充電完了
眠っている間、ずっとあったかいものに包まれているようだった。
カーテンの隙間から差し込む明るい光で目を覚ますと、すぐ近くにエリオットの顔があって、そのことに気づいた途端、心拍数が跳ね上がった。
そうだった。わたしが寒がるから、エリオットが抱きしめてくれたんだっけ。
一晩中ずっとこうしてくれていたの?
エリオットの無防備な寝顔をしばし堪能した後、自分の手と髪の毛を見て、おばあちゃんになっていないことを確認した。
ああ、よかった!
ガタガタ震えるほどの寒気もないし、わたし、もしかしてすっかり元気なんじゃないかしら。
きっと、エリオットがずっと抱きしめていてくれたおかげね。
これからは、魔力を使い過ぎたときはエリオットにギューしてもらおう。
エリオットが目覚めるまでもう少し甘えさせてもらうことにして、わたしはエリオットの胸に顔をうずめた。
そうしているうちにまた眠ってしまったらしく、次に目が覚めたのはエリオットが動いたときだった。
目を開けると、エリオットはベッドに腰掛けてわたしを見ていた。
「おはようアリィ。顔色がずいぶんいいね」
そう言ってエリオットはわたしの額に口づけた。
「おはよう。エリオットのおかげで、もう元気よ。ありがとう」
と言って起き上がってみせると、
「無理しないで」とエリオットに抱き寄せられる。
「僕も最近、疲れがたまっているせいか妙な夢を見ることが多かったんだけど、きのうはアリィのおかげで途中からはぐっすりだったよ」
そして、昨日何があって倒れたのかを聞かれ、たくさんの石に魔力を注ぎ込んだとこを話した。
本来ならば何日もかける作業とは知らず、一気に終わらせてしまって帰り道はフラフラだったと告げると、エリオットは険しい顔になった。
「なんで兄さんは途中で止めなかったんだ。大体、そんな大事な作業のことを僕には告げずに勝手にアリィを連れて行くだなんて」
「違うのよ。わたしがよく知らなくて、ペース配分を間違えただけだから」
ランドールをかばうつもりはないが、こんなことで兄弟喧嘩されても困る。
「王太子殿下は、エリオットにわたしを呼びに行かせようとしていたの。そこにわたしがノコノコ来ちゃったものだから順番がおかしくなったっていうか、エリオットも来客中だったみたいだし……」
昨日、エリオットのそばにいたフィリスのことを思い出した。
「そうだった。フィリスのことを謝らないと」
エリオットが頭を抱える。
どうやらエリオットもフィリスのことを思い出したらしい。
フィリスは王弟殿下の娘、つまりエリオットやランドールにとっては、いとこにあたる。フィリスの母親はフィリスが赤ちゃんの頃に病死していて兄弟もいないため、子供のころからエリオットたちが兄弟代わりによく一緒に遊んでいたらしい。
歳はわたしよりひとつ下の16歳で、花嫁修業真っ最中。
会うのは1年ぶりで、そのときはフィリスがわざわざエリオットの留学先のルデルリー王国まで訪ねて行ったらしい。
その頃はまだ幼い印象だったのに、昨日久しぶりに会ってみたら大人っぽくなっていて、そのくせ幼少期と同じようにじゃれてこようとするから戸惑った。
ただそれだけだから、安心してほしい。
エリオットは冷や汗をかきながら釈明して「許してください」と、わたしに頭を下げた。
わたしは、ぷっと笑いながらエリオットの頭をポンポンした。
「エリオットの愛情を疑ってなんていない。わたしの方こそ昨日あんな態度をとってごめんなさい。自分に自信がないだけなの」
そして、わたしは一旦深呼吸すると、エリオットに頭を下げた。
「わたしのほうこそエリオットに謝らないといけないことがあるの。わたし、自分が魔女っていう自覚がないままエリオットと契約しちゃったの。ごめんなさい。穏便に解除できる方法がないか考えるから、それまで我慢してね」
数秒の沈黙の後、エリオットのかすれた声がした。
「え…それは、僕と結婚したくないってこと……?」
顔を上げると、エリオットが青ざめて呆然としている。
わたしは慌てて訂正した。
「ううん、そういうことじゃなくて…だって、嫌でしょう?魔女との契約だなんて」
「ほかの魔女に騙されて知らないうちに契約を結んでいたなら困るけど、アリィとの契約で何か困ることあるの?」
「えぇっ!?あるでしょう?」
「ないよ?だって、自ら進んで契約を結んでしまおうかと思ったこともあったぐらいだし」
は?エリオットが自らわたしと契約を結ぼうとした?何の話?
「ねえ、なにそれ?何の話?」
そこへノックの音がして、セバスチャンが入ってきた。
ランドールに「アリサさまが昨晩倒れられたので、おぼっちゃまは看病のため数日間休暇をいただきます」と言いに行ってくれたんだとか。
ランドールは「そうなるだろうと思っていた」とだけ言ったらしい。
だったら、わたしが調子に乗って石にチャージしまくるのを止めなさいよっ!と思ったが、数日間の休暇を許可してくれたからこっちも許してあげるわ。
セバスチャン、グッジョブ。
セバスチャンが退室したあと、中途半端になってしまった話を思い出しながらエリオットを見る。
「とっくに死ぬ覚悟はできているって言っただろう?僕のこれからの人生は、アリィ無しでは考えられない。わかってもらえないなら何度でも言うよ。アリィのことがどうしようもなく好きでたまらないって」
エリオットの、突き刺さるような真剣な眼差しと言葉に溶かされそうになりながら、小声で
「ありがとう。わたしも大好き」
と返すと、エリオットはホッとしたように笑ってわたしを抱きしめた。
「よかった。アリィに契約解除の話をされたときはてっきり別れ話を切り出されたのかと思った」
「まさか!それだけは絶対にありえません」
わたしたちはお互いちょっぴり情けない顔で笑いあった。
「ねえ、エリオット、今日海に行ってみたい」
とお願いしてみたら、エリオットに渋い顔で却下された。
「だめだ、今日は外出禁止。おとなしく体を休めて、大丈夫そうだったら明日行こう」
「大丈夫だって。ほら」と言って、エリオットから体を離し、立ち上がってぴょんぴょん飛び跳ねて見せたのだけど、
「だーめ、今日はおとなしくすること」
とエリオットは言いながら立ち上がり、再びわたしを抱きしめた。
ああ、残念。
エリオットのおかげで、もうフルチャージ状態だと思うんだけどな。
ね、シャール、そうでしょ?
と窓辺に寝そべっていたシャールに目で訴えると、シャールは
「知らね」
とだけ言ってあくびをし、プイッと横を向いてしまったのだった。




