魔力を持って生まれた子
遅めの朝食をとったあと、エリオットの部屋で一緒にのんびり過ごした。
いつもならば、午前中は相変わらずレイラやニコラスの仕事を手伝っているのだけど、今日はレイラに「お嬢様はゆっくりお過ごしくださいませ」とピシャリと拒否られてしまった。
もうすっかり元気なんだけどなあ。
そしてエリオットは、隣に座ってわたしを抱き寄せたり、わたしの髪の毛をさわったり・……それはもはや、わたしを労わっているのではなく、ひたすらわたしに甘えている雰囲気だった。
わたし、無意識のうちにエリオットに対して、わたしに惚れさせる魔法でもかけているんじゃないだろうか、と不安になるレベルだ。
わたしは一旦このベタベタモードから解放してもらうために、昨日の魔石の部屋にいた男の子の話を切り出した。
「昨日連れて行かれた部屋に、まだ7、8歳ぐらいの男の子がいたの。あの子も魔力があって、家族から幼いうちに引き離されて、あそこで働かされているの?」
エリオットが少し顔を曇らせながら姿勢を正す。
「滑稽だろう?魔法・魔女排除って声高に叫び続けている国が、裏で魔法に頼らざるを得ない部分を遺していて、それをひた隠しにしている。
王族も特権階級の貴族も、あれは『必要悪』だと黙認しているんだ。魔力を持つ子がいるという噂を聞けば『本来ならば処刑だが、魔力が枯れるまで王宮で面倒をみてやらんでもない』と恩着せがましく言って召し上げるんだ。それ相応の口止め料を支払ってね」
「うん、それは王太子殿下も言ってた。本来ならば処刑のところを報酬まで支払って有効活用してやってる、って」
わたしが指で両方の目じりを釣り上げてランドールの顔真似と口真似をしながら言うと、エリオットがぷっと笑った。
「兄さんがあの部屋の管理を任されるようになってからは、彼らもかなり自由になってね。家族にも定期的に会っているはずだよ。
知っての通り、この国は魔力を持って生まれてきた子にとっては生きづらいんだ。
本人とその家族が魔力のことを隠していても、そうと自覚のない無邪気な子供が使った魔法でバレるってことがよくあるらしい。
そうなると、突然つまはじきにされたり、親が仕事をクビになったり、ヘタすると家に火をつけられる。それを防ぐ目的もあるんだ………というのは、この矛盾した状態を正当化して納得させるための言い訳なんだけどね」
「そうね、ただの言い訳にしか聞こえない。でもそれなら王太子殿下もそう説明してくれたらよかったのに」
「王宮はどこで誰が聞き耳を立てているかわからないんだ。王宮周辺では魔女排除はとっくに形骸化していて、ただの権力争いの道具でしかない。
革新派と保守派の派閥争いとか、何か都合の悪いことがあれば『魔女の仕業』『魔女に操られていた』でごまかしたり、それを理由に競争相手を失脚させたりね。
国王や王太子が突然、魔女擁護に動き出せば、足元をすくわれてしまいかねないんだよ」
エリオットが激務をこなしていたこの1カ月、具体的にどんな仕事をしていたかと言うと、各領地から王太子宛に届く嘆願書の仕分けだという。
内容を確認して緊急度、重要度が高いものから順に並べなおし、必要ならば内容に関して調べてメモをつけて王太子に渡すという。
中には、王太子宛の恋文や匿名の脅迫文もあるらしい。
「1通1通に目を通していると、いまの国の状態がよわくわかるんだ。まだ何もできない立場だけど、兄さんを支えて豊かな国にしたい」
本音と建て前、根回し、経験不足、信頼のおける人物を見抜く審美眼…エリオットはいま、いろんなジレンマに苛まれながら懸命に頑張っているところなのだと、改めて気づく。
「うん、あの男の子が早く家族の元に戻って、差別を受けずに暮らせるような、そういう国にしてほしい」
わたしたちは互いの顔を見つめて、微笑みあった。
そこまではよかったのだけれど、わたしがつい、魔女と人間の間に生まれる子はやっぱり魔力が強いのか、という素朴なギモンを口にしたがために、さっきまでムズカシイ顔でムズカシイ話をしていたエリオットが、甘々ベタベタモードに戻ってしまった。
「アリィは気が早いな。僕たちの子供の話かい?何人でも欲しいな」
そう言って、再びわたしの肩を抱き寄せる。
いや、違うから!そういう話じゃないから!
なんて切り替えが早いんだ。
「僕たちに娘が生まれたら、その子は魔女だよ」
エリオットが話を続ける。
「息子だったら、魔力の量はいろいろだな。全くない場合もある。でも、その息子が結婚して娘が生まれたら、魔女であることが多い」
なるほど、隔世遺伝ってやつか。
わたしはコクコク頷きながら話を聞く。
「魔女はね、人間よりも長生きだから、昔は夫に先立たれた魔女は街を離れて森の中で暮らすことが多くて、それが『魔女の集落』『魔女の森』って呼ばれるようになったらしい」
わたしは思わずエリオットから体を離した。
「エリオットも先に死んじゃうの!?」
「アリィは異界人だから、どうなるのかちょっとわからないけど、僕たちが普通に寿命を全うできたらそうなるだろうね」
エリオットは意外にも冷静だった。
置いて行かれるわたしは、それでは困る。
「未亡人になった後、また新しい伴侶を見つけて結婚する魔女もいたようだよ」
「わたしはエリオットだけでいい」
思わず言ってしまって顔が熱くなる。
わたしいま、とんでもなく恥ずかしいことを言ってしまったかもしれない。
エリオットの顔を見ると同じように赤くなっていて、次の瞬間、強く抱きしめられた。
「ああ、もう。アリィは煽るのがうまいな」
声がとても嬉しそうだ。
寿命がどうとか、どっちが先立つかとか、今から思い悩むことでもないわよね。
エリオットのさっきの話によれば、国王様もランドールも表立っては明言していないけれど、魔女養護派だ。
それならば、いずれわたしたちの結婚も許してもらえるだろう。
エリオットの胸のぬくもりを信じて、わたしも頑張ろう。




