処罰
あの事件から5日が過ぎた。
捕えられた罪人たちは異例のスピードで処罰を受けている。
ミランダは、わたしがエリオットの看病で必死になっている間に、すでに国外退去となり、サットンとともに母国へと送還された。
母国でどんな扱いを受けるのかは知らないけど、肩身の狭い思いをすることは間違いないだろう。
サットンと最後に挨拶できなかったのが心残りだった。
フィリスの身体能力を上げて速く走れるようにする魔法、風で人を動かしたり衝撃をやわらげる魔法、雷を落とす魔法、水晶鉱山からエリオットを担いで海神様が出してくれたと思われる魔方陣でこっちに戻ってきたときは、エリオットだけ重力を十分の一にするという魔法をかけた。
そうそう、これは余談だけど、重力を…の説明を省いて「わたしがエリオットを担いで戻った」と説明したせいで、「魔女怪力伝説」の新たな1ページが加わってしまったのが不本意だ。
話を戻して…あの日に使った様々な魔法は、後宮の中庭でサットンと遊んでいたときに身につけたものばかりだったのだ。
「早く走れるようになりたい!」「うんと高いところから飛び降りてみたい」「雷で成長がはやくなるキノコがあるらしいよ」「ふわふわ浮いてみたい」……
何を言ってるんだこの子は?と思うことも多々あったけれど、あのとき、サットンにケガをさせないように魔力を調整して思い通りに操れるように頑張ったことすべてが今回の役に立った。
ひとこと、そのお礼が言いたかった。
自分の母親を追い落とした魔女に、お礼なんて言われたくなかったかもしれないけれど…。
王弟ハリスの当初の計画はこうだった。
エリオットを水晶鉱山の崩落事故に見せかけて暗殺する。
それと同時に、魔女をおびき寄せて王宮の宝物庫から拝借した魔道具で魔力を吸い取って無力化する。
エリオットの悲報を聞いた魔女が後を追って自殺したと見せかけて、魔女を殺す。
海神様の祝福の石を奪い取り、救世主となった自分こそが王にふさわしいと国王様に譲位を迫る。
というものだったらしい。
あれこれ穴だらけな気がするのは、わたしたちが派手に活動して国民のみなさんからの人気も貴族たちからの人気も急上昇していたため、焦った末の強行だったんだとか。
その計画は、情報が古くてわたしの魔力量を見誤っていたせいで、あの水晶玉が耐え切れずに割れて魔力の暴発が起きてしまい、いきなり計画変更を余儀なくされた。
魔女が、エリオットにちょっかいを出すフィリスに怒って魔法を爆発させて攻撃してきた。
そしてフィリスを人質に離宮へと逃げたところで、ハリスが兵士とともに魔女をやっつけたものの、フィリスの命は救えなかった、というシナリオになったらしい。
ところがここでも誤算があり、フィリスが裏切って逃げて王太子に助けを求めたり、魔女のそばになぜか物騒な黒ヒョウがいて兵士が全滅し、魔力を使い切っていたはずの魔女が元気だったりと、何もかも上手くいかなかったようだ。
水晶鉱山でも誤算だらけで、執事のセバスチャンもエリオットとともに殺すか捕えて口封じする計画だったのが、鉱員たちにかばってもらって助かっていたのだ。
「不敬である」と言われて兵士が剣に手をかけたとき、鉱員たちが前に立ちはだかってくれたのだという。
そして、鉱山保安大臣と現場監督をみんなで囲み、
「俺たちの王子になんてことをしてくれたんだ、爆発の音が聞こえたぞ」
と迫り、崩落した土砂の中からその証拠となる爆弾の破片も見つけてくれたそうだ。
土砂を片付けて広場に救助に入ると、そこには首を切られてこと切れている護衛兵がひとりだけで、エリオットの姿はなく、大きな血だまりだけが残っていた。
当初の暗殺計画では、自然に起きた崩落事故のあと、閉じ込められた王子と兵士の間に何かがあり刺し違えて両方死んだというシナリオで刺客を放っていたが、敏腕と言われていたはずの殺し屋は王子の返り討ちにあった。
念のために待機させていた殺し屋の仲間は、王子の姿を見つけることができず、殺し屋の死体だけを持って急いで逃げた。
捕まった当初、罪を少しでも軽くしようとしたのか往生際の悪いことに、
「第三王子の暗殺計画までは知らない。賃金の一部を懐に入れたり、採掘量をごまかして私的に横流ししようとしていたことも知らない。現場監督と大臣が勝手にやったことで自分は関与していない」
とシラを切っていたハリスだったが、救助したエリオットのポケットから出てきた狼のモチーフのペンダトから「殺し屋ウルフ」の存在を割り出し、ハリスの側近がウルフと密談していた目撃情報を突き付けたところで、ようやく観念して認めたらしい。
ハリスは生涯、幽閉生活を送ることになる。
鉱山保安大臣や取り巻きたちも、本人だけでなく一族も含めて今後一線に復帰することはない。
フィリスは、父親を告発し、正直に洗いざらい罪を認めたことにより恩情を受け、幽閉などは行わず、王族からの廃位を言い渡された。
そして貴族の養子となり、そのまま留学することとなった。
こうして、王弟派は完全に壊滅したのだった。
これがたったの5日間で起きたことで、わたしは事件の事情を説明した時間を除き、ほぼずっとエリオットに付き添っていた。
エリオットを家のベッドに移したのは昨日のこと。
それまでは王宮内で医師からの手厚い治療を受けていたけれど、わたしの魔法で毒や痺れを毎日丁寧に取り除いたことで回復が早く、あとは本人の苦痛を取り除くために投与していた眠り薬の効果が切れたら意識も戻るだろうということで、家に連れて帰る許可が下りた。
「ガーゼを取り換えなきゃ、シャールも来て」
エリオットの寝着のボタンをはずし、首と胸に浅くと、左腕に深めに入った毒刃の切り傷を覆うガーゼをはがして消毒して薬を塗る。
「なあ、なんでオレまでそばにいないといけないんだ?」
シャールがあくびをしながら聞いてきた。
「だって、誰かいないと平常心を保てそうにないんだもの」
「………そいつ、そんなに悪い状況なのか?」
シャールが神妙な声になっているが、そうではない。
「…ちがう…そうじゃなくって、まさかこんな形でエリオットの…そのう…裸をね、見ることになるなんて思ってなかったから!」
「あんたなぁ」
「言わないで!わかってるから!大ケガを負って意識を失っている恋人の裸を見てどうこうとか、わたしおかしいよね。昨日までは必死に看病してて、周りに人もたくさんいて、ただただ心配なだけで、ガーゼを取り換える時も何とも思ってなかったんだけど、おうちに帰ってきたらエリオットの表情もすごく穏やかになって、いつ目を覚ましてもおかしくないかんじなんだもん。
そしたら急に恥ずかしくなってきちゃって…」
顔が赤くなっていくのが自分でもハッキリとわかった。
「わ、わかった。落ち着けって。そうだな、とにかく手当を早く終えて、早くボタンをとめようか」
「ああ、うん、そうだよね。平常心、平常心」
呪文のように唱えながら手当を終えてボタンをとめ直した。
ドキドキを止める魔法ってないんだろうか…?
エリオットの瞼にかかりそうになっている金髪をそっとかきあげた。
「エリオット、元気になったらまた一緒にこのベッドで寝てもいい?」
エリオットに聞こえていないからって、はしたないことを言ってしまった。
一人で恥ずかしくなって目を伏せる。
そのとき
「いいよ」
と聞こえたその声は、いつもよりかなりかすれていて…
驚きながらゆっくりと顔を上げると、そこには確かにわたしの大好きな笑顔があった。
視界が涙でみるみる歪んでいく。
「泣かないでアリィ。笑顔を見せて」
エリオットが手を伸ばし、涙を拭ってくれた。
「エリオット、よかった」
笑って見せたけれど、きっとさぞヘンな顔にちがいない。
エリオットはわたしの頬にあてたままの手を今度はわたしの後頭部に回して自分のほうへと引き寄せる。
6日ぶりの口づけは、ちょっぴり涙の味がした。




