、不覚にもいつの間にか寝てしまってね。レイラが起こしに来てくれたんだよ」

アリサはあの日のことを思い出し

「そうか、そうだったんだね」

とつぶやきながら何度も頷いた。


「ありがとう、エリオット」


ああ、そんな嬉しそうな笑顔で言わないでくれ。

今すぐ抱きしめたくなるじゃないか。

しかし集落の子供たちがたくさん外で遊んでいる前でそれはさすがにダメだ。耐えろ。


「さてと、あとひとつやることを終わらせたら、帰ろうか」

アリサが張り切った様子で言う。

「やることって?」

と聞くと「んふふ」と笑って

「魔法陣のマーカーを設置するお許しを村長さんからもらったの!」

と元気よく言って、駆け出して行った。


魔法陣のマーカーとは、転移魔法陣の行先の目印で、出発地点の魔法陣に「あのマーカーまで飛べ」というコマンドを描くらしい。

アリサが魔法陣ラグマットでルデルリーに転移できるのも、ルデルリーの家の寝室の床にマーカーを設置しているから簡単に飛べるのだとか。


そうか、魔法陣でいつでも簡単に…。

どうりでやけにあっさり「帰ろう」という訳だ。

「帰りたくない」とごねられるより、このほうがよっぽどいいのだろうな。


マーカーを描き終え、黒猫を抱いて戻ってきたアリサに、複雑な胸中を悟られないように微笑んだ。


我々の見送りにたくさんの人たちが出てきてくれた。

馬車の中で食べられるようにと、おにぎりとミカンを持たせてくれた。

さらには結婚祝いということで、空になった荷馬車には今年収穫した新米をたくさん乗せてもらい、カツオブシの改良版が出来たらまた届けに来ることを約束してお別れとなった。


アリサは馬車の窓から顔を出して名残惜しそうに集落を眺め、見送りの人々はそんなアリサの姿が小さくなって見えなくなるまで手を振り続けてくれた。


泣きそうな顔をしているアリサをそっと抱き寄せると、ついに涙が決壊してしまったようで、アリサはひとしきりエリオットの胸で泣き続けた。

そんなアリサの背中をさすりながら、

「よし決めた。あの集落の言葉を僕も話せるようになろう」

と言うと、アリサが「ええっ!?」と驚いて顔を上げる。


「だって、あの集落の中でしか使えないし、難しい言語だと思うよ?」

「見くびらないでほしい、語学習得は得意なんだ。これから頻繁に行くことになるかもしれないんだろう?その時は僕も一緒だからね。あの集落のみんなと話せるようになっておきたいんだ。教えてくれるよね?」

エリオットの言葉に、アリサは嬉しそうに笑って頷いた。



「順調にいけば夕方遅くにはルデルリーの家に着くから、そのあとは魔法陣で…」

ミカンを剥きながら言うアリサの言葉を遮った。

「いや、今夜はそのままルデルリーに泊まって、明日二人で商業区でデートしてから帰ろう」

その提案に、アリサは顔をパッと輝かせた。


「じゃあ、あのケーキ屋さんに行きたい!……あ、でも…あの家のベッドは一人用だから足を伸ばしてゆっくり眠れないかも?」

考え込むアリサに「いいよ、大丈夫」とだけ答えた。

「今夜は寝かさないつもりだから」という台詞は、うぶな新妻には刺激が強すぎるかもしれないから、胸にしまっておく。


今夜は「愛してる」をアリサの母国語では何と言うのか教えてもらおう。

そして、アリサの耳元で、その言葉をささやき続けよう。



fin.


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ