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異世界召喚された直後に求婚されました  作者: 時継
第二部

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予期せぬ来訪者

使命感に燃えるレイラの胸中には全く気付かず、わたしは桶を抱えたまま、応接室へと入っていくエリオットの後を追った。



「エリアスお兄様っ」

聞こえてきたフィリスの声は、わたしと二人っきりで話したときよりもかん高くて甘ったるい。


「アリサ様が倒れられて寝込んでいるとうかがったのでお見舞いに来たのに、お兄様もアリサ様もいらっしゃらないんだもの。仮病だったの?もうっ」

「えっ、いや仮病じゃなく…」


エリオットの戸惑い気味の声も聞こえる。

あんなにしんどかった魔力の枯渇を、「仮病」で片づけられたらたまらないわ。


応接室をのぞくと、右腕に絡みつくフィリスにうろたえるエリオットの姿があった。

そんなエリオットと目が合う。

「あ…」


エリオットが何か言おうとする前に、フィリスが一瞬意地悪そうに笑って

「あら、アリサ様ごきげんよう、お元気そうですわね」

と言った。


しかし、わたしが顔だけのぞかせている体勢をかえて、応接室の入り口にきちんと立つと、フィリスのかわいらしい唇から「ひっ」と小さな悲鳴が漏れた。


「な、なんですの……その黒い気持ち悪いものはっ!」

わたしが抱えている桶を指さすその白い人差し指が震えている。


「フィリス様、ごきげんよう。これは昆布とわかめといって…」


説明しようとしたが、フィリスの耳にはわたしの声が全く入ってないらしい。

「エリアスお兄様、これ招待状です」

と言って、慌てた様子でエリアスに封書を手渡し、無言でわたしの横を小走りで通り過ぎて行った。

そんなもの見たくもない、という風に顔を背けながら。


へぇー、昆布って魔除けにもなるのね。

じゃあ、玄関に干そうかしら。

と半分本気で考えていると、エリオットがばつの悪そうな顔で「アリィ、ごめんね」と言いながらわたしに手を伸ばしてきた。


しかしその手でわたしを触ることなく途中でとめて、右腕の袖をくんくん嗅ぎ始め、眉間にしわを寄せると

「ごめん、着替えてくる」

と言って、2階へ上がってしまった。


エリオットの今の態度はなんだろう?

それに「招待状」の内容も気になるところだけど、まあいいか。

わたしは一刻も早く、この昆布とわかめの処理をしなければ!



「わかめはね、湯通しすると色が緑に変わるの。それが、わかめの証拠…だと思う」


わたしが厨房で、ニコラスに海藻の説明をしながら水洗いしたり、わかめを大鍋でさっと湯通ししているあいだずっと、着替えをすませたエリオットが何か言いたげにこちらを見ていた。


フィリスとベタベタしていたことに関して申し開きがしたいんだろうなぁとは思ったけれど、こっちはこの作業を早く終えて、夕飯のエビピラフにも取り掛かりたいのだから、かまってあげられない。


それとも、そっけない態度でエリオットと目も合わさずに作業を続けるわたしは、自分でも気づかぬうちにフィリスとエリオットに腹を立てているんだろうか。

いや、怒りではなくて嫉妬か。


わたしもあんな風に無邪気にエリオットに抱きついたら、喜んでくれるのかな…。


手を止めてエリオットを振り返ると、目が合った。

「ねえ、エリオット」

「ん?」という顔でイスから立ち上がってこちらへ近づいてくるエリオットに

「海藻干すの手伝ってくれる?」

と言うと、エリオットはパッと笑顔になって「もちろん」と嬉しそうに言った。


どこにどう干すか検討した結果、厨房の天井の梁にヒモを括り付けて、そこに引っ掛けて干すことにした。


こういう作業は背が高くて手も長いエリオットに頼むに限る。

とはいえ、王子様に海藻干し作業を手伝わせるだなんて…これもエリオットのかわりに出勤しているセバスチャンには内緒にしておいたほうがよさそうだ。


「わたし、色気もかわいげもなくてごめんね…」


あら、思っていたことが、思いがけず言葉になって出ちゃったわ。


「アリィは食い気が一番なのは確かだけど、それもひっくるめてかわいいけど?」

エリオットが、何をいまさらという顔で言う。


それ、喜んでいいのかしら。


「僕にとってはアリィの全てがかわいくて、大好きだよ」


ああ、キラキラな笑顔でそんなことを言うのは反則だ。

いつも素直に愛情を口にできるエリオットはすごい。

それとも、そういう国民性なのか?


「……ありがと」

突然火照りだした顔を見られるのが恥ずかしくて、ここが厨房であることも忘れて、うつむきながらエリオットに抱きついてしまった。


するとエリオットは、数秒動かなくなったと思ったら、いきなりわたしを強く抱きしめ返してきた。


「ああもう、アリィはずるいな」

何がずるいのかよくわからなかったが、わたしの耳元でささやくその声はとても嬉しそうだ。



厨房でエビピラフの仕込みをしていたニコラスは、そんなわたしたちのことを見て見ぬふりをしながら、笑顔で背を向けてくれていた。



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